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殺し屋少女と憑かれた高校生  作者: 山猫系
第一章 4月8日〜4月12日 雨男ストレンジラブ
5/22

雨男ストレンジラブ 4

図書室を駆け巡り求めていた本を見つけると華麗にペンを構えて図書カードに記入。入り口付近で立ち止まっている俺に笑顔で手を降り彼女は受付まで行き本を返したあと新しく借りた本を俺の元へと持ってきた。


「これこれ!ウチのオススメの本!読んでみてよ」


今まで見たことがないとびきりの笑顔で彼女は小説を持ってきた。

"海底2万里"というその本は獅南さん曰く自分が本好きになったきっかっけの本らしい。その後ネモ船長がヤバイだとかクラーケンがヤバイだとかよくわからないことを発しながら一人興奮していた。


「これ読んで感想聞かせてほしいな」


これはチャンスだ。

次いつ来るかわからない攻め時であり絶好のタイミング。一気に緊張が高まるも成功すれば彼女との距離が縮まるかもしれない。

いや絶対縮まる!

俺は少しぎこちなくなりながらも彼女に気づかれない程度に深呼吸をし口を開いた。


「んと、読んだらすぐに感想伝えたいからメアド教えてほしいな」


女の子にメアドを聞いたのは人生で初めての体験だ。

別に告白するわけでもデートのお誘いをした訳でもないのに解放感と心の圧迫感の両方を感じる気持ちとなった。俺のお願いを聞いた彼女は胸ポケットから携帯を取り出し少し操作して俺に「はい♪」と言って携帯を前に構えた

俺もポケットから携帯を取り出しメニューから赤外線交換を選択し彼女の携帯に接触するくらい近づけると、電子音と共に"麒麟凛獅南"というデータが俺の携帯へと送りこまれた。


004


久々の快晴の中俺は緑多し田舎道を歩いていた。授業を終え部活もしていない人の特権である明るいうちに家に帰れるというものだ。

さきほどから5分おきくらいに携帯を開いて電話帳を見ては"麒麟凛獅南"という項目を見て満足感と優越感に浸っていた。

読書好きの彼女ではあるが部活はバドミントン部という中々なスポーツをしている。

「遊びで入ったのに意外にハードだったんだなぁ」と今日のお昼に言っていた。  そんな獅南さんの言葉に部活なんかやろうかななんて思っている俺は獅南さんに影響されまくっているのかもしれない。

いや、確実にされている。

俺が今向かっているのは薬局。

久々にワックスやスプレーなどの美容用品を求めてだ。

俺の青春は高1の冬までがピークで後は延長線上を行く消化試合かと思って髪も延ばしっぱなしでワックスもつけず寝癖のまま学校に行くのも安易なことになっていた。薬局に入り理髪コーナーを探していると黒いシャツにジーンズのホットパンツを履いて買い物カゴを下げて食品コーナーにいる霊音を見つけた。


「おーい霊音」


俺の掛け声に気づいた彼女は「あ」と無気力な声を出しながらも笑顔で俺の方に駆け寄って来た。


「桜が薬局にいるなんて珍しいっ! 何してるの?」

「ワックスとか買いに来たんよ 久々にやろうかなって」

「ん、桜ー♪ 恋は人を変えるって言うけどー」

「いやっ!そんなんじゃない! ただ久々にね久々」


さすが霊音 人間関係面に関しての洞察力が鋭い。

「桜ぁー もう人とは関わらないんじゃなかったのー?」


後ろから、レジから聞こえてきたその聞き慣れた声。

振り向くとそこにいたのはレジの商品を置く台に肘を立てて頬杖をついている店員は喰奴であった。


「ってお前はいつのまにっ!」

「バイトマスター目指しててね。これで6個目だ 」


行くとこ行くとこ現れるこの喰奴。この前なんて高校の購買にまで現れて正直迷惑した。


「桜はこの前人と関わらないて言ってたのに恋愛なんてしちゃって」

「だから恋愛なんてしてないし喰奴はくどいなぁ」

「そうだよ喰奴。桜が誰かに恋しようとそれは桜の自由なんだし」


もう俺に好きな人がいる前提で話が進んじゃっているのかよ。

昔から嘘は苦手だ。

とりあえずこの状況から抜け出したいのでさりげなく「ちょっと」と言って理髪コーナーへと行った。高1の時から使っていたワックスとスプレーを手に取り喰奴ではない店員のレジを通って薬局から出ようとした。

霊音と帰れば確実にさきほどのことについて深く問いつめられること間違いない。


「桜ー!待ってー!」


なぬッ!ハヤカッタッ!

後ろからレジ袋を下げて霊音は現れた。

「はいこれ」と当たり前のようにレジ袋を俺に渡して横を歩き始める彼女はいつ見ても250歳とは思えない若々しさだ。

後ろからレジ袋を下げて霊音は現れた。

時間は16時を回りあかね色の空が広がり山は影となる。


「わたし桜に一つ聞きたいことがあるの」


霊音はあまり見せない真剣な表情をしてこちらを向いた。

どうやらさきほどの件ではない別件なのだろう。


「桜はイリスを何故助けたの?」

「別に助けた訳じゃないよ」


大晦日の惨劇の後、イリスは傘峰市を去った。だがしばらくして衰弱した状態で彼女はまたこの街に現れたのだ。俺が彼女を家に招いたのはただ単純な理由で、死にそうな人を見殺しにするわけにはいかない。そして少し感じていた彼女は俺に対して殺意を抱いてはないということ。


「ただ困っている人を助けただけかな。今だって後悔はしてないよ」

「やっぱりね二人の間にはあの大晦日の日から運命の糸が結ばれちゃったんだよ。運命の糸というか、執念の糸」

「執念の糸?」

「そう。あの日二人には切っても切りきれない縁ができちゃった。元々桜とイリスには必然の糸があったのだけれどそれはイリスの"思い"で解けた。だけど桜の"思い"でそれは新しい糸を紡いで桜とイリスは離れられない、お互いに恨み合うこととなったの。」

「つまり俺たちは」

「お互いにどちらかを消すことはできない。」


そんな馬鹿な。

俺はあんなにもイリスのことを憎んでいるんだ。いつかは・・・いつからこの手で殺せる。息の根を止めれる。そう願っているんだ。

彼女だって・・・ん?

イリスだって簡単に俺を殺せるんだ。息の根を止めれるんだ。

なら彼女は何故殺せない?俺は何故殺せない?俺とイリスの殺意を妨げているものは何だ?


「桜!!」

「ん!?」

「ちょっと急用思い出してね・・・服とか頼んだッ」


霊音はウインクと共に二つの尾がある黒猫の姿となり田舎道をまっすぐに駆けていった。

これをやられると後処理が大変なんだよ・・・

道に落ちているシャツとホットパンツ、下着、ブラジャーを手に取り周りを確認した後急いでカバンの中にしまった。


家に帰るとやはり霊音の姿はなかった。勿論喰奴もバイト中である。日に日に疲労がたまっている俺はリビングのソファでゆっくり眠りについた。






起きたのは午後7時30分。

周りの様子は寝た時となんの変わりもなかった。

霊音と喰奴のいる気配も無い。

たまにある化け猫通しでの集会に行っているのだと思う。

そうなれば晩飯は俺が作ることになるのだがその前に携帯を確認してみると新着メールが1件来ていた。送り主"麒麟凛獅南"の文字に心が高ぶった。

7時に来ているメールなのでまだセーフかな。

内容を確認してみると


今部活終わりましたー♪

初メール☆

元気にしてる?


あいさつといったところかな。

俺はそれに対して返信をし、そこから30分ほど互いにメールし、最後のお別れメール

それには自分でも驚く言葉が書き記されていた。


じゃあねまた明日♪

明日はさくら君にお弁当作ってくるんで楽しみにしててください


「桜ぁぁお腹空いたぁぁー」

横から聞こえる声を無視して俺は一人そのメールを読んでは読み直し心の中でガッツポーズをしていた。


「冷蔵庫にひき肉あるから今日はハンバーグでしょぉぉ普通に考えてぇぇー」


やばい明日が最高に楽しみだ。

胸が締め付けられるようなこの気持ち、そわそわしてじーとはしてられない。だかは携帯を見て今までのメールのやりとりを見て最後の一行を見ては笑顔をこぼす。端から見たら変人だ。


「端から見たら変人だ。桜」


今日は明日の獅南さんのために晩ご飯抜きにしても構わない。

もう獅南さんの弁当のためならなんだって我慢できる!


「気持ち悪いわ!!」

「痛っ!!」


うつ伏せになっている俺の背中に上空からエルボーが飛んできた。

イリスが俺に重なるような状態となっている。


「いきなりそれはない・・・ってかお前軽っ」

「お褒めの言葉はいいから早くごはんを作ってくださいナ」

「あー食器棚の上の袋にカップメ」

「ハンバーグでよろしくお願いします」

「かしこまりました・・・チッ」


結局手間のかかる料理になってしまったが、ここは非家庭的女の為にも料理教えながら作っていこうか。


俺とイリスはキッチンにたちひき肉をこねる作業から始め、タマネギを切って混ぜたりとごく普通のハンバーグを作っていた。さすがのイリスも俺と一緒ならスムーズに行動する。


「なあ桜。料理楽しいな」

「ん、これから霊音がいない時はイリスに任せるよ」

「任せてみろ。この家の食材すべて廃棄処分することになるぞ」


なに自分の料理下手に開き直ってんだ。

その冗談全然ありえる話だから素直に笑えねーよ。

ハンバーグを作り終え、俺とイリスはテーブルについた。主食とか作ってないけどこの際どうでもいいや。

ハンバーグを食べ終えた後俺は食器を洗っていた。いつもは霊音の仕事なんだけどね。


「桜ぁ、風呂入らないか?」

「いいよー・・・ん?、はっ?」

「さき体とか洗っとくから後から来てよ」

「あのーあなた女の子ですよねぇ?」

「霊音も喰奴もいないんださいいんじゃない?」


なんでイリスが疑問形を使うのか謎だが突然そんなお誘いを受けると驚くしちょっと気になっちゃったりもするしやけにイリスが可愛く見えちゃったりもする。

だけどそれはふつーにお断り。

正直ね、正直なとこ入りたいよ。絶世の美少女と一緒にお風呂なんてマンガやアニメの話でもそんなにないと思う。もし入ってる途中で霊音と喰奴が帰ってきたら俺の人生はそこで終了する。


「やめとく。霊音たち帰ってきたらやばいし」

「二人なら集会で11時まで帰ってこない」

「入りましょう」




10分後

こうしてただいまこのような状況になっているわけで、風呂の中向かい合わせな状態になっているのです。

風呂には白くなる液を入れているのでお互いに裸が見える訳ではないけれど恥ずかしいなこれ。

イリスも顔を合わせようとはしないしこいつも恥ずかしがっているのか。なんで誘ったんだよ!

無言が続いているので何か話さなければ。こんな状況だし少しくらいモラルの無いことを言っても大丈夫でしょ。


「結構胸あるんだな」


1秒後、彼女の寝ながらかかと落としが俺の頭上に炸裂した。

まあね、これはね俺が悪いよ。うん。でも少しくらいこういうノリにも乗ってほしかったってのはあるけど。でも裸のつき合いというやつ、聞きたいことは聞いておくべきだろ。と言っても彼女の気持ちを聞く前に素朴な疑問がこいつにはたくさんある。


「ごめんさっきのは冗談 ネタだから。うんネタ。 でな、質問があるんだけど、お前ってヤマタノオロチのハーフじゃん。実際見たことあるの?そのヤマタノオロチってのは?」

「無い。まずな桜、ハーフというのは妖怪と人間が交わって生まれる訳ではないぞ。」


湯気立つ風呂の中彼女はバスタブの端に肘をついて顔を斜めにした。そして、ふぅと息を吐いてイリスは話を続ける。


「人間には妖怪と契約を結ぶことができる。結んだら妖力を分け与えてもらい未知の能力を使うことができる。・・・桜、話についてこれそうか?」

「あ、まあ大丈夫。続けて続けて」


実際俺がこの妖怪の世界、未知の存在を知ったのは去年の冬だった。当時父からそれを知らされた時は信じれない話だったけど今じゃそれは当たり前。とても近い存在だ。さっきからイリスが言っている内容はオカルトでもなんでもないれっきとした現実。未だ公になってない世界の常識なのだ。


「その契約を交わした者は特別な力を得る。その代わり当たり前だが代償があるんだ。」


イリスはお湯の中に浸していた左腕を出して人指し指で俺を指した。


「男の場合、大切な人ーー愛する人の命を差し出すこと。生け贄を捧げる。これが代償」


次に彼女は左腕をまたお湯の中に浸して俺から目線を話して右上を見ながら言った。


「女の場合、妖怪の血の混じった子供を妊娠することーー処女でも子が宿るの。勿論その子供にも能力が引き継がれる・・・だけど」

「だけど?」

「母親の体は子育てに的した体にはならないの。母乳は出ないし我が子に愛情も生まれないだから・・・生まれてすぐ子は生きるために母を殺して血肉を食べて生き延びるのよ」

「え、何それ怖い話・・・?」

「本当の話。」


なら、ここにいる奴は過去に母親を食べて生きてきた生き物なのか?確かに、確かにそんな歳のうちに殺人を覚えてしまえばその先人を殺めることなど簡単に、普通にできてしまうのではないか。


「じゃあお前も自分のお母さんをーー」

「記憶は無いわ。だけど私がこうして生きているということはその過程があったってこと」

「お前の母親はのちに子供に食い殺されることを知っていたのかよ?」 

「そんなはずないでしょ、わたしの母はヨーロッパでは白聖祓師と呼ばれた有名なエクソシストだった・・・らしい。彼女はより強い力を求めて日本に来日したの。そこで九州で妖怪神ヤマタノオロチと会って契約を交わした。そしてわたしを妊娠してわたしに食いころされた。そもそもね、彼女は妖怪の血の混じった子を妊娠するということまでは知っていた。というかそれは霊媒師世界にとって常識。だけどその後の過程を知るものなんていなかったの。まず霊媒師自ら妖怪の力を借りるなんてありえない話 彼女は欲につられてしまった。」


イリス話ながら髪をいじり始めた。こいつは母親も知らないし父親も知らない。ましてや父親は八つの頭がある大蛇だ。親の愛情も知らないしそもそも人の愛情も知らない。哀れ。彼女は狂っている訳でもない、ただ可愛そうな子なんだ。 


「イリス、お前はその後どうしたんだ?親の死体だけでは生きていくのは難しいだろ?」

「知ってるよね阿部釈迦道(あべのしゃかどう)

「お前たち殺し屋四人衆に俺たちの殺害を依頼した奴だろ名前しか知らないけどな」

「うん。当時高校生の彼がねわたしを助けてくれたの彼は平安時代の陰陽師 阿部清明(あべのせいめい)の子孫なんだけど特別力があった訳でも無いし陰陽道を受け継ぐ気もなかった。そんな彼は私が14になるまで一緒にいてくれた」


いつのまにか俺は彼女の話の虜になってしまっていた。非現実だけど常識。そしてこの謎めいた女の過去と正体。話を聞いていくうちにますます彼女に嫌悪感を抱くようになってしまう。イリスを育てたのが俺の友と家族を失う元凶となった男であるということにとてつもない憎しみを感じてしまう。

会ったこともない見たこともない人間を殺すことを依頼したその男に対し会ったことも見たことない俺がとてつもない憎しみを感じる。それをぶつけることができない俺は憎しみの矛先をイリスに向けているのかもしれない。いや構わない。それが普通だ。一般な考えで気持ちだ。


もう何時かは知らないけど今日は特別だ。白い湯気はお互いの壁を見えなくするように、落ちてくる水滴とそれが水上で跳ねる音は静寂を破いて気まずさが無い。

イリスは止まらないかのように話を続けた。

 

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