リハビリは大切です
今日は朝から電気治療器につながれている。今までは週に2~3回だったから、連日の治療というのは初めてだ。
治療器につながれた僕の筋肉がぴっくんぴっくん動くのも、慣れれば気持ちよく感じてくるもんだし、電極の数を増やせば手足を動かすことも…… 出来たりする。
「はぁい、汗を拭きますね~」
激しい運動はしていないけど、筋肉を動かせば当然のことながら汗をかくよ。
それは自分の意思じゃなくて、電気刺激で強制的に動かしても同じ事なんだ。
リハビリとはいえ運動すれば、体温も上がるし汗もかくのは当然の事だよね。
「運動、かぁ…… これ、体育の出席点にならないのかなぁ」
「はっは、冬夜くん。キミの意欲は評価に値するねぇ。何なら校長に掛け合おうか?」
あの狸野郎の顔は2度と見たいとは思わないね。テメーの事しか考えていないもんな。
下手に関わると、ろくな事にならなそうな気が……
「…………遠慮しときます」
「んー、私もそう思うよ。私もあの半人間は毒になっても薬にはならんと思うからねぇ」
ちーん
かすかなベルの音とともに、筋肉に電流を流していた機械が止まった。
今日は脇腹とかお腹──要は腹筋だよ──の筋肉を動かしていたんだけどさ。
みぞおちのあたりがちょいと…… こりゃ、明日は筋肉痛かな。
「安心したまえ。この程度の負荷じゃ筋肉痛になんかならないとも」
「そぉ、ですか」
自分の意思ではどうにもならないとはいえ、筋肉は電気刺激に反応するんだよね。
EMSという健康器具なら知ってるだろ。原理はあれとおんなじだ。
僕がつながれているのは、それを全身に使えるようにした医療装置だ。
芹沢博士と山之谷博士が立てた仮説によれば、僕の身体に起こった問題は脳と神経が繋がってない──神経系のどこかで脳からの信号が漏れている──という事らしい。
じゃあ、神経系が駄目になっているかというと、そうでもない。
つまり部品単体で見る限りは、ドコにも問題はない。正常そのものだ。
筋肉組織にも問題はないし、筋肉と神経のつながりにも問題はない。
そして脳の──心理的な問題でもない。
つまり信号漏れを除けば、僕の身体は健常者と言えるレベルなんだけどね……
「くふふふふ。漏水や漏電を探すようなモノさねぇ」
少し遅れてやってきた芹沢博士は、機嫌良さそうに腕の筋肉を撫でている。
いや、つつつーってされても腕とか肩なら良い方だけどさ。
「じゃあ、電極を付けなおそうか」身体から電極のついた吸盤をはがすと「芹沢博士、骨盤底筋… どうします?」
山之谷がにんまりと笑いながら外した吸盤に手を伸ばした。
「うむ、それなら腰回りを一気にやってしまおうか」「えへへ… さぁあ、ご開帳!」
ぺりぺり……
「えっ?」
ちょっ!? おま…… なんでおむつを脱がそうと? ちょっと待ってよぉぉ!
「骨盤底筋は骨盤の底にあるんだよ。ハンモックのように内臓を下から支える筋肉の集まりだから、これが弱ったままだと大変なことになるんだよねぇ」
「えええええ?」
「岩本くん、両足を思いっきり…… うん、それでいい。じゃあ、付けてしまおう」
あっという間に足を開かれて、あっちこっちに吸盤をつけられてしまった。
「スイッチ入れますね~」ぽちっ「あぅあああ……」
この刺激、なんか癖になりそう……
「君が寝たきり少年になるのは拙いからねぇ」「そうですよぉ。気がつくのが遅れたら、立てなくなるどころか『ずーっと』おむつ少年から卒業出来なくなりますねぇ」
……マジ?
「治療の目的は君の筋肉を衰えさせない事だよ。あとは関節が固まってしまわないようにするためのものだからね。だからこれはね、必要な処置なのだよ」
「芹沢博士は君を歩けるようにするって頑張っているけど、それ以前に、ね?」
寝たきりだし体も動かないから仕方がないといえばそれまでだけど、今の僕の体力レベルは小学生と変わらない所まで落ちているらしい。
さらに筋肉が落ちた分だけ脂肪が増えている…… と言ってたかな。
「ついでに電極をつないで腕の筋肉を動かしてみようか」
「をごごごご…… それ、ヨガマスターでも出来ない角度ぉ!」
「いやいや、そんな事はないとも。この程度なら私だってできるよ。 ……ほらね?」
うわぁ、マジで出来るんだ。意外と身体、柔らかいんですね……
「何を言うんだね? ラジヲ体操第2じゃないか。冬夜くんも体育でやっただろう?」
なんてこったい!
……リハビリ、頑張ろう。
退院してから体力がガタ落ち、お米の袋さえ持てなくなっていた私ですが。
体力低下の影響で一番困ったのはおトイレする事だったりします。
下げたり上げたりどころか、座るのがががが…… 手すりさん、ありがとう。
冗談抜きで、たった半月でこうなる事もあるんです。




