白い闇を抜けて
薄れゆく意識の中で、僕はほっとした気分を感じていた。
だけど、その感覚は一瞬で消え…… 辺りの異様な風景に気が付いた僕は。
「えっ!?」
僕がいる所は… 見渡す限り広がる、真っ白な空間だった。
明るくもなければ暗くもない。暑くも寒くもない。
空気の流れすらも止まっているような、そんな感じの場所なんだ。
動きがあるとすれば、それは…… 時々、遠くの方からかこーん…… という鹿威しのような音が聞こえるくらいのものかな。
「ここは…… どこ?」
一度は言ってみたかったんだよね、このセリフ。
という願望は置いておくとして。マジでここはどこなんだろう?
僕は駅に滑り込んできた急行列車──あの列車は、僕のいた駅には停まらない。
それにぶつかったんだから、間違いなく死んだと思うんだけど。
まさか奇蹟が起きて…… 僕が病院に担ぎ込まれたとしたら。
麻酔から目の覚めていない僕が見ている夢、なんだろうか。
それはそれなんだけど。
ぼうっと、真っ白な空間を漂っているうちに遠くの方に、なんとなく地面のように見えるものが見えてきた。不思議なもんだなぁ…… まるで海に浮かぶ島のような感じだよ。
そんな事を考えながら漂っていたんだけど、次の瞬間には地面の上に立っていた。
広さが野球場くらいの広場に着陸…… 着陸したんだけど。
うん。着陸でいいや。
すると──
「をををっ!?」
いきなり現れた建物には、不気味さよりも懐かしさを感じていた。
茅葺きの屋根、磨き込まれて艶のある太い柱。そして土壁と、障子……
どこからどう見ても、田舎の一軒家にしか見えない。
「ごめんくださぁい……」
僕は、建物の中に入ってみる事にした。
どうせ夢なんだから、醒めるまでじっとしていても仕方が無い。
それなりに冒険を楽しむのも、いいかな……
こうして冬夜は建物に入ったのだが、そこでさらに驚くような光景を目にする事になる。至る所に細かな彫刻が施され、壁には虹色のタペストリーが飾られたその風景は西洋の貴族が住んでいるようなゴージャスなものだった。
そして、ここは建物よりも、大きくて、広い……
「まるで博物館みたいだなぁ……」
理解不能の状況にフリーズしている冬夜は背後から声をかけられ… いや、その声は、彼の頭の中に直接響き渡ったのだ。
『何者です!』
「!?」
決して大きな声ではないが、その声音からは怒りの感情が滲んでいる。
『答えなさい!』
「へっ? ええと、僕は……」
冬夜は後ろを振り返ると、再び凍り付いたように動けなくなった。
こればかりは仕方が無いだろう。彼の頭の中では情報を整理しきれなくなり、どう反応してよいのか分からなくなっていたのだから。
彼が思考する事を思い出すまでには、たっぷり時計の秒針が1周するくらいの時間が掛かっただろうか……
『ここは幽冥という世界。三千世界の中心にほど近い場所にある私の神殿に…… どうやって忍び込んだのです!』
「ええと…… わかりません」
僕としては、そう答えるしかなかった。
それ以上の事を、何をどう言ったら良いのか分からずに、言い淀んでいた僕の前にいるのは……
一抱えほどの──ちょっと透き通った感のある大福だ。
それよりは、水まんじゅうと言えばいいのかな。
そっちの方が……
いや、マジでそう見えるんだって!
ふう、鬱な内容の短編のまま終わるかと思った……
プロローグ的なものは、ここまでと言う事で。