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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
夢見るように、ねむりたい
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うたかたの幻夢(前編)

 僕は──夢を、見ていた。


 自分でこんな事を言うのも難だけど、ここは間違いなく夢の中の世界だ。

 こうなるまでの最後の記憶はイミューンに好かれて、身体から離れなくなった事か。


「イミューンは、もう一人の冬夜くんなんだよぉ~」


 芹沢博士は「うぇへへへ……」と、ちょっと逝っちゃった表情をしながら、ゆるゆるの笑顔でイミューンを撫で回していたけどさ。剥がせなくなったって言う事は、ナメクジみたいな胴体には吸盤でもついていたんだろうか。

 何にせよ、胸に不自然な重さがあるせいで、妙な寝苦しさを感じてる。


 ひょっとして、イミューンがどんどん大きくなって僕は丸のみに近い状態になっちゃうんだろうか。子供のころに、そんな映画をテレビでやっていたような気がする。

 見終わった僕は、その時のエイリアンがとっても怖くて怖くて…… 泣きながら母さんのベッドに潜り込んだんだが……


 父さんも、ああいうのは苦手だったんだなぁ……


 まあいいか、そんな事は。

 胸に張り付いた2匹のイミューンは、剥がされまいと頑張っているうちに僕の身体に何かをしたのかもしれない。

 もしくは……


 動き回る時に出していたぬめぬめした液体が悪かったのかも。

 僕がすごい熱を出しているのは、それが原因なのかも知れないんだよね。

 博士はムチンというたんぱく質で、無害だと言っていたけど……


 ここまでは、起きている間の出来事だったはずだ。僕も似たようなものだったはず。

 うん、すごく眠くなって…… うん、あのまま寝たんだと思う。

 そうじゃなかったら、こうはならないと思うんだ。


 だってさ……


 僕が立っている場所はストーンヘンジみたいな場所だもん。

 正確にはストーンヘンジの真ん中にある祭壇の前に立っているんだ。

 うん、間違いないね。一瞬で連合王国にテレポートなんて出来るはずないもん。

 だからここは間違いなく夢の中だ。


 ……っと、それは別にいいんだ。夢ならいつかは醒めるだろ。


 問題は目の前で繰り広げられている、この状況だ。

 ゆっくりと祭壇の前に浮かび上がった映像というか、プロジェクションというか。

 何もない空間に映し出されているのは、僕の病室のようだけど。

 視点は病室の棚に… いや、美月の横に座らせている大きな人形のもののようだ。


 それにしても美月のやつ、やけに殺気立ってるな。

 殺気を向けるさきにいるのは大きな花束を持って誰かのようだけど。

 なんだ、美斗が来たのか…… 


「ここから出てけ、クソ女!」


 部屋の様子からすると病院に担ぎ込まれた翌日の──精密検査をしている間の出来事のようだけど。いったい何のために、僕に会いに来たんだろう。

 かいもく見当が… まさかアレか?


 あいつが来る理由なんてそんな処だろ。例の暴露プログラム。

 SNSにアップしたのファイルは全部で7つだけど、やり方が姑息だったかな。

 内容的には僕の死を知った誰かがあいつらを売った… って事にしてある。


 ファイルの送信プログラムは僕のスマホにあるし、一種のセーフティ──デッドマンスイッチ──が組み込まれている。つまりカウントダウンをして、残り時間がゼロになったら乗っ取ったスマホを使ってSNSにファイルを書き込むというモノだ。

 書き込みが終わったら証拠や痕跡は残さず消し去るのは基本だよね。


 何故こんな事をしたかというと、事件をもみ消された時のための保険のつもりだった。

 美斗の様子だと、最後の──旧校舎での出来事の──動画ファイルまではアップされてないのだろう。


 美月と美斗は、しばらく言い合いをしていたようだけど、ようやく美斗は諦めたようだ。


「……後悔しても知らないわよっ」


 荒々しくドアを開けると、捨て台詞を残して病室から出て行った。

 でもこれは、どうした事だろう。ひょっとするとオカルト話に出て来る明晰夢か……

 そこまで気が付いた途端にあたりの風景が消え去って。


 上も下も、右も左も、何もかもが分からない真っ暗な空間に、ぽつんと浮かんでいる僕の姿に気が付いた。


「やっぱり夢だね……」


 冷静に考えてみれば、美斗が来るなんてあり得ない。

 家族以外には入院している病院は知らされていない筈だ。仮に病院を見つけても、面会謝絶の札のかかった個室に近づく事なんか出来っこない。


 いや、まさか動画ファイルがアップされて… とか……


 ははっ、どうだろうね……

これは冬夜くんが見た夢なのでしょうか。

それとも、ぬいぐるみが冬夜くんに……

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