○○なVRゴーグル
それまで使っていた病院のVRゴーグルと違って、いま使っているのは芹沢博士が届けてくれた試作品だ。
一見するとスキー用のゴーグルをちょっと大きくした物にしか見えないけれど、その中身はスーパーテクノロジーの塊だ。
電源は僕の体温と生体電流だし、視線入力システムも最新型ときている。
特に視界が広いのは有り難い。目を動かして何かを見るのには限界があるからね。
「こいつ、すごい!」
「今までのものよりも少し重いそうですけど、どうですか?」
「うーん、それほど変わらないような気がするけど」
この前の精密検査で僕は謎の病気として認定されて、手帳が交付されたんだけど、その関係らしい。
でも、本当にいいのかな。こいつは試作品とはいえ最先端技術どころか、その先を行くテクノロジー満載のワンオフ品だよ。
「おにいが芹沢博士に気に入られたからだよ。うん、そう言う事でいいんじゃない?」
「そうそう、私も貰える物は貰っておけば良いと思うわ」
そういうものかな。
まあいいか。こいつは慣れるまで大変そうだけど、カタログスペックを見てしまったら、病院のゴーグルには戻れないよ。
とにかく別次元の性能と言ってもいいんだ。
「例えて言うなら、関数電卓とオフィスコンピューターくらい違うんじゃ無いかな」
「そんなにぃ?」
そりゃそうだ。パソコンだとCPUコアが16の64ビットマシンだけど、オフィス用は128ビットマシンだ。
どこかの雑誌でPCマニアが『200万ちょっとのお値段にビビってるんじゃねぇ』なんてを投稿していたけど、それでもスタンダートモデルだもんなぁ。
「職員室に1台あるけど、そのくらいのスペックが無いと人工知能が使えないんだよね」
「そっかぁ、じゃあおにいが使ってるのは、さしずめ人工無能って感じぃ?」
「このVRゴーグルの性能がよすぎるだけだろ」
とはいえ、病院のVRゴーグルだって端末に過ぎないんだよね。平たく言えば病院のホストコンピューターが無かったら、ただの表示装置だもん。
視線入力システムだって、いくつかのボタンをクリックするのが精一杯だ。
それにネットへの接続は無理なんだよね。例外はリモート授業だけど、教育テレビの講座を見ているだけ。
でも、芹沢博士が作ってくれたのはもっと細かい動きが出来る。
まるでパソコンのマウスを操作しているみたいだ。カーソルをずっと視線で動かすからその分、余計に集中しなきゃならない。
……ぬおおっ、ストレス溜まりまくりだぁ!
「で、始めて使った感想はどうですか?」
ゴーグルを外してくれたのは、友里さんだ。蒸しタオルで顔を拭きながら端末を使った感想を聞いてきた。
季節が季節だというのもあるけど、けっこう気持ちいいな、これ。
「なんかなぁ、思い通りに動けないというか、動かすのが大変というか」
「ふふ、かなり汗をかいちゃいましたねぇ」
ふきふきふき。
たった10分くらいの操作でも、けっこう汗をかいていたらしく、由利さんが汗を拭いてくれた。
「新型のコレって、心理的にもそうだけど、目が疲れるんだよね」
「慣れるまでの辛抱ですから、頑張りましょうね」
うん、がんばる。
せっかく博士が作ってくれたんだし、これもリハビリの一環だと思えばいいんだもの。
それに、頑張ればネットにつながれそうな気がするんだよね。
機械の隅の方に、高さ1メートル半くらいのこけしが鎮座しているのが見える。こいつはVRゴーグルの機能を十全に発揮するためのサーバーだって話だ。
こけしと言うには、ちょいメカメカしい造りだ。
それは良いんだが、問題はこの色なんだよなぁ。
パステル調のファンシーな色合いで統一されているんだ。
このカラーリングは博士の趣味だろうか。だとしたら、なかなかの……
うん、考えるのはやめておこう。世の中には考えちゃいけない事がある。
入院してからすぐに思い知らされたよ……
「うわぁ、おにいは、こういう世界を見てるんだねぇ」
試しにとばかりVRゴーグルを装着した美月は、妙に感動をしているようだ。
視線入力システム云々は別として、ゴーグル越しの視界というのは独特な広がりがあるものだ。ミリタリーマニアが狂喜乱舞しそうな風景と言えば、その片鱗くらいは分かってもらえるだろう。
「まるでエスパイの世界って感じぃ。ふっしぎぃ~」
「エスパイかぁ。なんか懐かしいなぁ」
美月の言うのは、エース・パイロットというフライトシューティングゲームである。
そのストーリー性とリアルなグラフィックが評判を呼び、第1作が発売されてから30年以上が過ぎた今でも、新作がリリースされ続けている。
僕が持っているのは去年発売されたエース・パイロットXだ。
お年玉貯金をはたいて手に入れた物んだけど、母さんはあきれていたなぁ。
だけど、僕だって男の子だもん。こういうモノにロマンを感じたいお年頃なのさっ。
200万ちょっとのお値段にビビってるんじゃねぇ、って……
私:普通にビビるわよ。
父:でも、そういうマシンがあったのも事実なんだ。
私:うそだぁ。いくらなんでも……
父:(メーカー名・製品名はあえて伏せますが)熊虎という機種の事だな。
母:たしかグラフィックに特化していて、これが無かったらグラフィックデザイナーは
仕事を貰えなかったらしいわよ。
私:バブル時代って、なんかどっか…… おかしくない?




