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呪いの一族と一般人

欠片集め4

作者: 守明香織
掲載日:2026/01/31

お久しぶりです! 10章後編はまだお待たせしそうなので、短編の「欠片集め4」をお届けします。ちょっと長いですが、楽しんでいただければ嬉しいです。



*** 欠片7 お買い物 ***


 合流した四人は駅ビルの地下街へ向かう。

 地下街には複数の食料品専門店とスーパーがあり、そこでケーキと飲み物を調達することにしていた。


 ()(より)はショーケースの中に並ぶケーキを眺める。宝石のようにキラキラと輝くケーキは、どれも魅力的だ。


「全部美味しそう。(そう)()(ろう)さんって、どんなケーキが好きなのかな?」

「チーズケーキだな。ベイクドもレアも両方好きだって言っていた」


「詳しいね。()()君」


「壮太郎さんとも付き合いが長いからな。それに、壮太郎さんは基本的にカロリーと脂質が高い物が好きだから、それを基準に選べば間違いない」


「……それであの細さは納得できない」

「呪具作りは頭も使うし、力のコントロールも複雑で、エネルギー消費量が多いんだよ」


(力を使うからっていうのもわかるんだけど。私なんて、減ってた体重がどんどん増えていってるのに! 世の中は本当に不公平だ……)


「壮太郎さんって、苦手な物はないかな? ケーキに載っているフルーツとか生クリームが苦手な人もいるでしょ?」


「壮太郎さんが苦手な物は、ブルーチーズやクサヤみたいに独特な臭いがあるやつだって言ってたから、大丈夫だろ」


「俐都君達は? ケーキで苦手な物とかある?」

「いや、俺と(あつ)()も菓子類で苦手な物はないな」

(あお)()君は?」

「特にない」


「俐都、日和、ツンデレ君! これうまいぞ!」


 いつの間に離れていたのか。通路の少し先にある店舗の前で、試食用のスプーンを手にした篤那が笑顔で声をかけてきた。

 篤那は店員から新しいスプーンを受け取り、こちらへ近づいてくる。何を思ったのか、篤那は一口サイズのプリンが載ったスプーンを碧真へと向けた。


「ツンデレ君、食べてみてくれ。あーん」

「はあ?」 


 碧真は不快感を隠しもせずに顔を歪めるが、篤那には効果がなく、スプーンを口元へと近づけられる。


「やめろ。気色悪い」

「ツンデレ君はプリンが嫌いなのか? プリンが軟体動物だからか?」

「いや、プリンは動物じゃねえよ」


「俐都、プリンはプルプルと動く物だから動物だ。ツンデレ君がいらないのなら、軟体動物が好きそうな日和にあげよう」


「軟体動物が好きそうって何!? どこからきたイメージなの!?」

「? 脊椎(せきつい)動物の方が好きか。じゃあ、俐都に」


「っ、おい! (あご)にスプーンを突き刺すな!」

「ごめん。高低差で見誤った。俐都が小さいから」

「喧嘩売ってんのか!?」


「ふ、二人とも。周りの迷惑になるからやめよう」

「そうだっぐ!?」


 冷静になろうとした俐都の口に、篤那がすかさずスプーンを突っ込む。それは食べさせるというより、刺すような勢いだった。


「り、俐都君。大丈夫?」


 俐都は口を手で押さえて俯いている。表情は見えなくても、体から怒気が滲み出ていた。


「篤那……てめえ」

「俐都、どうだ? うまいだろう?」


「うまいけど、そうじゃねえだろう! スプーンを噛んで止めてなかったら、喉奥まで突き刺さるところだっただろうが!」


「ナイス反射神経!」

「褒めるんじゃなくて謝れや!」


「褒めて伸ばす方が成長するって聞いたからな……。はっ! 俐都、褒められたら身長が伸びるかもしれないぞ!! 今すぐ褒めよう。よしよしよしよし」


「頭撫でんじゃねえ!!」


(どうしよう。ケーキを買おうとするだけでもカオスだ……)


「わっ!?」

 

 後ろからグイッと腕を引っ張られ、日和は驚く。隣を見上げれば、碧真が呆れた顔で篤那達を見ていた。


(碧真君。まさか、このまま帰るなんて言い出すんじゃ……)


「もう面倒だから、日和が選べ」

「え?」

「あいつらに付き合ってたら、いつまで経っても決まらないだろう」

「確かに。でも、責任重大すぎない?」


 日和は正直言って、店には詳しくない。だから、今日のケーキの購入も四人で見て決めようと話していたのだ。


「日和が選んだものなら、間違いないだろう」

「え? もしかして、私、信頼されてるの!?」


「無駄に食い意地張った人間だからな。食い物選びくらいできないと、何の役にも立たないだろう」


「ここまで酷いぬか喜びってある!?」

「いいから、さっさと選べよ」


 文句を言いたいが、それだと篤那達のように話が進まずに時間だけが過ぎてしまう。日和は歩きながらショーケースを見ていくことにした。


(あ、これならいいかも)


 日和が見つけたのは、タルト生地のレアチーズケーキに大粒のイチゴとふわふわのクリームが載った物だった。


 誕生日用プレートも追加で頼むことができるか店員の女性に確認していると、俐都が篤那を引っ張ってこちらへやってきた。騒いだお詫びに店で何か購入したのか、俐都が紙袋を手に持っていた。


「俐都君、篤那さん。ケーキ、これにしない?」

「ん? お、うまそうだな。大きさも丁度いい。誕生日用のプレートはあるのか?」

「紙のやつか、チョコレートかクッキーか選べるみたい」

「じゃあ、チョコレートにしとくか。クッキーだと、タルト生地と被るからな」


「俐都、ろうそくも買おう! ……壮太郎は何歳だ?」

「壮太郎さんは、今日で三十八歳になるな」


 篤那と俐都のやり取りを聞いて、日和は眉を寄せる。


「本当に? あの見た目、どう見ても二十代半ばでしょ」

「だよな。出会った頃から、髪型や髪色くらいしか見た目が変わってねえし。歳とらねえのかって疑っちまう」


「見た目が大学生と高校生の奴が言うなよ」


 碧真に言われて、実年齢に見られた試しがない日和と俐都は揃って微妙な表情になった。

 篤那は店員の女性に向かってキリッとした顔で告げる。


「ロウソクを三十八本、追加で頼む。火の輪ができるものがいい。俐都に潜らせる」

「いろいろ突っ込みたいところはあるが、まず店員の人に迷惑かけんな!! 数字のロウソクがあるから、それで」


「そうだ! どうせなら花火にしよう。三十八本の花火で火祭りだ!」

「誕生日だって言ってんだろ!! なんでさっきから人様の家で大惨事を繰り広げようとすんだよ!! 数字のロウソクで決まりだからな!」


「暴君すぎると尊みがなくて困るぞ、俐都」

「暴走して困らせてばかりの奴に言われたくねえよ。何だよ、尊みって。意味不明なものを俺に求めんじゃねえよ」


「お、お会計をお願いします!」

 

 接客の笑顔が崩れかけている店員に向かって、日和が切り出す。

 なんとか会計を済ませる頃には、だいぶ時間が経っていた。一つのミッションをクリアしたことに取り敢えずホッとしながら、日和は方向を変えて歩き出す。


「次は飲み物だね。確か、こっちにお店があったはず」


 頭を軽く掴まれたと思いきや、後ろから呆れた溜め息が聞こえた。


「逆だ。方向音痴が舵取りしようとするな。迷惑でしかない」


「酒! 酒を買おう! 日本酒が飲みたい!」

「篤那、酒はなしだ。壮太郎さんは夜に(じょう)さんと出かけるらしいから、酒じゃなくてジュースを買うって言っただろうが」


 通路奥に進んでいくと、建物内にあるスーパーに辿り着く。

 日和が普段行くようなスーパーと違って少し値は張るものの、その売り場ならではの商品が数多くあった。


(うわー。高いけど瓶入りの果物ジュースとか美味しそう。誕生日パーティーだし、ちょっとお高めのジュースがいいかな? でも、炭酸飲料とかの方がパーティー感出るかも)


「俐都、うまい酒の期間限定バージョンがあった!」


 ジュース売り場の奥に酒コーナーを見つけて直行したのか、篤那が酒瓶を手にキラキラとした顔で振り返る。当然ながら、俐都は嫌そうな表情をした。


「だから、ダメだって言ってんだろうが! 酒は禁止だ!」


 篤那はシュンとした後、碧真を見てパアッと笑みを浮かべる。篤那は碧真に近づき、商品をアピールするように酒瓶を見せつけた。


「ツンデレ君。これ、すごくうまいやつなんだ。喉にはカッと、胃にはギュッとくる。体はポカポカ。頭はボヤボヤ。夢心地フワフワだ。一緒に飲もう!」


「飲まねえよ。運転できなくなるだろうが」

「帰りはタクシーを使えばいいだろう? それに、まだ俺達の関係を祝っていない。今がチャンスだ」

「祝うような関係なんてない」

「チッチッチ。俺達は友情を超えた熱い縁が」

「気色悪いんだよ」


 碧真がズバッと一刀両断すると、篤那は項垂(うなだ)れる。流石にショックだったのかと思い、日和は慌てて碧真のコートの袖を掴んで引っ張った。


「碧真君。ちょっと今のは言い方きついよ」

「は? 事実を言って何が悪いんだよ」


「いい悪いじゃなくて、人とコミュニケーションを取るなら、もっと優しさを持って」

「取りたくて取っているわけじゃない。それに、返事をするだけ良心的だろう」


「……だめだ。(ひね)くれ魔神すぎて話が通じない」

「日和のIQが低いだけだろう」


「は!? ちょっと聞き捨てならないんだけど! 私、これでも学生の頃は成績良かったもん!」

「どうせ、偏差値の低い学校だったんだろう」

「はあ!? 問題発」

「フッフフ」


 日和が言い返そうとした時、俯いていた篤那が肩を揺らしながら意味ありげな笑い声を上げた。怪訝に思っていると、篤那は顔を上げてキリッとした顔で口を開く。


「俺にはわかるぞ! 今のはツンデレの代表的なセリフ『べ、別にあんたなんかと仲良くないんだから』だ。これを俺の少女漫画に対する高い解像度をもってツンデレ翻訳すると『本当は仲良くなりたいし、特別な関係になりたい』というヒロインの不器用な愛の告白なんだ!」


 ドヤ顔で言い放った篤那は右手に酒瓶を持ったまま、碧真に向かって左手を広げる。


「さあ、ツンデレ君。迷わず俺の胸に飛び込んで来ていいぞ! 俺が全て受け止める!」


 隣に立つ碧真をチラリと見た日和は、口から「ヒッ」と悲鳴を漏らす。あと一つ機嫌を損ねる言動をしてしまえば、碧真は間違いなく魔王化する。すでにその片鱗どころか九割が見えている。漫画なら、顔は黒く塗り潰されているのに殺意に満ちた目だけがクッキリと浮かんでいるという描き方をされそうだ。


 日和が一人でビクビクしていると、溜め息を吐いた俐都が篤那の左腕を掴んで下ろさせた。


「篤那。これ以上、迷惑かけんな。酒買うのも、それ一本だけならいい」

「! 本当か!」

「ただし、自分の小遣いで買うこと。飲む量も加減しろ。周りに強制的に勧めるのは無しだからな」

「わかった!」


(お母さんと子供の会話だ……)


 碧真の魔王化は鎮まったが、イライラまでは治らなかったようだ。碧真は舌打ちして、俐都を睨みつける。


「もっと早くどうにかしとけよ」

「仕方ねえだろ。あれより前のタイミングで止めてたら、あいつはもっと暴走してたぞ。百パーセントな」


 俐都が疲れた表情で言うと、碧真は不服そうではあるが、それ以上は何も言わなかった。


 赤子をあやすように酒瓶と戯れている篤那を除いて、三人でジュースやお茶を複数選び取る。買い物カゴの中身を確認して、俐都が「よし」と頷いた。


「このくらいで大丈夫だろう。俺達はレジに並んで会計してくる」

「じゃあ、私達はスーパー前の通路で待っ」

「あ!」


 日和の声を遮るように篤那が声を上げる。篤那は酒瓶を抱き抱えたまま、財布を見ていた。


「俐都。財布に三十一円しかない。二百円貸してくれ」

「ったく、先に確認しておけよな」


 俐都は呆れながらもカゴを置いて財布を取り出すと、篤那に二百円を渡す。篤那は「ありがとう」と礼を言って受け取った。


(ん? あのお酒、絶対二百円じゃなさそうだけど……)


 酒を飲まないから相場に詳しくないだけかもしれないが、篤那が持っているのは瓶入りの五百ミリリットル以上はありそうなお酒だ。

 どう考えてもお金が足りないだろうと思っていると、篤那がこちらにやってくる。


「ツンデレ君、これを預かっておいてくれ」

「は? って、おい!」


 押し付けるように渡されるが、篤那は碧真が受け取る前に瓶から手を離してしまった。

 碧真がコートのポケットから反射的に手を出したが間に合わない。割れると思いきや、瓶は風に煽られる羽根のようにふわふわと宙に浮かび、碧真の手に向かってゆっくりと下ろされた。


 日和達が戸惑っていると、こちらに戻ってきた俐都が碧真の右上を呆れたように見ながら小声で言う。


流光(りゅうこう)……俺の守り神の仕業だ。こいつも酒飲みだからな」


 俐都は碧真が持っていた酒瓶をヒョイと手に取ると、買い物カゴに入れた。

 

「時間もねえし、俺がまとめて会計しておく」

「あの、篤那さんはどこに行ったの?」


 通常お金が足りないならATMに向かうだろうが、それだと篤那が俐都に要求した二百円の意味がわからなくなる。


(まあ、私が篤那さんの行動を予測できるわけがないんだけど……)


「篤那は宝くじを買いに行った」

「え?」




*** 欠片8 くじと守り神達 ***



「身分証のご提示をお願いします」


 目の前の店員が、口調は丁寧ながらも鋭い目で『お前は未成年だろ』と暗に告げる。今まで何度も繰り返したやり取りに辟易しつつ、俐都は身分証を取り出して見せた。


 店員は眉を寄せながら身分証を睨みつけた後、納得いかないという顔をしながらも「失礼しました」と身分証を返却して会計作業を終えた。


 溜め息を吐きたい俐都とは対照的に、お気楽かつ最悪な守り神である()(うん)(てん)(りゅう)(こうの)(みこと)は上機嫌に酒瓶をつついている。


『篤君が選ぶ酒はどれも美味いから楽しみだな。ただ、やっぱり量が足りねえ。なあ、俐都。尊敬する人の誕生日なら、一本と言わず十本くらいは買って祝ってもいいんじゃねえか? ビールかけっていう最高の祝い方を今こそやってみようぜ!』


(人様の家で、そんなことするわけねえだろ! 絶対、後片付けが大変だろうが!)


『俺に任せろ! 一滴残らず受け止めてやる! 神の威厳にかけてな!』


(もっと別のことで神の威厳を示せや!!)


 飲み物をレジ袋につめてスーパーの外へ出ると、他の客の邪魔にならない通路の隅に日和と碧真がいた。


 二人の元へ向かっていると、聞き馴染みのある足音が左側の通路から聞こえる。

 振り向くと、大人サイズのクマのぬいぐるみを背負った篤那がこちらへ歩いてくるのが見えた。篤那の両肩には、四柱の守り神達が手のひらサイズのぬいぐるみを抱えて座っている。


 通常の人間から見たら、篤那は巨大なぬいぐるみを背負い、両肩にもぬいぐるみを四体乗せたヤバイ男に見えるだろう。そのヤバい男が、ご機嫌な様子で俐都に手を振った。


「俐都! 壮太郎へのプレゼントが増えたぞ!」

「……お前、何してんだよ」


「お金のくじを引きに行こうとしたら、小さなUFOキャッチャーのクジがあって、面白そうだと思ってやってみた。そうしたら、一回で五枚のくじが取れて、九等と一等が当たった。俺の左肩からうさ太、リス次、ペンさん、ライ四郎。そして、こいつが熊五郎だ」


「なんでそんなものやってんだよ」

「? 面白そうだからと、ちゃんと説明しただろう。俐都、しっかりと話を聞いて理解してくれないと困るぞ」


「周りが理解できる思考をしてから物を言え!!」


「ツンデレ君と日和にも自慢しよう。二人はどこだ?」

「人の話を聞けよ!」


 篤那は俐都の言葉をスルーして、先へ進んで行く。篤那に気づいた日和が驚き、碧真が心底嫌そうに口をへの字に曲げるのが見えた。


 篤那はそんなリアクションに気づかずに、二人の元へ行く。

 二人にもぬいぐるみ達を自慢しているのだろうが、日和は戸惑い、碧真は冷たい視線を向けていた。


「篤那。いい加減にしとけ。つうか、宝くじは買ったのかよ?」

「まだだ。俐都。また百円貸してくれ」

「………仕方ねえな」


 俐都は呆れながらも財布から百円取り出して渡す。篤那は「ありがとう」と言って受け取った。


「ちなみに、宝くじ売り場はどこだ?」

「いや、さっき探しに行ってたんじゃねえのかよ」

「探していたら、ぬいぐるみクジに辿り着いた。俺の旅はそこで終わりだ」

「終わらせるな! 目的を達成しろよ!」


「宝くじ売り場なら、隣の建物の一階にあったと思うよ?」

「おお! 日和がガイドとして現れた。俺の旅は続きそうだ」

「この方向音痴が案内なんてできるわけないだろう」

「失礼な! 私だって場所覚えてるもん! この先を右に曲がればエスカレーターがあるから」


 一人で自信満々に進んで立ち止まった日和は、ポカンとした顔で左右を見る。どうやら、エスカレーターはなかったようだ。


 碧真を見れば、やっぱりなという表情を浮かべていた。日和が振り返った瞬間、碧真の表情が嘲るようなものへと変わる。日和は口を開いたが、何も言い返せないと思ったのだろう。悔しそうに口を閉じた。


 とりあえず、最初に通ったエスカレーターで一階へと上がった。

 日和は自分の記憶にある宝くじ売り場の周辺にある食べ物関連の店を碧真に伝える。碧真がその情報を元に場所の見当をつけて進むと、宝くじ売り場があった。

 

 篤那が窓口で買い物している間に、今回のケーキと飲み物の合計額を日和と一緒に計算する。

 碧真が車を出してくれているため、ケーキと飲み物の代金は、俐都と篤那と日和の三人で割り勘すると事前に決めていた。


「一人当たり千七百円だな」


 俐都は篤那の分も含めて、ケーキ代として多く支払っていた日和に代金を渡す。日和が財布にしまっている間に、篤那が戻ってきた。

 

「俐都。酒とパーティー代はいくらだ?」

「ケーキと飲み物代が千七百円、酒が千四百八十五円だから、三千百八十五円だな」


「じゃあ、借りたお金も合わせて三千五百円渡す」

「おう。ほら釣りだ」

 

 金銭の受け渡しをしていると、日和が「え?」と声を上げた。

 

「篤那さん、お金足りなかったんじゃなかったの?」

「足りなかったから、そこでスクラッチを一枚買った。今回は一万円分もらった」

「……え!? 宝くじって、そんな簡単に当たる物だったの??」


 俐都は「あー、いや」と言いながら周囲を見る。周りには人がいるので、あまり聞かれない方がいいだろう。


「後で説明する。それより飲み物も買えたし、そろそろ行こうぜ。壮太郎さんの家に着くのが遅れちまう」


 全員で建物の外に出て、碧真の車へ向かう。

 車を見つけた篤那は、ウキウキした様子で助手席側のドアの前に立った。


「ツンデレ君。今回は俺が助手となって、隣でサポートする!」

「はあ? ふざけるな。後ろに乗れよ」


「何故だ? 俺が隣に座れば、ときめく少女漫画のセリフをツンデレ君の耳元にダイジェスト版でお届けするのに」


「置きざりにしてやろうか?」


「む? まだ足りないのか? そんな欲しがりさんには、今ならなんと、ときめく顎クイもお付けしよう!」

「いや、なんで特典みたいに言ってんだよ。絶対にいらねえだろ。大人しく後ろに乗るぞ!」


「助手席に人生初めて座れるチャンスなんだ! この機会を逃したら、俺は一生助手席に座れないかもしれない!」


「え? 篤那さん、助手席に座ったことないの?」


「篤那はこれでも、(てん)(しょう)()家にとっては大事な人間だからな。立場上、後ろに乗せるだろ。……まあ、それは表面上の理由で、隣で奇行を起こされたら事故の元だしな。おい、篤那。ワガママを言うなら、酒を没収するからな」


「何!? それはダメだ」

「それなら、後ろに座れ」


 篤那はショボンとしながら、ぬいぐるみを抱えて後部座席のドアを開けて中へと入った。

 日和が助手席に座ると、篤那がぼそりと「いいな」と呟く。小動物のような目で見られ、日和は居心地が悪そうな表情を浮かべた。


「篤那さんの方がいいでしょ。宝くじだって当たったし、運がいいじゃん」

「経験は何物にも代え難い財産というようなことを、昔誰かが言っていた」

「た、宝くじが当たるのだって、経験じゃない? それも、滅多にないような」

「数え切れないくらい当たっている。買ったら毎回当たりだ」

「え゛っ!?」


「神から俺達の仕事に対しての報酬として当たるんだよ」


 驚いている日和に、俐都から説明する。


 神達は俐都と篤那に仕事を依頼した後、褒美として様々なものを与える。金や宝石、神々しか所持していない宝具、大量の米や野菜など。金運を司る神達からの報酬として、宝くじに当選したりするのだ。


「じゃあ、俐都君も当たってるの!?」

「まあ、篤那と同じだけ報酬は貰うから、買ったらまた当たるだろうよ」


「すごい。そんなことあるんだ。羨まし………くはないかな。私なら、確実に死んでいる仕事だろうし」

 

「まあ、否定できねえな」


 日和も俐都も苦笑いする。

 俐都と篤那の仕事は、一般人なら間違いなく死亡するレベルだ。内容にもよるが、天翔慈家の人間でも大半は死亡すると思う。故に、神々から俐都達への依頼が後を絶たないのだ。


「そういえば、ずっと疑問だったんだけど。俐都君達、ずっと旅してるんだよね? 二人が荷物とか持っているところ見たことないけど、どうしてるの?」


「俺達の荷物は紗夜(さや)に預かってもらっている」


 紗夜は篤那の四柱の守り神の内の一柱で、大砲を扱う黒髪の女神だ。

 紗夜の異空間は、彼女が人間の頃に暮らしていた家屋を基に作り出しているようだ。篤那と俐都の荷物をそこに入れさせてもらい、必要な時に取り出してもらっていた。


 紗夜はかなり気が()く性格をしており、こちらから何も言わなくても財布や携帯は必要な時にポケットに入れてくれていたり、預かってくれていたりする。


「俐都君の荷物もなの?」

「ああ。俺の守り神は信用ならないからな」


『おいおい、俐都ちゃん。俺のどこが信用ならないんだよ』


 流光が心外だと言わんばかりに話に入ってくる。俐都はギロリと睨みつけた。


(お前の全部が信用なんねえよ。不信に繋がる前科がありすぎるだろうが!)


 思い出しても腹が立つが、流光は俐都が寝ている間に携帯を勝手に操作して、待ち受け画面を露出した女性の写真に変えたり、画像フォルダにそういう写真をたくさん入れたりした。

 またある時は、俐都の財布を勝手に持ち出して、神達と酒を飲みながらギャンブルに興じたりと数えきれない悪行をやったのだ。


 ちなみに、ギャンブルは他の神達が上手(うわて)で、流光が逆転する前にお開きになったのだと、一円残らず搾り取られた空の財布を前に悔しそうに言ってきた。

 ボコボコにしてやりたかったが、俐都は流光を攻撃できないので、その時側にいた牛の神に代わりに頭を踏みつけてもらった。それで反省すらしないのだから、本当に(たち)が悪い。


 守り神とは思えない行動をする流光と、篤那と共に平和そうにぬいぐるみ遊びに興じている四柱のチビ神達との落差に、俐都は溜め息を吐いた。




*** おまけの雑談 ***

皆さんはMBTI診断をやったことはありますか? ちなみに作者はINFJ 提唱者でした。

登場人物達ならこう答えるだろうと想像しながら一人ずつMBTI診断をしてみたので、おまけとして載せておきます。

・日和→INFP 仲介者

・碧真・総一郎→ISTJ 管理者

・丈・美梅・俐都→ESFJ 領事

・壮太郎・篤那→ENFP 運動家

・咲良子→ISFP 冒険家

・喜市・市佳→INTJ 建築家

・雪光→ESFP エンターテイナー


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