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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
終わりの始まり
4/7

白い闇を抜けて

 薄れゆく意識の中で、僕はほっとした気分を感じていた。

 だけど、その感覚は一瞬で消え…… 辺りの異様な風景に気が付いた僕は。


「えっ!?」


 僕がいる所は… 見渡す限り広がる、真っ白な空間だった。


 明るくもなければ暗くもない。暑くも寒くもない。

 空気の流れすらも止まっているような、そんな感じの場所なんだ。

 動きがあるとすれば、それは…… 時々、遠くの方からかこーん…… という鹿威しのような音が聞こえるくらいのものかな。


「ここは…… どこ?」


 一度は言ってみたかったんだよね、このセリフ。

 という願望は置いておくとして。マジでここはどこなんだろう?

 僕は駅に滑り込んできた急行列車──あの列車は、僕のいた駅には停まらない。

 それにぶつかったんだから、間違いなく死んだと思うんだけど。


 まさか奇蹟が起きて…… 僕が病院に担ぎ込まれたとしたら。

 麻酔から目の覚めていない僕が見ている夢、なんだろうか。

 それはそれなんだけど。


 ぼうっと、真っ白な空間を漂っているうちに遠くの方に、なんとなく地面のように見えるものが見えてきた。不思議なもんだなぁ…… まるで海に浮かぶ島のような感じだよ。

 そんな事を考えながら漂っていたんだけど、次の瞬間には地面の上に立っていた。


 広さが野球場くらいの広場に着陸…… 着陸したんだけど。

 うん。着陸でいいや。

 すると──


「をををっ!?」


 いきなり現れた建物には、不気味さよりも懐かしさを感じていた。

 茅葺き(かやぶき)の屋根、磨き込まれて艶のある太い柱。そして土壁と、障子(しょうじ)……

 どこからどう見ても、田舎の一軒家にしか見えない。


「ごめんくださぁい……」


 僕は、建物の中に入ってみる事にした。

 どうせ夢なんだから、醒めるまでじっとしていても仕方が無い。

 それなりに冒険を楽しむのも、いいかな……


 こうして冬夜は建物に入ったのだが、そこでさらに驚くような光景を目にする事になる。至る所に細かな彫刻が施され、壁には虹色のタペストリーが飾られたその風景は西洋の貴族が住んでいるようなゴージャスなものだった。

 そして、ここは建物よりも、大きくて、広い……


「まるで博物館みたいだなぁ……」


 理解不能の状況にフリーズしている冬夜は背後から声をかけられ… いや、その声は、彼の頭の中に直接響き渡ったのだ。


『何者です!』

「!?」


 決して大きな声ではないが、その声音からは怒りの感情が滲んでいる。


『答えなさい!』

「へっ? ええと、僕は……」


 冬夜は後ろを振り返ると、再び凍り付いたように動けなくなった。


 こればかりは仕方が無いだろう。彼の頭の中では情報を整理しきれなくなり、どう反応してよいのか分からなくなっていたのだから。

 彼が思考する事を思い出すまでには、たっぷり時計の秒針が1周するくらいの時間が掛かっただろうか……


『ここは幽冥(かくりよ)という世界。三千世界(さんぜんせかい)の中心にほど近い場所にある私の神殿に…… どうやって忍び込んだのです!』

「ええと…… わかりません」


 僕としては、そう答えるしかなかった。

 それ以上の事を、何をどう言ったら良いのか分からずに、言い淀んでいた僕の前にいるのは……


 一抱えほどの──ちょっと透き通った感のある大福だ。

 それよりは、水まんじゅうと言えばいいのかな。

 そっちの方が……


 いや、マジでそう見えるんだって!

ふう、鬱な内容の短編のまま終わるかと思った……

プロローグ的なものは、ここまでと言う事で。

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