ある皇子から一人の少女への密書
親愛なるわがままな聖女様へ
俺が貴女の元を離れて既に季節が一つ、巡った頃でしょう。
お元気でしょうか?
新しい世話係に迷惑はかけていませんか?
とりあえず、いきなり噛み付くのは良くないと思います、いろいろと。
思えば、貴女はいつもすぐに脱走をしたり傷をつくって帰ってきたり。
とにかくいつも心配ばかりでなかなかに大変でした。
……特に池に落ちたときは本当に心臓が止まるかと思った。
本当だからな?
あれだけは、今後も本当勘弁してくれ。
と、失礼。
……まあ、丁寧に書いてもいまさらなので、ここからは砕けさせてもらう。
いなくなる俺からお前に、残しておきたい言葉。
"もっと笑えよ"
お前と来たら、いつもぶすっと無表情で。
まあ、表情変わらなくてもお前は分かりやすいから、特に困らなかったんだけど。
腹減ったときは特に分かりやすくて助かった。
献立までは、さすがに読めなかったけどな。
結局俺が見たお前の笑顔は数えるほどだけ。
でもさ。
それだけで十分、って思える程。
お前の笑顔は、素敵だと俺は思う。
だから、もっと笑って欲しい。
そうじゃないと、もったいないだろ?
だからと言って、無理に笑えとは言わない。
ただ、笑いたいときには、我慢をしないで欲しい。
それだけだ。
そろそろインクもなくなるから、このあたりで手紙を終えようと思う。
わがままで
無愛想で
笑顔が素敵な、一人の少女へ
俺のことは、まあ、気にせずに。
どうか、お元気で。
出来れば今後、二度と貴女と出会わないことを願って。
P.S
もしも出会ってしまったならば、躊躇わずにその剣を向けてください。
こちらの剣が、貴女を貫いてしまう前に。