雨男ストレンジラブ 1
田舎と都会が合わさったような街 この傘峰市のほぼ中心部に位置する蓋付高校で俺は高校生活2度目の始業式を迎えた。
そしてクラス替え
だが楽しみなどない。
だからといって不安も無い。
俺の青春とやらはとっくの昔に失われ、今は思い出を残すために高校に行ってるわけではなくただ行かなければいけないっぽいから通ってるだけ。無気力に行動し抜け殻のように口を動かさず何事にも無関心。今ではこんなはずではなかったと後悔することもない。
新しいクラスの教室に入った俺はとりあえず自分の席に座った。
辺りを見渡せば同じクラスになった友人と喋っている生徒もいれば、廊下で別クラスの生徒と喋っている生徒もいる。
小学校の頃から味わっている新鮮な空気だ。
そんな光景をぼーっと傍観した俺は窓の奥の景色を見た。
席は窓側の前から四番目。これから一ヶ月ほどは景色を見て休み時間を暇潰せそうだ。休み時間、他の生徒たちは友達と話したり遊んだりと暇を潰すと思うけど、どうも今年はそんなことやれそうにない。誰も俺と関わってほしくない。それは俺が人見知りが異常に激しいなどとかそのような問題ではなく一種のトラウマ、防衛的意識などだと思う。
なぜなら高校1年の冬、いや思い出したくもない。
午前8時30分、ホームルームも近いので生徒たちは着席していた。
窓から見える曇りの天気は始業式には不向きな景色である。
そんな景色に見飽きた俺は(これじゃあ休み時間もたないな・・・)ふと横の席を見た。
座っていたのは黒髪のボブヘアーにぱっちりとくっきりとしたまぶたで肌が透き通るくらいに綺麗な白色をした女子がいた。本を読んでいたのだが片手には携帯電話を持ってページをめくるたびに一度目線を携帯の画面に以降していじっている。手の動きからして誰かとメールしているのだろうか。
いや、本読むか携帯触るかどっちかにしろよ とツッコミたいところではあるが初対面だし話かけたところであまり関わりを持ってほしくないという俺の思いから会話も続きなそうだしやめておこう。うん。
頬杖をつきながら彼女を凝視していたのだが、俺は重大なことに気づいた。さっきから目が合っていることだ。最初は向こうもチラチラ俺の方を不思議そうというか困ったような顔で見てきていたのだが、そんなこと気にも止まらなかったせいかずっと俺が見ていたので向こうも俺の方を見ていた。
「あ、あの・・・どうかしたの? ですか」
突然喋りだしたので驚いた。
猫が喋り出したのかと同じくらいびっくりして俺は瞳孔を開いたまま少し黙っていた。
「あ、ごめん」
とりあえず謝った。
いや、この場合誤った。
ここで謝ると向こうは向こうで気を使ってしまうし、俺が彼女を見ていた理由が不覚明のまま終わってしまうので、ここは言っておかないとまずいよな。俺は自分のためにも彼女のためにも言葉を加えた。
「なんか、本と携帯両方持ってる人初めて見るなーって」
俺のとびきりの作り笑いをお見舞いしてあげた。ここ最近本気で笑ったことない俺だが思えば作り笑いですら久々な気がする。
彼女はは作り笑いとは思えない自然な笑顔をして本と携帯を持った手の肘を机から上げた。
「これ? ウチ本も読みたいけど同じ学校にいる幼なじみからメール来るからメールしてるんですよの あ、してるの」
「敬語とタメ口がごちゃまぜになってるよ」
「ん、ちょっと間違えちゃっただけ。クラスに知り合いいなかったから緊張してるだけだよ」
彼女が見せる戸惑いの顔と笑顔がかみ合って可愛く見える。
誰とも関わりを持ちたくないと思っていたけど。これは"偶然"なのだろうし運命ではないのだから、
この人と仲良くなっても大丈夫だろう。うん。
「俺も知り合いいないから、若干緊張してるかも」
「全然そんな風に見えないよ?むしろリラックスしてる」
「別にそんなことない ・・・そんな風に見える?」
「見える見える。なんか弧都瀬君意外と話やすい」
「あれ、なんで俺の名前知ってるの?」
「んーと、去年の12月のこととかで少し有名だよ・・・ごめん掘り起こしちゃって」
「まあ昔のことだし、忘れることら無理だけど気にしないことならできるからいいよ」
気を使ったように口をアヒル口にして上目遣いで彼女はゆっくりうんと頷いた。
忘れたくても忘れられないことは誰にだってあるけど
心の奥底ではそれを忘れてはならないという義務感があるのだと思う。だから忘れることができない。