2-2 マイヤの楽しい楽しいお勉強会
実は昔の話も、読みやすくなるようにとか、小説らしからぬ会話ラッシュになっていたところとかに心理描写を足したりして、ちょこちょこと改変を施しています。マシになっているかはわかりませんけどね。
「さあ、お入りくださいませ!」
その部屋の主は僕を優しく迎え入れてくれた。いやまあ姫様のことだけど。
姫様の部屋もまたとても豪華なものだった。それも僕の部屋に匹敵するほどだ(匹敵しなかったら問題である)。目立つものといえば、天蓋カーテンが付いたベッド(お姫様ベッドといえば伝わるか?)や、たくさんの書物が並んでいる本棚が3つも並んでいることだろうか。本棚に関しては、漫画が大好きな中高生大学生でもびっくりするんじゃないだろうか。一言で表すと、育ちの良さを感じさせるような部屋という感じか。
などといった感想を抱いていると、いつの間にか姫様は何か言いたげな顔をして僕の顔をまじまじと見つめていた。
「やはり朝からあまり元気がありませんわね勇者様。先ほどの夢はそこまで勇者様を傷つけるようなものでしたか?」
そして発されていた言葉は、起きてから数時間の間の僕の態度に対するものだった。どうやら姫様には・・・というよりおそらく誰でも気づけるくらいには僕のテンションは下がっているように見えるみたいだ。
「すいません、心配をかけるつもりはなかったんですが・・・。でも本当に僕のことは気にしなくて大丈夫なので。」
「そういうわけにはまいりませんわ。これから勇者様には私の護衛になっていただかなければなりませんもの。その護衛が本調子じゃないのなら私は主として何とかしてあげなくてはなりませんわ。」
そう言って姫様はムッとした顔を僕の顔に近づけてきた。これはどうやら事情を話さないと一生この状態から解放されそうにない。いや、ならいっそ事情を説明しない方が幸せなんじゃ・・・?いや、やめておこう。
というわけで、僕は姫様にあの夢の説明をすることになった。一応姫様も僕のあの黒歴史を知っていたから話ののみ込みは早かった。早かったのだが、
「随分と失礼な方なのですね!その玲那さんという人は!」
なぜか明後日の方向へ怒りをあらわにしていた。
* * *
「まるで私たちに出会ったことが不幸だとでも言いたげな発言じゃないですか!」
「いやまあそもそもあなたたちに出会うつもりが僕からすると全くなかったわけなんですが・・・。」
「にしても、選択を間違えたなんて言われると私も少し思うところがありますわ!まるで私たちに会ったのが罰ゲームみたいな言い方じゃないですか!」
「落ち着いてください姫様!そもそもこれは夢の中で言われたことですから!実際にそう言われたわけではないですから!」
姫様の怒りは未だに収まる気配はない。完全に論点がずれている気がするんですけどー。僕が言いたかったことはそういうことじゃないんですけどー。
「ということはつまり、勇者様の心の片隅にはそういう気持ちが存在するってことなんですか!?」
「ってどうしてそうなるんですか!?」
とうとうその怒りの矛先はなぜか僕に向けられ始めた。あとそうやってほっぺ膨らませて怒ると全く怒っているように感じないんですが。
「夢の中の現象って、心の片隅で自分が抱いている感情が反映されるって言うじゃないですか?つまり勇者様は私たちのことをそういう風に思っていたんだなって思うと怒り心頭ですよ!」
「いや、思ってないですって!ちょっとだけこれからの生活に不安を覚えただけですって!全くそんなこと考えてませんから!」
「そうですか?ならいいんですけど。」
姫様はそう言うとあの不機嫌さをアピールするあの顔をようやく解除してくれた。相変わらずちょろいなこの人などという無礼な発言は置いておくとしよう。だって、
「じゃあやっぱり、夢の中の話は全部夢の中の話なんですよ。だから勇者様がいちいち気にする必要なんてないんです!」
今までの表情の変化は全て、この台詞に説得力を持たせるためだけに行われていたということに気づいてしまったから。
「これからのことが不安なら私たちがいるから大丈夫ですよ!だから元気出してください勇者様!」
「姫様・・・。」
完敗です姫様。僕のメンタルは完全に回復してしまいました。
「それでもやっぱり罰ゲーム扱いは気に入らないですわ!」
「そこはマジで根に持ってたの!?」
* * *
「さてと、勇者様も少しは元気になったみたいですので、二つ目の本題に入りましょうか。」
さりげなく一つ目の本題は僕を励ますことだったことを暴露した姫様は、部屋の真ん中にある座り心地がよさそうな椅子に腰かけた。それを見た僕も遠慮がちに姫様の前の椅子に腰かけてみる。やばい、もう立ち上がりたくなくなるぞこの椅子。
「まだ、勇者様はこの世界について何も知らないのでしたよね?」
「はい、まだこの世界にはこのクランジア王国という傍若無人な王様が治める国があるということしか。」
「それに、魔法を知らなかったということは、この世界での生活の仕方もおそらくご存じありませんわよね?」
「きっと、僕が思い描いているようなものではないのでしょうね。」
すでに、この世界は僕がいた世界とは決定的に違う点をいくつか知っている。魔法の存在と、忘れているかもしれないが24時間以内なら教会で死者蘇生ができるというめちゃくちゃな要素である。
「というわけで、今日は勇者様にこの世界の常識をお教えしようと思います!」
* * *
そして時刻はR135界を回った。あ、現実世界でいう午後3時ね。
どうして姫様によるありがたいお言葉をカットしたのかというと、約45界もの間(3時間の間)ひたすら
この国の歴史について長々と語られていたのだが、その内容があまりにも複雑でカタカナが多かったため、僕含め誰にも理解してもらえないだろうということが容易に想像できたからだ。
僕なりに内容を要約してみるとこういうことだ。
かつてのこの世界には、クランジア王国以外にも国はいくつか存在はしていたんだけど、その他の国同士で戦争が絶えなかった。そんな中、いち早く魔法というものの存在に気付いたクランジア王国は、その魔法を使って戦争を終焉に導いた。それで、クランジア王国は戦争の愚かさをみんなに説いて、全ての国を統合して今のクランジア王国が生まれた。それ以来、この国は代々初代クランジア王国の血筋を継いでいるものが統治していたんだけど、ちょうど3年前に今の王様のお父さんだった先代が亡くなって、ガルディンさんが今の王様になったってわけらしい。
この説明をするために、その他の国の王様や将軍の名前やら戦争の名前やらをどんどん言ってくるからもうちんぷんかんぷんになってしまったというわけでございます。ちなみに、この間に昼飯を挟んでしまったため、昼飯後の話はほぼ睡魔との格闘エピソードしか残っていない。
「お疲れさまでした勇者様。これで長い長い歴史の授業は終わりでございますわ。」
「あ・・・そ、そうですか・・・。終わりましたか・・・。やっと終わりましたか・・・。」
「これを一年かけてゆっくり授業で学んでいくのですが、あら、わずか45界で終わってしまいました!私って意外と教える才能あるかもしれませんわ!ね?勇者様!」
「え・・・。そ・・・そうですねえ・・・。」
いやねえよ!と反射的に答えそうになるのを必死にこらえた僕超頑張った!偉いぞ僕!
「では次に魔法についてなんですが・・・。」
「もうやめてくださいお願いですから勘弁してください体動かしたいなあそうしたいなあ。うん、そうしよう!そうしましょう姫様!」
「そ・・・そうですか?ならせっかくですので実技形式でまいりましょうか。」
どうにかして座学を・・・というより姫様の長い話から解放する術を得た僕は、ようやく魔法の扱い方を学ぶステージへと突入することに成功した。
* * *
「魔法といってもいろいろと幅広いんですよ。種類などもたくさんありますし、それぞれの人の得意分野などもありますし、そもそも適性が弱い人だっていますしね。」
ここは宮殿の端にある魔法訓練所と呼ばれるところ。姫様やサラ、王様やザイロンさんもここで魔術を磨いたらしい。
再び姫様によるご高説が始まったがさっきまでと比べると自分の知識の吸収が早いように思える。人間の脳って不思議だよね。
「その適性っていうのはどうやったらわかるんです?」
「簡単な話、使ってみてしっくりくるかこないかで判断するしかないですね。とりあえず、5種類の魔法を一度使ってみましょうか。」
「今のところ、風と闇しか知らないんですけど、他の3つは何なんです?」
うん、さっきまでとは違った食いつきっぷりに自分でも驚きである。
「火、水、風、地、白の5種類ですよ。闇魔法はそもそも広く普及しておりませんし、その原理も謎ですから今のままでは習得する術がないのですよ。」
闇のその触れてはならない禁忌といわんばかりの存在感に魅了されそうになる僕はやはりどこか中二病の気があるのかもしれない。
「それで、他の5つはどうやって習得するんですか?」
「私がそれぞれの魔術の入門書を部屋から持ってきました。これらの本に載っている一番最初の魔法を唱えてみてください。」
おおお、ついにこの時が来た!僕の輝かしい魔法勇者生活がいよいよ始まりの狼煙を上げる時が来たようだ!火を操り、やってきた悪者をことごとく灰塵に滅すか。水を操り、悪者を激流の渦の中に消し去るか。風を操り、悪者を鋭い真空の刃で切り裂くか。地を操り、悪者を大地の裂け目へと押しつぶすか。白を操り、・・・・・白ってどうやって敵を倒すんだ?
* * *
「あら、珍しいですね!勇者様は白の適性が一番高いですわ!白魔法はすごいですよ!光を操る力を持つんです。光を出して敵の目眩ましをしたり、暗闇を照らしたり、それにそれに!光の力で癒しの力も使えるんですよ!ほかにもほかにも・・・。」
「いや、僕戦えないんですか!!!!!!??????」
僕のばっさばっさと敵をなぎ倒していくという夢はどうやら終わりを迎えたみたいだ。
大丈夫です。ちゃんとこの先勇者さんには体を張って戦ってもらいます。




