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おまけの話 その1

お久しぶりです。


サマンサとニックの二人を、生暖かく見守り続けたディジーの考察記録(?)です。

過去のエピソードから、現在の二人を垣間見るラストまで少しの間お付き合いいただければ嬉しいです。


本当は読み切りとして上げたかったのですが、短文の連載形式になりすみません。そんなに長くなる予定ではありませんので、よろしくお願いします。

 

 わたしがその男の言動に、疑問を持ち出したのはいつ頃からか。もうあまり覚えていないほどの昔の話だ。

 長らく答えを見いだせなかったその謎は、ある日スルスルと、まるで雲が晴れていくようにストンと心の中に落ち着いた。


 ああ、そうだったのかとーー。



 これは、そんな面倒くさい男と、同じく面倒くさい姉に対するわたしの考察。と言うか、独り言である。



 わたしの姉サマンサには、一言では言い表せないほどの面倒な隣人がいる。

 姉が近所に住む同い年くらいの子供と遊んでいると、大抵邪魔をしにくる隣家の息子、ニック・バーナーだ。


 ニックは、ここら辺でも有名なガキ大将だった。ニックが現れると、姉と遊んでいた子達は皆、軒並み奴の口車にのせられ姉を見捨ていった。

 ガキ大将って言うのは怖がられたりもするが、強烈な個性でもって他の子を惹きつけるものであるらしい。らしいって言い方になるのは、その頃わたしは幼すぎてイマイチ分かってなかったからだ。

 でも幼心にも、ニックの言動は不思議で仕方なかった。


 何故こいつはサムばかり仲間外れにするのか?

 サムのことが嫌いなの?


 なのに、他の子がいなくなってポツンと一人になったサムの近くに、しばらくすると決まって奴は現れるのだ。勿論仲良く遊ぶわけではない。口喧嘩の末、怒って泣き出したサムが家の中へ逃げ込み終わりだ。

 そんな決まりきったパターンを飽きもせず繰り返してばかりなので、だからこそわたしは不思議だったのだ。何故姉を仲間外れにした張本人が舞い戻って来るのか。奴のその行動心理が、全く読めなかったのである。


 二人の仲の悪さは、遊び仲間達の間でも評判だったようだ。

 彼らは、ニックとサムのそれぞれに、互いの話題を振るのを避けていた。だって不機嫌になるのだもの。それは当然のことに違いない。

 あれはいつのことだったろう。父さんと母さんが亡くなる前だったから、サムが十三だか十四歳ぐらいか。わたしもその頃は、簡単なお使いぐらい頼まれるようになっていた。その日も母さんからお使いを頼まれ、わたしは一人で店を出た。

 記憶がうろ覚えではっきりしないんだけど、妙に嬉しかったのを覚えてる。多分お使いの先が表通りにある商店だったから。その頃町では、近づくお祭りの準備で華やいだ雰囲気を醸し出していた。表通りはメインストリートだったので、そこを歩くと知らずウキウキしてくるのだ。

 店を出たわたしは見慣れた背中を見つけた。そう、隣の迷惑な息子、ニックだ。

 ニックは我が家の軒先に体を隠すように身を縮めて、何かを眺めているようだった。


 何してんだろう? 変な人。


 わたしは関わらないようにそっとニックの横を抜けようとして、けれど敢えなく捕まってしまった。

「おい」

 ニックはわたしを睨んで呼びかけてくる。

「お前、あいつを呼んでこい」

「あいつ?」

「お前の姉だよ」

 ニックが指差す先に確かにサムの後ろ姿があった。誰かと話し込んでいるようで笑い声が聞こえてくる。

「何でよ?」

「いいからいけ!」

 ジロリとすごまれて抵抗など呆気なく散っていく。当時のわたしから見れば、ニックは怖い年上のお兄ちゃんでしかない。お兄ちゃんなんていいもんじゃないけど。

 わたしは半泣きでサムに近づいていった。

「あれ、ディジー?」

 サムがわたしの方を驚いた顔で振り向く。

「妹?」

 サムの前には男の子がいた。確かサムやニックと同級生の子だ、見覚えあった。時々我が家の前で、遊んでいた子達の中の一人だろう。

「うん、そう。ディジーよ。ディジー、どうしたの?」

 サムはわたしを彼に紹介すると、すぐに体を屈めて顔を覗き込んできた。憎たらしいニックに命令されたなんて言ったら、またサムが奴に傷つけられ泣く羽目になる。わたしはサムにお願いした。

「あのね、母さんにお使い頼まれたの。姉さんもついてきて」

「えっ? い、いわよ」

 サムの反応は少し微妙だった。目の前にいる男の子に遠慮しているのが、こっちからでも見え見えだった。

 でもサムは彼よりわたしを選んでくれたのである。わたしはなんだかとても誇らしかった。

「ちょっとサマンサ」

 けどサムの前で会話をしていた相手は、そうはいかないらしい。

 当然のように男の子からは不満の声が上がった。彼の顔にはハッキリと、まだ話は終わってないと書いてあったのだ。

「いいでしょ、ビル。ディジーはまだこんなに小さいのよ」

 本当は一人で行くつもりだったんだけど、ちょっぴり二人に悪いなと思う。

「またね、ビル。さっ、ディジー行きましょ」

「う、うん」

「ちぇ、なんだよサマンサ」

 ぼやくビルを置いて、わたし達は歩き出した。わたしはそっとニックがいた辺りを目で追いかける。だけど不思議なことに、ニックの姿はいつの間にか消えていたのだった。

 どっちにしろ、奴の前にサムを連れて行くなど出来るわけがない。

 わたしは少なからずホッとして、ズンズンと先を進んで行くサムを追いかけた。



 数日後、塞ぎ込むサムに気がついた。いつも明るくて元気な姉さんなのに暗い顔をしていた。


「姉さん、どうしたの?」

 わたしの質問にサムは寂しげに笑って答えた。

「ビルがね……」

「ビルって? この間姉さんと一緒にいた人?」

「そう、ビルがお祭りに一緒に行こうって誘ってくれてたんだ。でも……」

 ため息と共にか細い声が落ちてくる。

「やっぱり行けないって。わたしとじゃなくジェニファーと行くって」

 サムの顔には深い悲しみが漂っていた。




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