プロローグ2 その日
今回は当時の樹の記憶と、後語りの樹のセリフがごちゃごちゃかもしれないです。
執筆力の低さを嘆くばかりでござる。。。
「んで、お前はどうしたいわけよ樹君?」
鋭い目つきのままニヤリと笑い、この状況を誰よりも楽しんでいる様子で宗次は問いを投げかけてくる。
「このまま幼稚園の頃と何も変わらずにこの先もやっていくつもりなのか?」
それでも楽しみながらも投げかけてくる質問は僕の核心に迫ってくるものだったわけでして。
「宗次、僕はこの先どうするべきだと思う?」
「うーん、そうだな。ここはやっぱり、1.告る 2.告る 3.告るの中から選ぶんだな。」
「やっぱお前楽しんでるよなこの状況!?」
相談相手を間違えたとか考えてても、事情を知ってるのはこいつしかいないから、黙ってこいつの悪ノリに付き合うしかないのが実に苦しいところ。ああ、嘆かわしや。
「でもさー、男女2人で遊ぶ間柄だなんて向こうからするとかなり冒険してるよな。」
「と申しますと?」
「他の男子とは挨拶交わす程度しかしないのに、お前とは2人で遊びに行ってるんだぜ?冷静に考えて、これってもう向こうが遠回しに「好きだよ樹君♡」って言ってるようなもんだろ。」
「そ、そうかな!?やっぱりそういうことかな!?僕、脈ありってことなのかな!?」
「・・・お、おう。そうだなきっと。」
宗次が若干引き始めていたが、頭がヒートアップした僕にとってはアウトオブ眼中である。しかし、宗次にとってはそんな状態の僕の手綱を握ることなど朝飯前なのである。
「本当はお前がまだそのステージに達してないって思ってるだけで、伊理夜の頭の中ではすでにカップル状態かもしれないぜ!?」
「ま、マジか!???まだ付き合ってないと思ってたの僕だけか!?」
「伊理夜ちゃん、本当は告白なんかよりももっと先のことを望んでいるかもしれないぜ?」
「も、もっと先のこと・・・先のこと・・・先のことおおおおおお!!!???」
当時僕が考えていたことをあえて言葉にするのは避けよう。ヒントだけいうと、当時の僕たちはまだ中学生だったということだね。
「お、おい宗次。これは男として僕が一肌脱ぐべきだよな?」
「当たり前だろ。女の子からだなんてもってのほかだ。」
「や、やるぞ俺は・・・。今日、僕は男になるんだあああああああ。」
すでに時刻は午後7時過ぎ。家の近くのファミレスでの作戦会議は、僕の完全暴走と共に幕を閉じた。
ここで日を跨いでおけば、あるいは未来は変わっていたかもわからないのに、暴走機関車天梨にはバラ色の未来しか見えていなかった。
* * *
「ピンポーン」
辺りを静寂と暗闇が支配する中、甲高いインターホンの音が響く。その家の表札には「伊理夜」の文字。そしてインターホンを鳴らしたのはもちろんこの僕、天梨樹である。
ファミレスで宗次と別れた僕は、そのヒートアップした頭を冷やす間もなく勇み足で玲那の家を訪ねていたのだ。
「どちら様ですか?」
インターホンの向こうから、何度聞いても思わずドキッとしてしまう声が聞こえる。
「玲那ー、僕だよ、樹。今外出てこれるかー?」
平静を装ってるかのように見えるが実は相当緊張していた。この時の僕は平静な思考回路を持っていなかったことがこの時点ですでにわかる。
すると、家のドアが開き、1人の女の子が現れた。カジュアルな白いニットのセーターに、黒いミニスカート、ニーソというコーディネート。肩まで伸びているミディアムロング(といえば伝わるだろうか)の髪に今日は白いヘアピンが存在感をアピールしていた。いや、マジで天使でしょ。家にこの格好してる女子いたら、もう平常心保ってられないよ?同居始めたカップルってどうしてるの本当。
「どうしたの樹君?夜に私の家に来るなんて珍しいね。何か急用?」
落ち着け天梨樹。今日は一世一代の大イベントだぞ!とか思っていました、はい。
「ちょっと今から散歩しない?ちょっと受験勉強で疲れちゃって。」
「・・・ふふ、いいよ。私も少し夜風に当たりたい気分だったし。」
いつ見ても思うが、玲那の笑顔は常に僕の息の根を止めようとさせるくらいの破壊力があるなあ。
* * *
緊張のあまり、そこに行くまではどんな会話をしたかも覚えていない。ただ一つ覚えているのは、僕の頭の中はどうやって想いを伝えるか、どうやってその場所まで連れていくかしか考えていなかった。
「樹君?」
「・・・・・」
「もしもーし?」
「・・・・・」
「樹!」
「は、はい!」
「もう、いつもそうやって急に自分の世界に入っちゃうんだから。」
そう言いながら、いつの間にか玲那は俺の目の前に立って、俺の目を正面からまっすぐ見据えていた。
「ご、ごめんごめん。ちょっと考え事してた。」
なにこれ。反則級な可愛さだろ。
「珍しく随分と悩んでるみたいだね?」
「まあそりゃこれから一大イベントが待ち受けてるわけだしねえ。」
一大イベントの内容は、僕らの間で大きな違いがあるだろうが。
「かれこれ30分以上歩き続けるほどだもんね。」
そう、もう僕たちは伊理夜家を出発して30分は経過していた。辺りは閑静な住宅街から一変し、都会の街並みへと一変していた。僕の目的地まであと少し。あとはここの路地裏に行けば・・・。
「樹君、気持ちはわかるけどそろそろ帰らない?もう遅いし、ここら辺は私たちがいていい場所じゃないよ。」
あたりをキョロキョロと見渡す玲那は顔と声を引きつらせて、こっそりと耳打ちして僕にそう告げた。
玲那もこのあたりの地理にはそれなりに詳しい。僕たちの足先がどこを目指そうとしているのか薄々気づいてはいたのだろう。
「いや、この先が僕らの目的地だよ。」
そう言われて足を止めた玲那は、改めてあたりを見渡す。
やたらと不気味な色でキラキラと光る建物。やたらとギラついた眼差しで通行人の品定めを行う、ガラの悪そうな男たち。
そんな周りの様子に、引きつっていた表情を段々恐れの感情へと変化させていく玲那の顔。僕も実際に来たのは初めてだったから動揺はしている。しかし、漫画やアニメの世界だけだと思っていただけに、実際自分の目で見ると驚きを隠しきれない。
「ちょ、ちょっと樹君?ここって・・・?」
「見ての通り、ホテル街だね。」
「見ての通りって・・・。いったい何考えているの?」
玲那の声が徐々に震え始めているのに気づいていればまだ思いとどまることができたかもしれない。「あ、間違えちゃった」なんて言って、家に帰ることもできたはずだ。
だがすでに頭は正常に働こうとはせず、周りも見えていなかった僕は、
「玲那、僕を男にしてくれないか?」
その決して言ってはいけない言葉を発していた。
* * *
それからは本当に一瞬だった。
彼女は恐怖と怯えで身体が震えていた。顔が完全に恐怖と拒絶の表情で満ちていた。その表情は僕も初めて見る顔で、僕のことを完全に怖がっている顔だった。
「私に近づかないで!嫌だ、来ないで!」
「なんで?玲那は僕のこと好きなんでしょ?好きだから2人でよく遊びに行ってくれてたんでしょ?じゃあなんで僕を拒むんだよ?」
「今日の樹君やっぱり何かおかしいよ・・・?」
「おかしいのは君の方だよ。僕は君が好きで君は僕が好きなんだ。なら何も不思議なことじゃない。おかしいことなんて何もない。さあ、行こう?」
「嫌に決まってるじゃない!そういうのじゃない!私は・・・。私があなたのようなケダモノなんて絶対好きになるわけじゃない!」
この時、僕の中で何かが壊れた音がしたのを今でもよく覚えている。彼女の拒絶はただの照れ隠しであり、僕がエスコートしなくてはいけないという、あまりにも自分勝手に稼働していた僕の頭。しかし、彼女の完全な拒絶を示すこの一言は、僕を現実へと連れ戻した。でも、それはもうすでに手遅れで。
彼女が涙を流しながら、僕に背を向けて来た道を走っていく。その姿を見てようやく現実にかえってもそれはもう手遅れで。
僕はこの日を忘れたことはない。僕がこの日に犯した過ちを忘れたことは片時もない。今でも事あるごとに夢に出てくるんだ。8年が経った今でも、あの時の玲那の顔が脳に貼り付いて消えてくれない。
そんな黒歴史を背負って生きていくのも、もう終わりだけどな。
プロローグ終了です。こんなに長いプロローグにするつもりはなかったのになんか長くなりました笑。今のところなんかシリアス展開が多いですね。次話から急にストーリーが明後日の方角に飛んでいくのでよろしくお願いします。