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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
夢見るように、ねむりたい
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ウシミツドキの誘惑

 今日は…… いや、もう昨日からになる… か。

 日付が変わって、午前2時になるところだからね。


 真夜中だというのに誰も寝ていないばかりか、病室も緊張を通り越して… ぴりぴりしたものに変わっている。

 なんでこんな事になっているかというと、だ。


 今日… いや、昨日は目覚めからして大変な目にあったんだ。

 おっぱいに埋もれて窒息死寸前なんて悪夢のような──ご褒美だと?──体験をしたし。リハビリや、なかなか下がらないままの熱のせいで、体力も消耗しているはずなのにね。

 それなのに、なぜか僕は眠れないでいる。


「……どうしてこうなったんだろ」


 そして、病室にいるのは僕だけじゃない。

 今夜の当直看護の友里さん、付き添いの美月は分からなくはない。そして芹沢博士と岩本女史も… まあいいか。

 でも、山之谷博士まで一緒というのはどういう事だろう。


 微熱でぼうっとする頭を必死で働かせて、状況を理解しようとしているんだけど。今ひとつ納得が出来ないというか、理不尽というか……


 うん、幸運なんか無いよ。

 列車事故でかろうじて命拾いした僕だけど、全身マヒで寝たきりになって。

 おむつを手放せない身体になっちゃったんだよ?


 それだけならまだしも、だ!


「妙なものに寄生されるなんてさあぁあ!」


 ……やっぱり僕は、不幸だけが友達さ。


「まあまあ、冬夜くん。ここは何も考えないで私たちにすべてを任せるにゃぁ」

「にゃあって…… 友里さん… ?」


 新聞が読めそうなほどに明るい月の光のせいか、友里さんの姿もちょっと変だ。

 頭から猫とかキツネみたいな三角形の耳がぴょこんと飛び出している。

 時々ピコピコさせていたカチューシャ、ついに隠すのをやめたのか。


「今夜の月は、スノームーンと言う特別な満月にゃ。それに今は草木も眠る丑三つ時(うしみつどき)だから、何が起きても不思議はないのにゃぁ」

「たしかに不思議と言えば… 不思議ですね。友里さんにコスプレ趣味があったなんて、今の今まで知りませんでしたよ」


 僕がそう言うと、友里さんはあいまいな笑みを浮かべながら、窓を見た。特殊な変更ガラスで出来たそれは外から病室の中を見る事はできないが、病室からは違和感もなく外を見る事ができる優れものだ。

 さらに強すぎる光は遮ってくれるという、まさにカーテンいらずの優れものだ。


 おかげで、煌々と輝く満月がよく見えるんだけど……


「この満月のせいかな、まったく眠くないのって」

「確かにそうかも。昔から満月の光には特別な魔力がこもってるって言うしぃ?」


 そう言う美月も、いつになく生き生きとしているような気がする。こうして月の光を背にしていると、いつもよりぐっと大人びているというか……

 あの邪神にも似た雰囲気をまとっているような……


 うん、気のせいだ、気のせい。

 微熱の治まらない僕が真夜中に… 真夜中……


「……草木も眠る丑三つ時… か」


 満月を見て、何気なくつぶやいた今の一言に… 僕ははっとした。

 今の時間は、午前2時だ。つまり怪談なんかでよく言う丑三つ時というわけだ。

 それは最も夜が深く、この世の全てのものの境界が曖昧になる時間だ。時計の文字盤に当てはめて12時を北とすると、北東──丑寅(うしとら)の方角──にあたる。


 草木も眠るような静寂の中で、神が──あるいは魔の者が出入りするとされるために、恐れられている…… 時間だ。


「それにしても、拙い事になったわねぇ」


 つんつん、ぷにぷに。


 止めてくれませんかね、山之谷博士。僕の胸をつっつくの。


「私が突いているのは君の胸に張り付いている寄生生物よぉ? それにしても……」


 むにむにもみもみ。


「実にリアルなものねぇ。見た目はおろか、触感や固さまで本物そっくり」

「ふっふっふ、私としても会心の出来だと思ってるのだよ。完全に融合すれば、生まれた時からあるモノと言われてもおかしくないだろう」


 いや、そんなことを言われても。

 というかイミューンでしたっけ、これ? 取ってもらえませんかね。

北米の先住民は、2月の満月のことをスノームーンと呼んでいました。

一年のうちで、最も多く雪が降る時期とも、月の光で雪原が広く見渡せるからとも言われているとか。もちろん諸説はありますけれどね、

ここ最近の気候を思うとロマンよりもヘイトがががが……

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