僕に訪れた真実は
肉体から離れ、魂魄だけになった存在は輪廻の輪に戻る。
それこそが、世の理。創造神が定めた宇宙の法則だ。
ゆえに女神の前に立つ冬夜もまた、魂魄だけの存在に過ぎない。
「じゃあ、僕は…… やっぱり死んだの?」
『ええ、残念ながら。それに冬夜くんの身体は、これ以上ないくらいに完全に、完璧に駄目になっていました。冥府の神でもあなたの蘇生は無理でしょうね』
女神様は、事も無げに言い切った。
分かっていた事とはいえ、面と向かって言われるとなぁ。
やっぱりショック──というよりもショックが大き過ぎて……
僕はへたへたと床に座り込んでしまった。
ここまでの間に僕が体験してきた事が、夢じゃないとしたら……
ある意味では得難い体験をしているかも知れないね。
たしかに僕は幽冥という世界について聞いた事がある。
無数にあるパラレルワールド──三千世界の中心にほど近い場所にあるひとつの世界。
この先にあるのがアカシックレコード…… 輪廻の輪だ。
その中心には至高の神が住まう永遠の都がある、らしい……
そう教えてくれたのは、神宮寺の神主さん… 神社だけどお寺でもあるという変わったお寺だ。
住職さんはずいぶんと気さくな人だったのを憶えてるよ。
住職さんの姿を思い出した僕は、ようやく僕は自分が死んだという実感がわいてきた。と言う事は、心の奥底では未練があったんだろう。
なら、これで僕は成仏する事が出来る…… のかな?
僕はぼんやりと、そんな事を考えていた。
『あの……』
「わああっ!?」
女神様が、ぼけっと思い出にふけっていた僕の前に、にゅっと顔を近づけて話しかけてきた。
びっくりした、びっくりしたよ!
目の前に神様が心配そうな顔をして、僕の顔を覗き込んでいるんだ。
近い! 近いですって! 新高山が… 見えそうで……
あああああ、もうちょっと、もうちょっと… なん、だけど……
やば…… 神様の前だというのにシカトって… これはヤバいかな。
わわわわわ、ごめんなさい。
『何度も話しかけたのですが、気付いてもらえなかったので』
僕の想いをよそに、ほっとした表情で女神様は話を続けた。
『冬夜くんは、自分がどうなったのか分かっていますか?』
ええと、それってどういう……
たぶん僕は死んだと思うんだけど、果たしてそれはどうなんだろう。
あの状況なら、確実に死んだと思うけど…… ひょっとすると運よく助かって病院に担ぎ込まれたとか。
僕が女神様を前にしているのは、心の奥底に眠っている願望とか欲望とかが見せている夢…… かも知れない。
うん、そうかも知れない。
そうだとしたら、いつかは夢から醒めるだろう。
夢から醒めたら、きっと忘れてしまうんだろうなぁ。
この幽冥という世界の事も。
女神様に会った事も。
あ、いけない。
再び意識が遠くなって…… 思考の海に…… 今度は踏みとどまった。
両手を胸の前で組んだ女神様は軽くため息をつくと、やっぱりね、という表情で言ったんだ。
『……そんな事だろうと思っていましたよ』
それってどういう事なんだろう。
これは病院に担ぎ込まれた僕が見ている夢…… だと思うんだけど。
いや、そうだと思う。きっと、たぶん、これは僕が見ている夢だよ。
それより女神様。もう少し離れてもらえると僕としては、その……
『あの…… 見ます?』
「見たいです!」
間髪入れずとか、脊椎反射って、たぶんこういう事なんだろうと思う。
でも、特に山頂部分が…… とはさすがに言い出せなかったけど。
言ったらさすがの神様でも怒ると思うんだ…… け…
だ、だめだ。目が離せないぃぃ……
うんうん、冬夜くんも男の子なんだねぇ。
それも仕方が無いかな。だって冬夜くんの理想のおねえさんだもの。




