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色彩  作者: 猫屋大吉
3/15

降誕

出生編、完了しました

男は、人形町にある自宅へ戻った。

もちろん、女も一緒であった。

女は男に素敵な町ですねと通り一辺の褒め言葉を言った。

男の住む部屋のあるマンションの辺りは、下町の雰囲気がまだまだ残っている辺りで木造民家が多く、表通りからは入った所なので静かであった。

部屋に入ると女が取り敢えず貸して頂いたお金で服を買いに行くと言ったので男は、ついでに食事もしよう、一緒に行こうと言い、二人は連れ立ってマンションを後にした。

男の居るマンションは、人形町と水天宮の両駅どちらも同じ様な距離で二人は、水天宮駅の方向に向かって歩き、途中の立ち食い蕎麦で軽く腹に物を入れた後、水天宮駅までの間に立ち寄りながら買い物を済ませると女は、着ていた服を店員に紙袋に入れて貰うと購入した服に着替えてレストランへと歩いて行った。

「明日は、月曜日なので銀行へ行ってから御借りしたお金を返しますね」

「うん、わかった。そんなに急ぐ必要もないよ」

「いいえ、急いで御返しします」

女は、強い意志表示を乗せた視線で男に言った。

「・・・そ、そう」

男は視線に押され、首を縦にふる。

目的のレストランに着くと通りに面したテーブルに案内され二人は座る。

「食べてるところ、外から丸見えですよね」女が言うと

「マジックミラーになってるから外から中は全く見えない様になってるみたいだ」

「そっか、じゃ、安心ですね」

女はにっこりとした微笑みを男に返した。男もつられて微笑んだ。

ワインを呑み、食事をしながら色々と話をした。車の中では殆ど無口だった女は、アルコールの力も重なってか、饒舌になり二人の会話は、時計が進むに連れ、はずんで行った。話の中で、女は、今日は男の家にしばらく泊まる事になった。

「もう一軒、バーでも行きましょうか」男が聞くと

「明日、仕事は大丈夫ですか」

「今日は、何だか呑みたい気分なんです。嫌だったら構いませんけど」

「いえ、嫌なんて・・・私もいっぱいしゃべれて・・・何だかほっとしたのかスッキリして、御一緒させて頂きますわ」

二人は店を出て次のバーへと向かう。

女は、男の腕に手を回して

「恋人同士に見えるかしら」呟いた。

「えっ、」

男はびっくりして隣で腕を組んでいる女の顔を見る。

「私・・・あの、急に・・・変に思われるかもわかりませんけど、・・・貴方が好きになりました」

「えっ、・・・・」

固まって立ち止った男の顔を女が不安気に見ながら

「迷惑でしょうか?」

「い、いいえ、そんな事、ない。いや、絶対ありません。光栄です」

男は焦った様に首を横に振りながら答えた。

「じゃ、そうさせて下さい」

「い、いや、此方こそ、よろしくです」

それからの二人の結婚までは、早かった。

男は育った保護施設へ女と行き、園長先生等に女を紹介し、半年後には結婚し、入籍した。

式は、女の要望で二人だけで小さな教会で行った。

そして結婚から一年後、娘が誕生した。

守津綾花の誕生だった。

夫婦二人は、大切に育て上げた。

順風満帆に思われた家族で有ったが、男が五十手前に白血病を患い、今日まで入退院を繰り返す様になっていた。幸い、男が趣味で取った特許の内、数点が企業の目に触れ、其れらが幾ばくかの収入と成り、その収入を元に男が老後の為と言い、開業したカフェを女が切り盛りしながら病気療養中の男に献身的に尽くし、生活を続けていた。男は幸せだと事有る事に独り言として呟く様になっていた。自身でも年を取ったからだと自覚している、鏡を見ると白髪が目立つ様になっていた、が、妻は、相変わらず美しく三十前、嫌、二十後半と言っても差支えない容姿を保っていた。

やがて娘は成人を迎える年齢に達すると益々、母親に目鼻立も似て来ており、何より目に虹色の光彩が生き写しのごとく受け継がれていた、だが、その光彩の中に七つの光点があった。


守津は、「かみつ」と読み、男の育ての親である保護施設の園長、曰く、男は、赤ん坊で綺麗なかごに入れられ錦の反物と手紙其れに封筒に入ったお金も一緒に施設敷地内にある園長の自宅前に一緒に置かれていた。

手紙は予言じみた事を語っておりその内容は、

この子を訳あって貴殿に御預けさせて頂きます。名は、守津宗助、この国に禍を成す者が現れし時、この子の子がその禍に立ち向かいます。ただ、我らが育てる事、叶わぬ事に寄り、心残りでは有りますが何卒、御理解の程を御願い致します云々、とあったと言う。

勿論、この手紙と錦の反物は、男が一人立ちし、施設を後にする時に園長より男に渡されている。

名前の妙ではあるが、守津は、神津に通ずるとして古神道に由来するものではないかと園長から男は、聞いていた。何故なら、この一緒に置かれた手紙の文面には、古式表現と現代表現がごちゃまぜになっており、現代国語にない表記もあったからだと言う。

男は神道には興味が無く、その手紙の内容すらも忘れていた。



娘が二十歳に成った祝いにと妻と男は相談し、男が施設に預けられた時に一緒に籠に入っていた錦の反物を使って娘の晴れ着を新調し、晴れ着を作った際に余った切れ端で小物袋、所謂、巾着を大小と作った。

娘は、其れを着て成人式を迎えた。

成人式を終え、晴れ着を着た娘が帰宅すると親子三人で港近くのレストランへ食事に出かけた。

男は二十歳の祝いの品をもう一品、妻と相談し、購入してあった。

食事が運ばれて来る前に男はそれを娘に渡し、夫婦二人でおめでとうと祝杯をあげた。

娘は、ありがとうと涙目で感謝を述べ、包みを開けると腕時計であった。時計の裏には、娘の名前がフルネームで刻印され、イニシャルで男と妻の名前も刻印されてあった。

そしてその晩、家族でリビングに座り、一家団欒のひと時を過ごし、娘が自室に行く為にリビングを出て行ったのを見てと男は妻に あの子の目の光彩と七つの光点が不思議だと言った。

妻は、静かに頷くと男に向き直り、真剣な眼差しを男に向け話出した。

「聞いて下さい。これから話す事は、全て真実です。でも、信じて頂けないかもわからない。でも、聞いて欲しい。良いですか」

「うん、何、何、改まって」

「私は、貴方を愛しています。これからもずっとそれは変わりません。私は貴方にずっと隠し事をして来ました、それは、貴方に出会った時からです。ずっと言おうとは思って折りましたが話せず思い悩んでおりました。・・・実は私、人ではありません」

其処まで言うと妻は、男から一旦、目を逸らし、俯いて頭を下げた。

男は、黙って妻の言動を見ていた。

「君が時々、何かを考えて居るのは、雰囲気で知っていたよ。それにもしかしたら共、思っていた。あの例の湖の伝説に出て来る天女に、イメージが余りに似ていたし、目の光彩・・・俺も君に聞くべきか迷った時期もあった・・・でもね、もうそんな事、どうでも良いと考える様になった。君には本当に感謝している。だって俺は今もこの通り幸せなんだから・・・だから、だから、良いんだよ」

と言うと妻の正面へ移動して両肩を抱き、自分の方へ引き寄せ、抱きしめた。

妻は、男の胸の中でごめんなさいを繰り返しながら泣いた。

男は妻の頭を片手で撫でながら黙って抱きしめていた。

カチリとリビングのノブが回る音がして男も妻も扉の方を見た。

自室へ行っていたと思った娘がいきなりリビングに入って来た。

「ごめんなさい。トイレから帰って来て・・・あの、聞き耳を立てる気は無かったの」

妻は、男から顔を離し、涙を拭いながら

「良いの、綾花、聞こえたのならそれで良いのよ」

「お父さんの出生も不思議だなって昔聞いた時に思ったけど、お母さんが天女だったなんて・・・この目の事で苛められた事もあったけど、私はこのお母さんから貰った・・・この目が好き・・・だって、だって、お父さんもお母さんも私、大好きだから」

喘ぐ様に言い放つと綾花は、母に抱き着いた。

男は、その様子を微笑みながら見て抱き合う二人の肩に優しく手を置くと

「綾花も二十歳だし、私達夫婦も心の中に在った秘密も分かち合えたし、三人共、新しい門出だから、呑もうか」と言った。


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