すみっこの戦争
ついに年が明けた。いや、いつの間にか開けてしまった。
事の起こりは姫納めが終わって、身体をきれいにし終わったころの出来事… だ。
ごーん……
「おにい、あけおめ~」「冬夜くん、明けましておめでとうございます」
「……おめでとう、冬夜さん」
病室で年越しをするのは、僕と美月。そしてなぜか看護婦さんが2人。
友里さんと… たしか天野さん。たしか看護婦長って言ったかな。
彼女は『私には権利がある筈よぉお!』と、年末年始の当直勤務を強引に志願したんだとか。まあ、年末年始の特別手当がおいしいだけかも知れないけど……
そういや僕には外泊許可が出ていた筈なんだけど、話がどっか行った。解せぬ。
……と、言うわけで今に至るってわけ。みんなでテレビを見ているんだけどね。
遠くから除夜の鐘… いや、テレビからか。
うん、そうだよ。年が変わる15分前から始まるあの番組だ。毎年、いくつかのお寺から実況中継をするんだけど、今年はどこだろうね。
「今年の目玉は大賛寺ですって」「いつ見ても、あの超巨大梵鐘は見事って感じぃ?」
「あれ高さ10メートルもあるんだって。どんだけ重いのかしらねぇ」
ああ、あのギネスに載った梵鐘か。たしか推定250トンもある鐘を鳴らすのには大砲でもなきゃ無理って言われているんだよね。昔の人はどうやって鳴らしてるんだろ……
たしか室町時代のええと、何だっけ。鳴らした人がいたよね。
「ねえねえおにい、あーし知ってる。常陸国の巨人の話でしょ」
「まあ、美月ちゃんは物知りねぇ」「えへへへー」
美月の頭を撫でくり撫でくりしているのは友里さんだ。今年こそは帰省するって言ってなかった? というより、しばらく家に帰ってないでしょ。いいの?
「いいのよ。実家に帰ったってこたつに潜り込んでミカンを食べるだけだもの」
それよりも冬夜くんといる方が楽しいのよぉ~と言いながら、ニコニコ笑ってる。
ごぉおぉぉん……
「おお、また鳴った!」「凄いわねぇ」
ここからだとテレビの画面がよく見えないな。頭を…… ありがとぅ… ってぇええ?
テレビの画面の中では、梵鐘に負けないくらいの大きな撞木で鐘をつく様子が映されている。一人の人影が、撞木から伸びている太い綱を後ろに引くと、撞木はゆっくりと後ろに下がり、やがて勢いを付けて鐘を打ち据えた。
腹に響くような重厚な鐘の音が響き渡る。
すごい。どんだけ力持ちなんだ、あの人は……
最初はそう、思ったんだけどね……
「なんだよ、あれ反則…… ええええっ?」
やけに大きな体つきをしていると思っていたら、鐘つき男の正体は装甲騎兵だ。
それは現実に存在するはずのないモノだ。装甲騎兵なんてシロモノはアニメやSFの世界にしか存在しないはずの──空想の産物でしかない筈なんだ。
もう一度言うよ。
リアルロボット路線の頂点とも言える装甲騎兵は『空想の産物』だったはず。
しかし、テレビの画面の中で鐘をついているのは、まぎれもなく装甲騎兵だ。
画面の様子から、それは決して実写合成のたぐいではないだろう。他のテレビ局ならいざ知らず、詐欺同然の手口で国民から視聴料をこそぎとる国営放送の実況中継だ。
「ちょっと待て…… マジかよ」
「あれって、おにいの好きなダイビングトータスじゃない。良いもの見たって感じ?」
そう言うと、美月は冬夜に抱きつくと、耳元に何かをささやきかけた。
「ん、ああ…… そう、だね……」
僕はさっきまで何を興奮していたんだろ。
ダイビングトータスは海軍が上陸作戦用に使ってる。正式名称は7式装甲騎兵。
去年の大蝦夷上陸戦ではスミノフ帝国の残存戦力を相手に大活躍したじゃないか……
「陸軍が大見得切ったのは良いけど、人力じゃ無理だったようね。で、大砲を使おうって話になり掛かったって感じぃ?」
「でも、そんな罰当たりな事をさせられるか! って、海軍大臣が言い切ったのね…… 美月ちゃん、いつまで冬夜くんに抱きついてるつもり? こっち来なさい)」
「(いやあぁああ!)」
「……防衛省もなかなか大変なんだなぁ。つーか、メンツって大切だよねぇ」
冬夜はそう言うと、穏やかな表情でテレビの映像をながめていた。
その脇──冬夜の視界から外れた一角では、美月と友里の間で静かな戦争が始まりつつあったのだが。
「(あなた、あれほど冬夜くんを虐めないようにって言ったでしょ!)」
「(虐めてなんかいないってば!)」
「(黙りなさい、貧民。骨が当たって冬夜くんに何かあったらどうするつもりなの?)」
「(……ぐぬぬ。少しはおっきくなったもん)」
「(誤差の範囲でしょ!」
それは、冬夜の耳には聞こえない、小さな小さな……
すみっこの戦争。
明けましておめでとうございます。
皆様にとって今年も良い年でありますように。
投稿パターンは、去年と同じように火曜日と金曜日ということで。
皆様、よろしくお願いいたします。




