1-10 王宮ライフ
「まあ色々あったが、この国の現状を知るにはいい機会だったろ?」
「ええ、色々と目や耳を疑いたくなるようなことばかりでしたが。」
「ハッハッハ!徐々に慣れていくさ!」
「目はともかく耳の方はできれば慣れたくないですねえ!?」
娘たちと年長者による長い長い説教はようやく終わり、王様一行は王宮へと帰還した。そしてさっきまで瞑想をしていたあの玉座の間・・・ではなくそこから繋がっている王様の部屋で全員くつろいでいる状態だ。あんな派手な魔法とか死者蘇生術とか1日でありえないものを見たり聞かされたりして頭がいっぱいである。ちなみに王様に対しては、さっきの魔王から聞いた詐欺事件の皮肉を込めて耳を疑うという言葉を使ったのだが、どうやら伝わってくれなかったらしい。いや、伝わっていたとしても同じ反応が返ってきそうだけれども。
「そういえばガルディン、あのいざこざで聞きそびれていたが、こちらの青年はどちら様なんだい?」
「あーそういえば紹介がまだだったな。こいつはタツキ。俺たちの秘密基地で用をたs・・・」
「はーーーーーーいストーーーーーップ!!!!いらんこと言わなくていいんだよおおおお!?」
「とまあこんな感じの面白いやつだ。しばらく面倒見るつもりだから仲良くしてやってくれ。」
「いや待てガルディン、何の説明にもなってないんだが。サラ、説明を頼む。」
「なんか姫様曰く、別次元から来た勇者様って言ってたよ〜。」
「なるほどわからん。」
「僕に一から説明させていただきたいんですが!?」
こうして僕はすでに3度目となる事情説明をすることになった。途中、王様や爺さんの横槍が入りそうになったけど全力で阻止した。どれだけ僕の変態時代を広めたいんだこいつら。
「・・・なかなかに信じがたい話だねえ。」
「でも魔法を見たときのあの反応はどう見ても魔法というものを初めて見たって感じの反応だったよ父さん。」
「まあこの話を裏付ける証拠は確かに存在する・・・か。」
この世界の人たちは話の飲み込みが早くて助かる。人格はともかく。
「それでタツキ君、これからどうするつもりだい?その元の世界に戻る方法とやらは持ち合わせていないんだろう?」
「その方法を探しつつ勇者とやらをやらされることになってるんですよねえ。」
「いい考えだろザイロン?こいつに強くなってもらってヘボりんの相手をしてもらえたら、俺らも今回みたいに急いで助けに行く必要がなくなるってわけよ!」
「なるほど、それは考えたね!」
「考えたね!ではないわ!この国を守るのがそなたらの役目ではないか!その考えはこの爺めが却下させていただく!」
「どのみち、まずは戦い方を教えてさしあげる必要がありますわ。勇者様はまだ初歩すらも習得しておりませんのでかなり時間がかかるかと。」
「魔法だったらお前とサラという絶好の魔術教師がいるじゃねえか。剣術が習いたいんだったらここに爺もザイロンもいる。国を挙げた超エリート達が揃ってんだ、すぐに戦えるようになる。ハッハッハ!」
「やっぱり王様は何もしないのね。」
とはいえ確かにこんな環境の下で生活できるだなんて、他の人からするととても幸せなことであることは間違いない。この国最強の戦士である王様に生活を保証され、その護衛(親友)であるザイロン将軍、絶世の美姫のマイヤ姫とその護衛のこれまた美女のサラに剣術魔術を教えてもらえるサービス付き。あの爺さんは知らんけど。なんというリア充ライフ。異世界バンザイじゃねえか!元の世界よりも充実してんじゃん!過去の過ちとかもうどうでもよくない!?
* * *
その後、サラは家でお母さんが晩飯作って待っているからと言って、ザイロン将軍を連れて王宮を後にした。ザイロン将軍はきっとこれから奥さんからの雷を浴びることになるんだろうなあと僕は、自業自得ではあるが若干将軍に同情した。
ちなみに王宮に住んでいるのは、王様とマイヤ姫、爺さん(王様曰く召使い筆頭兼王宮管理長らしい)、召使いさん(20人くらいいるらしい)という顔触れ。僕はしばらく王宮のお客さん用の部屋を私室として使うことを許可された。だから約24人ほどこの王宮で暮らしているということになる。
護衛二人の帰宅後、僕たちは食事の間へと移動し、4人で晩飯を食べた。食事をとるためだけの空間にしてはあまりにも華美で大きすぎでとても落ち着かなかった。問題の料理の方だが、食文化の方は使われている食べ物は元の世界とは違ったが、構成はほぼ同じだった。肉料理をメインに、サラダや汁物、食後のデザートとシンプルではあったが、さすがは王宮の食事、味はやはり一流であった。幸いマナーなどは親からしっかり叩き込まれているだけあって、そういったことで恥をかくようなことはなかった。それよりも驚きだったのが、食事の時になるとあの王様が無口になり、すごい行儀よく食べていた。失礼極まりない発言だが、今までの王様を見ていたのだからこれくらいのイメージを持たれていてもしょうがないということをどうか理解してもらいたい。
食文化の壁をやすやすと乗り越えた僕は、ようやく王様と姫様に私室へと案内してもらえた。
「でっけえ・・・。」
この一言に尽きる。ホテルのスイートルームくらいといえば伝わるだろうか。机にベッド、タンスくらいあればどんな部屋でも充分だったんだけど。
「生活を保証すると言った以上、これくらいは与えないと失礼というもんだからな。衣服などはタンスのものを使えばよい。風呂も部屋に備えつけてあるからそれを好きに使えばよい。なにか不明な点はあるか?」
「いや、あまりの高待遇で開いた口が塞がらないんですけど。」
「ハッハッハ!まあこれから勇者として働いてもらうのだ。くれぐれもただの居候坊主と爺に怒られんようにな!」
「もしお暇があればそこの本棚にあるものなどを読んでみてはいかがでしょうか。この国のことも少しはわかるかもしれませんわよ。」
「ええ、ぜひそうさせてもらいます。」
最後に何かあったときは召使いを呼べとだけ言い残して、王様と姫様は部屋を後にした。どうやら、激動の1日がようやく終わりを迎えるみたいだ。
「いやあ、しっかしとんでもねえことになっちまったなあ。」
思えば、今日の朝はまだ元の世界の住人だったわけだ。まだ宗次と行動を共にしていたわけだ。それが突然、魔法とか魔王とかいう厨二病ワードが飛び交う異世界にワープしちゃったわけだ。もう一年分くらいのイベントを体感した気分なのに時間にしてまだ24時間が経過していない事実に僕は唖然とする。突然魔術だの剣術だのを覚えろと強要された現実に僕は茫然とする。挙げ句の果てに魔王を討伐しろなんて言われてしまったわけだから頭がいたい。あんな闇魔法見せられて勝てる見込みなんて全く湧かない。というよりまず、討伐する必要性を感じないし、普通の人間に対して魔王討伐を掲げて戦いを挑むなんてただの人殺しの正当化のようにしか思えない。
とはいえ、魔術剣術に興味がないわけでもない。むしろ習得できるものならしてみたいという欲すら存在するくらいだ。明日からの生活は決して絶望まみれではない。
「さすがに今日は本を読むとかする気力もねえし、風呂入ってさっさと寝るとするか。」
それでもどこかこのままベッドに入って寝て起きたら元の世界に戻っていたならいいなと思っている自分がいた。
そして次の日、またもや一年分ほどのイベントが天梨樹を襲うことになるのだった。
第1章完!




