身だしなみは大切です
あの時のニセモノ博士については、すぐに正体が分かったそうだ。
迷惑系と言うか、犯罪系の芸能レポーターってやつ。前にも似たような事をして警察に睨まれてたんだってさ。今回の件は特に悪質だと言うことで実刑は間違いないそうだ。
ああ、これは友里さんから聞いたんだけど… ね……
しゅぼぼ……
「今までの『やらかし』もあるから、南の島で強制労働っぽいって噂?」
「へぇ? そりゃまた厳しい…… って、さっきから何してるんだよ?」
ぞーり、ぞーり……
友里さんの活躍は見事なものだったらしい。でもスタンバトンの違法改造がバレてご褒美はチャラ。たしかにアレはやり過ぎだと思うよ?
それにしても、さっきからじょりじょりって。足の甲から始まって、だんだん上半身に進んでいるのは、僕の気のせい…… じゃないよね?
「おにいが気にする事は無いしぃ?」
「そうよ、冬夜くんが気にする事なんか、なーんにもないからねぇ」
むふーって、ゆるゆるな顔をして何かをしているみたいだけど。
身体は動かないけど感覚が無いわけじゃない。だから気がついてしまったんだが。
「はい、これでお終い」
友里さんの頭のあたりが、ぴょこぴょこと動いている。最初はビビったけど、さすがに慣れた。ラノベで出てくる獣人ぽいけど、いるはずないんだよね。
「あっ、これ忘れてた」「よく気が付いたわね、美月ちゃん」
2人はニマニマしながら、ぞりぞりし終わった部分に何やら軟膏のような物を塗っているんだ。でも肌に残るようなべたべたした感覚は無いな。どちらかというと染み込んでいくようなイメージがある。
「だあぁってぇ、今日は精密検査の日だしぃ」
「そうなのよ。城南大学から芹沢博士がいらっしゃるわ。だから、おめかししなくちゃ」
これまで何回も検査をしたけど、僕の身体が動かない理由は謎のままだ。
国立病院や大学病院での精密検査でPTSD──心因性の麻痺や硬直でもないし、病原体さえも見つかっていないからね。
その話を聞きつけた芹沢博士──国立科学研究所の偉いさん──が診察したいと言い出したってわけ。
「博士が着くまで時間があるしぃ、もう少しおめかししたいって感じ?」
「そうねぇ。目元とか、結構疲れていそうですねー」
内心ではにんまりとしながら、友里は言った。
「だーかーらー …… っぷ」
顔に濡れた半紙みたいなものを貼り付けられ…… あ、息は出来るのか。
何だか果物っぽい匂いがするけど…… うん、これは入浴剤の匂いかな?
そう言えば、身体に塗り込んだ軟膏っぽいものも、こんな匂いがしていたような気がするんんだけど。
「はぁい、うごかないでねぇ。美容液が目に入るとしみるから」
彼らが冬夜に貼り付けたものの正体はフェイスパックである。ぶっちゃけ不織布などに化粧水や美容液が浸してあり、そのまま肌に貼りつけるものだ。
しかし、その成分はちょっとばかり特殊… いや、高級な部類に入るものだ。
だから冬夜が感じた果物の匂いというのも、あながち間違ってはいない。
その香料は桃からでも抽出したのだろうか……
「美容液は市販のより、効果あるしぃ。どんだけ効くか楽しみって感じぃ?」
「うふふ、それは大丈夫よぉ。ラクテオンGをたぁーっぷり使っているのよぉ」
「えええええ? それってチョー高価じゃーん」
「うふふ、これがオトナの財力なのよぉ」
10分くらいしたら半紙みたいなもの──スキンパックっていったか──を剥がしてもらったけど、桃の匂いが染み付いたみたいだ。ラクテオンとかの匂いなんだろうけど、違和感しかないな。
まるで自分が自分でなくなっちゃうような気がしてならないよ。
「芹沢博士が来るんだもん、ちょっとでも良く見せたいじゃーん?」」
「じゃーん? じゃないだろ。なんで精密検査するだけで……」
友里さんもはぐらかさないで教えてくださいよぉ。お互いにインフォームドコンセントって言葉くらい知ってるよね?
それにこれ治療じゃないよね? いくらなんでも拙くない?
「そうねぇ、強いて言うなら衛生面のケアって事になるかしらねぇ」
衛生面って…… たしかに拭くだけじゃアレだけど。それは分かるけどさ……
「ねえ、おにい。気にしたら、まーけ!」
……どうでも良いからさ。そろそろ服を着せてくれない?
現代科学は冬夜くんの身体が麻痺している原因を解明する事ができるでしょうか。
多分無理でしょうね、うん。




