act.10 2年前
「ハル!どうだった?」
「何が?」
「今日、学校行って来たんでしょ?『お友達』の反応は?」
「慎吾達か?全然怒って無かったよ。何か事情があるって察しててさ。どうしたんだ?って聞かれた。」
春樹はアメリカの本部に来ていた。
ここ一週間復帰にあたって、ゴタゴタしていたが、やっと落ち着いて春樹も学校に行くことが出来た。
これからもっと忙しくなって、登校する暇さえ無くなるだろうが、自分が学生という身分にある今はなるべく出席出来るように仕事の調節をしなければならない。
機関に復帰した以上、任務があるのは必然的だし、二年のブランクをどうにかするため、訓練も入って来る。
早速今日行われる基礎能力及び体力測定に春樹は溜息を吐いた。
「何よ。その溜め息は?」
「あぁ。学校の方は何とかなりそうだけどさ。今後のハードスケジュールがさぁ。」
俊也の執務室の来賓用ソファに腰を下ろした春樹は、正面でニコニコしながら自分を見つめているシンディから後ろでコーヒーを用意している俊也に視線を移した。
「俊也」
「・・・なんだ?」
言いながら俊也は淹れたコーヒーを春樹の前に置き自分も斜め前のイスに座った。
「めんどうなことになりそうなんだ・・。」
春樹は少し沈んだ声で呟いた。
シンディと俊也は一度目を見合わせて春樹を見つめた。
「どういうことだ?」
「長老に情報収集を頼んで置いたんだ。で、今日蒼に呼ばれて向こうに行って来た。」
俊也達は黙って聞いている。
春樹は少し辛そうに下を向いたまま話を続けた。
「向こうはシャバ復活のために本格的に動き出してる。」
「・・・そうか。まだ完全に蘇ったわけではないんだな?」
「あぁ。二年前に俺が倒した場所からまだ動くことは出来ないし、力も戻っていない。」
「でも・・・ハルキ、仕留めたはずよね?」
シンディが複雑な表情で春樹を見つめた。
俊也も真剣だ。
春樹は並々と注がれたコーヒーに目を落とした。
二年前の情景が脳を駆け巡っている。
ある小さな島。
特別に編成された精鋭部隊。
先人をきって砦を駆け抜けた自分。
進むにつれ減っていく仲間達。
シャバのいる玉座に辿り着いたとき、もう人間は自分だけだった。
回想に耽っていた春樹は自嘲気味に薄く笑った。
(俺を『人間』に入れるなら・・・だが)
そして、当時誰にも語らなかった話を始めた。
「あの時・・・シャバの力は弱っていた。それまでの戦線で疲労していたし、ラスボスとして気を張り巡らせていたからな。そんな状態だったにも関わらず、俺は苦戦していた。あわよくば相討ちに持ち込もうと考えたくらいにな。」
シンディと俊也は神妙な面持ちで顔を見合わせた。
確かにあの戦いのあと迎えに行った島に生きている者は春樹だけで、その春樹も相当な傷を受けて倒れていたのだ。
「・・だがあの時、息のあるものは春樹だけだった・・・。」
俊也は確認のように呟いた。
「シャバの遺体はあったか?」
「・・・いや・・・発見出来なかった。」
春樹の嘆息が執務室に響いた。
床を見つめながら、聞き逃しそうなほど小さい声で『そう・か。』と呟いた。
「俺はあの時確かに奴を仕留めた。それだけの手応えを感じた。だけどアイツは笑ったんだ・・・」
「笑った?」
「アイツ・・・致命傷を負ってるのに笑いやがった・・・俺を嘲笑うみたいに・・・」
自分も重症を負いながら心臓を串刺しにした春樹は、シャバの不敵な笑みと『また会おう・・……』と言う言葉を聞いて意識を失った。
気が付いたら本部の医務室にいたのだ。
俊也達にその後のことを聞き、奴等の活動が止まったことを知った。
本部は終戦を決定し此方側の勝利で幕を閉じた。
「あの時、確認出来ていれば・・・シャバは復活しなかった・・」
春樹の悲痛な言葉が響いた。