2-5 最強の砦、お爺
「はっはっはっはっは!!!こりゃあ傑作だ!!!はっはっはっはっは!!!」
「ひ、姫!?今なんとおっしゃったのですか!?」
「え、だからどうやったら勇者様のこと好きになれるのかとお尋ねしたのですが・・・?」
「おい聞いたか爺よ!?プロポーズされた相手のことをどうやったら好きになれるかって俺らに相談してきたぞ!普通、順序が逆だっつーの!はっはっはっはっは!!!」
「いや、まずプロポーズとはいったいどういうことですか!?この爺、そのような話は一度も聞いておりませんぞ!?というより、なぜよりによってこの男なのじゃ姫!?なぜこのような得体の知れぬ変態を」
「まだ変態言うか爺さん!?てかこの状況に混乱してるのは僕も同じなんで余計なことを詮索しないでください。」
姫様の衝撃発言から数分。姫様が「こういうことならお父様に聞くのが一番手っ取り早いですわ!」とか言いだして、僕の手を引いて王様の部屋に向かって走り出し、そしてその途中で火球によってこんがり肉みたいになった体で、爺さんの肩を借りながら部屋に退散している王様を発見したといった状態である。
まず、プロポーズもしてないし、する前にフラれたし、かと思ったら結婚したいから好きにならせてください的なことを言われ・・・もう勝手にしてくれ。
「あーそうか。爺、マイヤとタツキを結婚させるからよろ。」
「よろ!じゃないわ!お主、自分が一体何を言っているのかわかっておるのか!?自分の娘の結婚の話じゃぞ!?そんなあっさりと承諾してよいと思ってるのか!?こんな昨日タイムスリップしたとかほざく小僧と愛娘を結婚させるつもりなのか!?」
「えー、だってマイヤとタツキが結婚したら楽しそうじゃん?こんないじりがいのある奴が俺の息子になったら退屈しねえって絶対!」
「たわけ!冗談も休み休み言え!姫の婿になるということは、お主が死んだ後にこの国を治めるものになるということじゃぞ!?お主がそんな簡単にその場の気分で決めてよい話ではないんじゃ!」
「大丈夫だって!こいつがマイヤと結婚したら、王族血合でマイヤの魔術適性がタツキにも扱えるようになるんだし、間違いなくこいつは王族最強の座を引き継いでくれる!」
「だから、そういう話ではないと言っておろうが!そもそもお主、自分がかつてそれをして何が起こったか・・・」
「ちょ、ちょっとタイム!その王族血合ってなんですか?」
言い合いの中で突然出てきた謎の四字熟語が僕の思考を遮った。それ以前に、冷静に考えると僕は、一つとんでもなく大きな見落としをしていたことに気が付いた。
なんで僕は姫様と結婚することで最強の魔術師になれるという、どう考えても接点のないこの二つの事象を、さも当然のごとく結びつけていたのだろうか。この世界の結婚というものは力の継承なんてものができるなんて言う謎の思い込みでもあったのだろうか。
「あれ、お前にはまだ説明してなかったか?何もない凡人であるお前が王族になるには、まあ儀式みてえなもんが必要なんだよ。ま、いきなりマイヤと結婚したら力が備わるなんてそんな都合のいい話はさすがにねえってことだ。」
「おまけにその儀式には勇者様と私の二人きりで挑まなくてはいけないんですよ。その儀式場に行くまでにいくつか試練があるので、それを見事に乗り越えないと王族血合はできないというわけです。」
「こんな非力な小僧が王族血合なんて成しえるわけがないだろう!?犬っころを肉食獣の檻の中に放り込むようなものじゃ!かつてそれをしようとして、自分の身に何が起こったのか忘れたわけではあるまいな若!?」
「・・・はっはっは!忘れたなそんなこと!!ま、まずはマイヤの相談事を解決してやるのが先じゃねえか?」
「あのー、その話って僕も聞いていた方がいいんですかねえ・・・?」
どうやったら自分のことを好きになってもらえるかなんていう、本人にとっては新手の地獄のような世界にいたくないんだが。あえて意識して無理やり好きになってもらっても正直全く嬉しくないんだけどなあ。いや、こんな超絶美少女にこんなこと言ってもらえるだけで本来ならもう死んでもいいレベルの幸福なんだろうけどさ。
「そりゃそうだろ!よりマイヤに好かれるための努力をするには、お前もこの話を聞かねえと話になんねえだろうが。」
「は、はあ。すいません」
どうやら謎の一喝のせいで僕はここから逃げ出すことはできなくなってしまったようだ。恋愛のことになると、途端に熱血漢になるなこの王様。いやまあ娘の結婚相手に関する話に熱くならない親はいないか。
* * *
「まずはだな、自分の心に問いかけるんだ。自分は相手の人のどういった部分がいいと思うのか。」
「は、はい!勇者様は・・・。勇者様のいいところですか・・・。いいところ・・・。うーん・・・。わかりません!」
「絶対僕に興味ないよね!?もういっそのこと振ってくれてもいいんですよ!?」
「ほれ見ろ。お主が姫様の婿になるなど1億年早いわこの青二才が。自惚れるのもたいがいにするんじゃな。」
「いちいちうるさいなあ!釣り合ってないことくらいわかってるから黙ってろよジジイ!」
場所を変え、ここはようやくたどり着いた王様の部屋の中。王様と姫様は二人で向かい合って座り、真剣な様子で親子相談中です。一方、その輪の中から弾き出された僕とそこの口が達者な爺さんは、ソファに腰かけ、親子同士の会話に耳を傾けながら、意外に初めてだった爺さんとの二人きりトークを繰り広げている。まあトークだなんて優しいものじゃないのは口調から見ても明らかなわけなのだが。
「それにしても、いくら力を得るためとはいえ、よくもまあ姫様にプロポーズなどという恐れ多い真似ができたのう。普通ならば、そのあまりの恐れ多さに震え上がり、恐れおののき、挙句の果てには死を選ぼうかと考えるものだろうに。」
「いやそれ一生姫様結婚できないからね?それに僕まだプロポーズできてないからね?」
もっと言うと、姫様の部屋に侵入した時点ではプロポーズする気すらもなかったからね?
「王族になるというのは、それほどの覚悟と信念が必要だということじゃ。それがなんじゃ、タイムスリップしてきたなどと抜かす右も左もわからぬひよっこごときに」
「あーもうわかったから!もうその手の文句聞き飽きたから!」
「とにかくわしは認めぬぞ!そもそもお主にこの国を治めることなど不可能じゃ!家柄も謎で、ルックスも地味、実力はない、これでいったいどうやって将来この国を治めていくというのだ!」
「知りませんよ!だから言ってるじゃないですか!これは勝手に王様が言い始めたことであって、いきなりこの国の人じゃない僕に、この国の王様になってくれだなんて、勇者になる以上に意味不明でしょ!?」
初日で勇者になる運命にされて、次の日にはこの国を統べる王様になる運命にさせられそうになってる僕の心中誰か察してくださいよ!それでいきなりキレられてもどうしろってんだ。展開が急すぎるわ。
「ならば辞退すればよかったではないか!どうしてお前は常に自分は被害者だとでも言わんばかりなのだ!?全て自分が決めたことじゃろうが!それもこちらは常にお前を気にかけて提案していることばかりだというのに、お前から出る言葉はいつも不満ばっかりだ!ふざけたことを申すのも大概にせい!」
「あんたに僕の気持ちの何がわかるって言うんですか!?こんないきなり訳の分からない世界に飛ばされて、帰る方法もないし、しょうがないから必死にこうやってこの世界のことを知ろうと努力してるんじゃないですか!」
「努力などと言うが、お主一人でいったい何をしたって言うんじゃ?わしが何も知らないとでも思っておるのか?今こうしてお主がでかい口を叩けるのも、若や姫のご厚情によるところだということをお前は理解しておらんようじゃな!?
「そ、それは・・・。」
「お前がここにおれるのは、若がお前の話を親切にも信じてくれたからじゃ。若がお前に勇者になれなんて言ったのは、そういう大義名分を与えることで、お前を王宮に住まわせてやることができるようになるからじゃ。お前が努力したなどとほざいている内容は全て、若と姫がいなければ何もならなかったことばかりではないか!それで今度は戦う力が欲しいとお願いしたら、姫と結婚させてやるじゃと!?こんな至れり尽くせりなんて言葉じゃ言い表せんほどの提案なのに、いつもいつも口を開けば不平不満しか飛び出してこない。その無礼極まりない態度、たとえ若や姫が許しても、このわしだけは絶対に許さんからな!」
「・・・・・」
何も言い返すことができなかった。この爺さんが言っていることが完全に正しいと、完璧に理解できてしまった。確かに僕は、この二日間トラブル続きで訳が分からないことがたくさん続いていたが、最初を除けば、何一つ不自由なんてしてこなかった。傍若無人で勝手なことを言いまくると罵っていた王様に、あらゆる面で僕の生活を支えてもらっていた。依存しまくりなのに、気づけば感謝の一つも言っていなかったように思う。さもこの待遇が当然のことのようにこの現状を享受していたのではないか。
いかん、このままでは2次元の世界でよく見るヘタレ最低主人公の仲間入りをしてしまう!
「あ、あの・・・」
「ふん、ようやく自分の罪深さに気が付いたか青二才。」
「わかりましたよ、ええ、よくわかりましたよ!いかに自分がこの二日間腐った人間だったかをねえ!」
「いや、なんで逆ギレしとるんじゃ。」
「でもねえ!散々、王様と姫様におんぶにだっこでも今はその親切心に甘えるしかないんですよ!みんなの助けがいらなくなるまでにまだまだ時間がかかっちまうわけですよ!爺さんが言う通りの迷惑かけまくりで、得体が知れなくて、頼りない青二才をもう少しだけ続けさせてもらわないといけないんですよ!態度は改めます!でもお願いですから、もう少しだけこの王宮で世話していただけませんか!?」
まさか、異世界なんかで、人生初めての土下座をすることになるなんていったい誰が想像しただろうか。いや、それでもここは誠意を示しておかないと取り返しがつかないことになる。というよりも、ここで土下座をしなければ、この二日間で迷惑をかけてきた人たちに申し訳なさすぎる。
「え、嫌じゃ。」
「そこを何とか!」
「いや、どうせわしがなんと言おうと、あそこでニヤニヤしながらお前を見つめている二人には無駄じゃからな。」
「え?」
「いやあ、どうだマイヤ?あそこで床に顔を押し付けている奴をお前はこれから先好きになっていかないといけないみたいだぞ?」
「素直に自分の過ちを認めて謝ることは大事なことですわよお父様。お父様には決してできないことができるのだから、私は立派だと思いますが。」
「いや、でもさすがにあれはダセえじゃん。見ろよあの格好。あれは完全に他人に服従している格好だぜ?あんな姿にだけは一生なりたくねえなあ。」
「そのあんな姿を実践している人の目の前で、それを言わないでくれませんかねえ!?」
そんな人生初の、最高級のジャパニーズスタイル謝罪を将来のお義父さんとお嫁さんにガン見されてしまった。
* * *
「いい加減許してやれよ、爺。あんな無様な醜態を晒してまでお願いしてたじゃねえか。」
「言い方もうちょっと考えましょう王様?結構その言い方僕辛いんで。」
「どうせ、わしが何を言ったって無駄じゃろうが。・・・どうせ居候になるんじゃったら、早く役に立つ居候になるんじゃな。」
「なら、爺があいつに剣術を教えればいいじゃねえか。そうすれば、少しは役に立つようになるぜ?」
「・・・お主、わしにそのような時間がないことくらいよく知っとるよな?
「え、そんなタツキに剣術を教える暇もないくらい忙しいのか?」
「若がわしに国政を丸投げしとるせいで忙しいんじゃよ!わしが死んだらいったいどうするつもりなんじゃ若!」
「ここに立派な後継者がいるじゃねえか。学問は比較的できそうなツラしてるぜこいつ?」
「とうとう国政まで僕に丸投げですか!?いくら何でもそれはめちゃくちゃでしょうよ!?」
すでに時は270界、現実世界でいう深夜0時を回っており、外は深夜の静寂を迎えていた。ちなみにこの世界では午前6時(0界)で日付が変わる設定だから、いまだに僕がこの世界に来てから二日目ということになる。
王様の部屋での熱い言葉の交わしあいはすでに45界を経過しており、それは未だに収束する気配を見せなかった。眠たいという概念はないのか知らねえこの人たち。
「剣術なら、わしの孫に頼むがよかろう。あの子は剣術の才にも恵まれておるからのう。」
「そりゃあ、セイラス様とザイロン様の血を継いでいますからね。サラの護衛としての才能には本当、頭が上がりませんわ。」
「そこだけに関してはあの男と結婚させて良かったとは思うんじゃがなあ。全く、どうしてあのような遊び人をシャミノは好きになってしまったのか今でも理解に苦しむぞわしは。だから姫にだけは幸せな結婚をしてほしいと思っておったのに、どうして第一候補がこの男なのじゃ・・・。そこだけは、そこだけは納得がいきませんぞ!」
「なら、セイラス様も一緒に勇者様を好きになっていけばよいではないですか!私と一緒に勇者様のいいところを見つけて、許してあげられるようになりましょう!」
「いや姫様、その言い方だと姫様も僕との結婚を嫌がっているように聞こえるんですけど?」
「い、いえ、滅相もない!私は勇者様のこと信頼していますわよ?」
こうも失言が続くと、僕の姫様への信頼が失われていくんだけどなあ。
「マイヤ、信頼できる人が恋愛対象になるとは限らないとだけ言っておこう。」
「そうなのですか!?なんかごめんなさい勇者様。」
「え、僕今もしかしてフラれました!?」
「はっはっはっはっは!!!先はまだまだ長そうだなタツキ!」
「爺は決して姫と小僧の結婚は認めませんぞ!」
「ち、違うんですうううう勇者様あああああああ!」
こうして、またしても長い長い一日がようやく終わりを迎えた。
王宮のメンバーを勢ぞろいさせるだけでこのまとまりのなさですよ。
ちなみに二日目は終わりましたが、2章はまだまだ続きます




