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曾禰家の諸事情  作者: 三條聡
第壱章 曾禰家
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いざ、ダンジョンへ

 敷石を辿たどると、すぐに大きな池が右手に現れた。庭園みたいなものではなく、もっと自然っぽい感じがする。

 どこから池なのかよく分からないくらいに葦などが茂っている。池にははすなんだか、睡蓮すれんなんだか分からないが植物が見えた。

 そして、やっと建物が見えた。ここに池が無かったら恐らく建物を見ることができるのは、もっと歩かなければならなかったのではないだろうか? と、俺は瞬時に理解した。池の奥には木々が立ち並び、その先がどうなっているのか全く見えないのである。そして、左側にも木々が植えられている。これはもう目隠しとかのレベルではない。


「あ〜……これはもう、森だな」

「迷子じゃなくて、遭難だね」


 もとの言葉にうなずきながら、俺たちは足を進めた。どんだけの敷地なのか、皆目検討がつかない。俺的には、もはや家の敷地の概念から外れている。


「あれ?」

「どうしたの兄さん」

「ほら、驚きすぎると、もう何があっても驚かないってゆーのあるだろ?」

「そうだね」

「可笑しいんだよな、もうそろそろ、そーなっても良いんだけど……俺的には、まだ驚く気満々だ」

「何の宣言なの、それ!」


 深い溜め息をついたもとを横目に、はははっと、乾いた笑いしか出てこない。だって、門をくぐって、敷地内に入ったばかりだぞ、まだ玄関にまでたどり着いていない。

 しかし、いずれ難にでも終わりが来る。三十歩程進むうちに、玄関らしいものが見えた。RPGのダンジョンで薬草が絶え、HPもわずかでMPゼロで出口が見つかったときの心境なのだ。

 でもなぁ〜、きっと建物に入れても、新たなるダンジョンになっているだけだと思うのは、俺の思い過ごしではないはずだ。これだけ広大な敷地に建つ屋敷がいおりってことはないだろう?


「ちょっと、兄さん」

「なに?」


 驚いた声に、俺の袖を引くもとの視線の先を追う。玄関近くに植えられている何本の椿らしき木々の一つに行き当たる。


「ああ、あれは何もしなければ、大丈夫なモノだ」

「そうなの? 僕には赤い丸い輪郭の分からないものにしか見えないけど……」

「え〜っと、自然霊というか、妖精って言ったらいいのかな」


 もとには、輪郭不明の赤い丸いものが見えるらしいが、正体までは分からない。このテのモノの判断は俺にしか分からないらしい。霊感に関しては、俺のほうがハイスペックだと言うことだ。

 そう言う俺には、どう見えているかと言うと、赤い着物と黄色い帯の小さな小さな女の子が数人、椿らしき木に座っている。大きさは10センチにもみたない。女の子と言ったが、ぱっと見の話で、その表情はよく見ると、笑顔なんだけど、子供のソレとは違って老獪ろうかいな感じだ。


「やっぱり、神社みたいな結界内だよね」

「そうだなぁ〜、こんなモノがいるんだからな」


 世間の人は、神社は神域だから悪いものは入ってこないと思っている。神様しかいない場所だと思っている。でも、皆忘れている。祟る神もいるのだ。俺的には、神社という場所は、善し悪しは別にして霊的に低いものが入れない結界だと思っている。


 まじまじとその木を見ていると、玄関ががらりと開いた。当然、俺はびくりとした。

霊能力があっても、俺は霊や妖なるものが怖くないなんて言えない。見えているが、その正体の全てが判明しているわけではないしなぁ。


伍郎君ごろうぎみ様、七郎君しちろうぎみ様。おかえりなさいませ」


 そう言って、にっこり笑ったのは、檜山ひやまさんの宣言通りマサコさんだった。

おっ、ちょっとまて、今『おかえりなさいませ』と言いませんでしたか?

 とは思っても、その真意を聞き返すことなんてできずに、俺ともとは黙って玄関に足を踏み入れる。

 第二のダンジョンの始まりだ。


「さっさ、どうぞお上がり下さい、奥で御館様がお待ちになっております」


 そう言うとマサコさんは、すっと手のひらを奥へと示す。

 御館様って? この屋敷の主だと言うことだろうかと俺は考える。まさかオヤジのわけがないよな。じゃあ、祖父というやつか?

 そんなことを考え始めていたのだが、それを邪魔するように、視界から非常識なものたちが登場する。

 最初は、長い廊下。そしてその脇にある延々と続く襖。尚且なおかつそれに描かれた豪華絢爛な絵。廊下の所々には、高そうな骨董品の数々。こう言っちゃなんだが、骨董の目利きはこの年齢のわりにできる方だ。なんせ、お袋の実家は老舗しにせの旅館で、そこには数千万円級の骨董品が山とあるのだから。

 いつの間にか、考えることは、どれだけ襖があるのか? に始まって最後には、俺がこの屋敷で触れていいのは、板敷きの廊下と畳だけだと、自分に戒めを与えるに至った。


「わぁ〜、凄いね」


 もとは、暢気な声をあげる。我が弟は、そのおこないに対して、幼少の頃より我が家の老舗しにせ旅館を徘徊する特権を与えられているのだ。かく言う俺は、未だに一人で旅館内をウロウロしたことはない。


「兄さん、気をつけてね」

「……うっさい」


 しかし、この屋敷はまさにダンジョンである。

 どこまでも続く廊下と襖。今、ここで玄関に戻れと言われてももう分からない自信がある。そのうえ、今は渡殿わたどのを渡っているのだ。

 最早、これは屋敷ではない。寝殿造りではいかと思う。渡殿わたどのがある一般住宅の存在なんか知らない。

 まぁ、ここがどこであろうと、今の俺たちはマサコさんについて行くしかないのだ。


 俺は、ここにいたるまでは、ここの人間関係、と言うか血族関係のわずらわしさや、相手がどんな反応を示すのかなど、戦々恐々としていた。が、ここに至っては、それよりも異常なこの場所。というか屋敷? まぁ、この敷地の異様さの方が気になり始めていた。

 神社のような結界を感じさせる敷地や、絢爛豪華な襖や骨董品が、俺ん家にあるメモ用紙やティッシュ箱と同等に置かれている様。神社仏閣でもなく、老舗しにせ旅館や料亭でも見られない非常識までの非日常の空間が、俺をたまらなく不安にさせる。おお〜、これがダンジョンに入るときの心情か!


 マサコさんに案内された場所は、法事で訪れたお寺にあるような大きな食卓の3つある和室だった。

 これだけ座布団が整然と並んでいると、どこに座ってよいのやら。と、迷っているとマサコさんは、一番上座にある食卓を示す。

 俺たちは、上座を避けて、俺ともとで座る。

 そこへ、パタパタとせわしない足音が聞こえてきた。開いている襖から、まことそうが、そこから顔を出す。


よしにぃに!」


 怯えているわけでもなく、不審がっているでもない大物の妹達に安堵した。


「ここはどこ?」

「え〜っと、ここはオヤジの生まれた家だよ」


 『ここ』が何を指しているのか不明だが、俺は家を出るときも、新幹線に乗るときも『オヤジの生まれた家へ行く』と言う言葉と一貫させる。が、大物妹達は、気のない「ふぅ〜ん」と言って、あたりをキョロキョロする。

 マサコさんが、お茶を持って再登場し、檜山ひやまさんがまことそうをケーキで釣って連れ出す。ああ、俺達が居ることを確認させるために、この部屋に連れてきたのか。と、その配慮に俺も考えが至る。

 そうだよな、ここがどこか解らないようなガキんちょが居ても邪魔になるだけだ。が、俺だって、ケーキで釣られてここを立ち去ってしまいたい。これから何が起こるのか、とんと検討もつかない。


 ガキんちょが立ち去ったとは反対の襖が開く。

 そこのいたのは、やたらに姿勢の良い初老の男性。

 ああ、これが俺たちの祖父というやつか……。

 瞬時に理解した。

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