人造生命体イミューン
こいつ──2匹(?)のイミューン──を身体に付けられたのは昼間のことだ。
最初はぬらぬらと粘液を出しながら身体の上を這いまわっていたけど、今のところ僕の胸のあたりでお休み中ときている。
そういや芹沢博士が不吉なことを言ってたよね。
──あれはもうひとりのキミなのだからねぇ。
ンな馬鹿なことがあるかぁ! さっさと取れえぇえええ!
って、思っていた時期もありました。
でもね……
「いくら冬夜くんの頼みとはいえ、そんな酷い事は出来かねるよ。このイミューンは君の体細胞から作り出したものなのだからねぇ」
「センセ、それってぇ、どーいう事ぉお? おにいにおっぱいって」
う。 ……やっぱり、そーなの?
「うむ、イミューンは文字通りの意味で免疫機能に特化した生体組織なのだよ」」
「芹沢くぅん? それ、初耳なんだけどぉ?」
がしっ。
「あがががが… 痛い割れる爆ぜるるるる…… 山之谷博士、止めてくれたまえぇ」
「頭を握りつぶされたくなかったら……」
周囲の空間を凍てつかせるような訓息をまとった山之谷は、芹沢の額にぎりぎりと指をめり込ませながら、静かな声で命令した。
「とっとと白状なさい。芹沢、あなたこの子の身体になにをした?」
「イミューンを寄生させm…」
「なんなのよ、そのイミューンというモノは? 何となく名前から想像はできるけど…」
僕の胸に張り付いた『イミューン』というナメクジっぽいモノは、僕の細胞をベースにして生み出されたクローン生物だそうだ。そういう意味では、僕の一部… か。
ただしイミューンの機能はあくまでも免疫機能の強化だと言うけど……
「冬夜くんから採取した体細胞の遺伝子を書き換えて免疫能力を強化したと言うのね?」
「細かい事は省くけど、結論から言えばそういう事なんだ。冬夜くんの細胞を使ったのは、あくまで彼の身体に馴染みやすくするためだよ。まあ、ちょっと細工はしたけれど……」
「ふぅん? まだ話さなくてはならない事があるのねぇ?」
ぎりぎりぎりぎり……
みしみしと、聞こえてはいけないような音を立てて、芹沢の頭蓋がゆがむ。
「あががが…… あとっ、混ぜましたっ! 私の遺伝子情報もっ」
「えええ? じゃあ、これっておにいとセンセの遺伝子で出来てるってことぉ……!?」
「そっ、そうだとも。ほっ、ほんの出来心だったんだよぉ」
で、このイミューンは体の中に潜り込んで、新たな器官として働き始める筈だったらしいんだ。博士の目論見通りの性能… なら、僕の辞書から病死という単語が削り取られる事になるはず。
「うむ、人間の免疫機能は実にもろいものなんだ。感染した最近の種類によっては免疫機能がリセットされる事もあるのは博士も知っているだろう?」
「……はしかがいい例ね。免疫細胞が持っているデーターを全部、破壊してしまうわ」
うん、前にもそんな話を聞いた気がする。はしかのウイルスに感染すると、これまでに獲得した免疫情報がリセットされてしまうって。
だから他の病気にかかりやすくなるらしい。
「君たちが入れ替えた腸内細菌だって、同じような機能があぁああ いだだだぁっ」
「冬夜くんの腸内細菌、かなり早いうちに入れ替えたわよねぇ?」
……秋に偽物の博士が来た後で、そんな処置を受けたような気がががが。
免疫力の強化のため、腸内環境を常に万全なものにするために、新しく作り出した腸内細菌と入れ替えるんだって……
たしかに免疫力と腸内細菌って、深いつながりがあるらしいんだよね。
さすがの僕だってヨーグルトか何かで、そんな効能をうたった商品が出回っているくらいの事は知っている。
それはそれとして、だ。
遺伝子書き換えで作り出した腸内細菌を、これまた遺伝子操作で生み出した……
細長い触手みたいのを体の中に押し込んでぐりぐりされたんだよなぁ。
あれ、もう少し時間がかかっていたら、性格が変わっていたかも。
ぶっちゃけ、開きかかった扉を全開にされかかったんだもん……
「うむ。冬夜くんの場合、あれだけでは不十分だと思ってね。イミューンは、あのワームで接種する細菌を改良・強化した内臓器官なんだよ」
「機能的に問題がないなら…… 多少の失敗には目をつぶるしかないかしらねぇ」
何だか分からないけどイミューンは取れないってこと?
VRゴーグルの視界の下のほうに見えるピンク色のやつって……
この状態で見えるって事はサイズもそうだけど、それなりの重さもあるんだよね。
はしか(麻しんとも言います)は感染力はきわめて強く、おまけに空気感染で広がる厄介な病気なのです。これにかかると、はしかの免疫は出来ますが、それ以外の人体の免疫機能(特にデーターベース)が初期化されてしまうらしいです。
出典:厚生労働省のホームページより。




