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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
夢見るように、ねむりたい
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妹 Vs 元カノの対決

 おにいを乗せたベッドが病室を出たのは、しばらく前の事になる。

 残念だけどあーしはお留守番をしているしかない。それというのも、おにいの身体は精密検査が必要って診断が出たからだけど。

 でもね、結論から言えば、かならず原因不明という所に落ち着くんよ。


 だって、身体には異常ないもん。両足の骨折は仕方が無いけど、逆に言えばそれだけ。

 少なくとも全身に麻痺が残るような要素はない。もんね

 だから、どんな検査をしても、身体の異常なんて見つかりっこない。

 おにいの身体の麻痺の原因は、実はあーしのせいだもん。


「くふふ…… たまもちゃんから教えてもらった金縛りの術が、こんな所で役に立つなんてねぇ」


 はっきり言おう。

 おにいの身体が動かないのは、私がかけた金縛りの術のせいだ!

 これは、この世界に顕現出来ないおねえ達の代わりに、あーしがおにいをデロデロに甘やかしてあげるためなんだよ。

 そして、そして… あわよくば、あーしが……


 がちゃっ……


「……誰ですか?」

「あ、美月ちゃんも来てたんだぁ」


 面会謝絶のはずの病室に入ってきたのは、吉岡 美斗(よしおか みと)

 フェイねえが邪神呼ばわりされたのは、こいつのせいだ。おにいと合わせてくれた事だけは、評価してあげてもいい… けどね。

 でも『妹』としては、この女を絶対に許す訳にはいかない。


「ここから出てけ、クソ女!」


 だから、私は彼女に対して開口一番、辛辣な言葉で罵声を浴びせていた。

 こいつのせいで、おにいはカタオカって奴に殺される所だったんだ。

 おにいが、どんな想いであいつの虐めに耐えていたのか知ってるくせに、のうのうと遊び惚けていたくせに。


「ねえ、美月ちゃん。それ、せっかく冬夜のお見舞いに来てあげた私に使っていい言葉だと思ってるの?」


 何を言ってるんだとに、きょとんとした顔をしている美斗を見ているうちに、あーしの心の中に得体の知れない何かが鎌首をもたげつつあった。

 それが送り出すデーターをロードしたあーしは、怒りを膨れ上がらせた。


「うっさい! この部屋から出てけっての!」

「えっ?」


 あーしは知ってしまったんだ。

 おにいに下着泥棒とか、痴漢とか… ありもしない濡れ衣を着せてクラスから孤立させようとした事。

 クソ女が、おにいの事を虐めているカタオカとデキてるって事。


 実におめでたい頭の持ち主だわ。私が『通っている』中学校でも男子の一部の間ではあんたの事、ヤリネキだって噂をしてたのにねぇ。

 今朝の一件で都合が悪くなったから、おにいとよりを戻そうって魂胆だろうけど、そうはさせない。


 このクソ女を、おにいに近付けるわけにはいかない。

 保育園のころから『とーやのおよめさんになるー』って、ずうっと言い続けてきたくせに、高校に上がって半年もしないうちに、このザマだ。

 所詮、こいつはそういう女だから。


「おにいを捨てて別の男に走ったの、あーしが知らないと思ってたん?」

「そっ、それは違うのっ! 何かのまちが…」

「あーしだって、高校で何があったか教えてもらえる伝手くらいはあるんよ?」

「だから、それは誤解…」「うっさい!」


 このクソ女は、さっきから悲劇のヒロインよろしく、泣きながらずっと何かを言っているけど聞いてやる義務も義理もない。

 そして、ようやくおねえの感じていた違和感の正体も分かりかけてきた。

 このクソ女を、おにいに絶対に近付けるてはいけない。


 フェイねえが頑張って修復した魂魄が、今度こそ滅茶苦茶にされてしまうかも。

 そうなって悲しむのは、フェイねえだけじゃない。あーしも嫌だし!

 それだけでも、容赦する必要はどこにもない。


「これ以上居座るなら、110番すんよ?」

「美月… ちゃん……」


 あーしはポケットからスマホを取り出すと、通話アプリを起動させた。

 我ながら凄い脅し文句だと思うけど、ここで甘い顔をしたら全てが水の泡だ。

 暫くの間、にらみ合いが続いたけど、先に折れたのはクソ女の方だった。


「……後悔しても知らないわよっ」


 荒々しくドアを開けると、捨て台詞を残して──表情こそ見えなかったものの、何かをすすりあげる音と共に部屋から出て行った。

元カノとの対決。第1ラウンドは美月ちゃんの勝ち!

でも、これが最後の襲撃とは……

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