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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
夢見るように、ねむりたい
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ある日の出来事

 色々な事があって、あっという間に時は過ぎて、気がついたら夏休みが終わっていた。

 というか、夏どころか秋…… いや、今年も終わりかかってるよ。

 そして、僕の身体は、相変わらず動かないままだ。

 つまり、完璧に寝たきり生活って奴かな。


 でも、決して暇って訳でもない。何をしているんだって?


 学校側は休学させる方針だったけど、世間体とか責任問題とかで色々あったらしい。

 結果として僕は身障者枠として学校に籍を残す事になったんだ。

 と、言うわけで実技──体育とか技術科、芸術科──は免除になったけど、座学は受けておけって話だ。


「ワシが校長を脅… 説得して書類に判子を付かせたんじゃよ」


 夏休みが終わる前に教頭先生が見舞いに来てくれて、そう言ってくれたんだ。教頭──萱場先生は定年延長2回目の、前期高齢者の枠に片足を突っ込んでる爺ちゃんだ。


 彼が鉄之助という大時代的な名前の持ち主だという事は、あまり知られていないんだが、士族だからそういう事もあるんだろう。でも先生の見た目って士族と言うよりも農家かな。

 だってGパンTシャツ姿で麦わら帽子を被った先生は農家のおじさんにしか見えないんだもん。


「……それからな、九頭先生はしばらく学校を休む事になった。

 新学期からはワシが担任だな。まあ、そう言う事でよろしく頼むぞ」


 ほのぼのとした表情で、話しかけてくれるのが嬉しいというか、どこかほっとした気分になった。これで災難だったな、とか、身体は大丈夫なのか? なんて変に同情されたりすると、こうもいかなかったかも知れない。


「身体が動かないことの他は問題ないそうです」

「そうかそうか。学業はリモート授業で何とかせい。病院には話を付けておくからの」


 そう言って萱場先生は帰ったけど、ひとつ気になっている事があるんだ。

 世間様はどんな具合なんだろう。入院してからこっちネットとか使う事がないというか、使う暇がなかったというか。それにニュースすら見てないし。


「冬夜くーん、元気してるぅ?」


 入院してから思うんだけど、僕の視界に入ってくる人って女の人ばっかりって気がするのは気のせいかな。

 友里さん以外の看護婦さんや大学病院の博士とかが頻繁に病室に来るんだけどさ。

 それも偽物とかそういうんじゃなくて──ああ、1回だけそんなのがあった。


 あれは9月の半ばころだったかな。

 美月は中学校に行っているから、付き添いは誰もいないし、急患やら何やらで流石の友里さんも僕に付きっきりという訳にはいかなくなったようだ。

 その代わり、ナースコールのボタンを握らせてくれた。


「何かあったら、ボタンを押してね。最悪の場合は握るだけでも良いから」


 もっともこれだって、ずっと握っている事は出来ないから包帯でぐるぐる巻きにされているんだけどね。まるで父さんが小学校に上がった頃から連載が続いている未来から来た青狸みたいになっている。


 それも辛うじて動かせる左手だけじゃなくて、右手までもだ。

 いわく、片手だけだとバランスが取れないからだそうだけど。

 まあそれはいいか。今はニセモノ博士の話をしよう。


 時々大学病院から来る博士が、今日に限って急用で来られなくなったから、その代理だというんだ。それっぽい白衣を着たおっさんと看護婦さんだけど、どう見ても医者には見えなかったんだよね。それに聞いてくるのは駅で起きた事ばっかりだ。


 あとは看護婦さんもね。

 ポケットの中に何か箱のような物を放り込んでいるのが丸わかりだし、なによりピアスをしていたんだよ。口紅もけっこう派手だった… かな。


「……いきなり殴られたという訳だね。その時の気持ちはどんなだったか話して欲しいのだが」


 この手の話は、入院した翌日から事情聴取が始まっている。精神的な負担を何たらとかで、3日くらい掛けたかな。調書の内容は、最後に音読までしてくれたんだよね。

 こいつは、関係者が共有しているから、それ以上は話す理由なんか無いんだ。

 そこで試しに言ってみたんだ。


「そう言えば、いつもくる… 印宝先生。そろそろ連合王国に出発でしたっけ」

「ああ、うん、そうだね。今ごろ彼は飛行場についている時間じゃないかな」


 へっ、印宝なんて先生なんかいねぇって。

 ボタンを押したら1分と経たずに友里さんが病室に来た。

 腰の後ろに何か棒のような… あれスタンバトンかな。大型のスタンガンっぽいやつ。


「申し訳ありませんが、こちらの控室に来ていただけませんか?」

「なんだね、君は。いまは往診の最中だぞ!」


 あ~あ。ニセモノ博士は声を荒げて友里さんを追い出そうとしたけど、それは悪手だ。

 ここはおとなしく病室の外に出れば、逃げ出せる可能性はあったのにねぇ。


「言い訳は後で聞きますっ!」 ばじぃっ! 「……ぐぇっ」「ぎゃっ」


 うっわ…… スタンバトンが当たったところ、焦げてないか?

友里さんが使ったスタンバトン。大きさはすりこぎくらい。

服の上から当てたようだけど、当てた所が焦げるって……

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