ばぶばぶ、ばぶ・・・
羞恥タイムが終わると、ようやく昼食の時間が来た。
栄養面を考えたら、全てを点滴で賄うには無理があるらしい。
いや、非常時には点滴で栄養をガンガン入れて何とかするらしいけど、僕の場合はそうまでする必要もない。普通に水や薬を飲み込む事が出来るならその方が良いらしい。
「じゃあ、ベッドを起こしますねー」
うすうす感ずいていたけど、やっぱり固形物はなかった。
出されたのは流動食ってやつ。ベースはたぶんカロリーなんたらだ。
作っているメーカーが一緒だし、なによりも味や匂いが同じだった。
「はい、ストロー。ゆっくり吸い込んで… やっぱり駄目みたいねぇ」
身体の麻痺はずいぶんと深刻なようで、せっかく友里さんが上半身を起こしてくれたってのに、せっかくの流動食をストローで吸えなかった。
「こういう時のために吸い飲みを用意した筈なのに」
「んー、行方不明になったみたい♪ 仕方が無いからあーしが口移しで……」
「あーら? いくら妹さんでも、それは拙いわよぅ?」
なんだか分からないけど、さっきおむつを替えてもらってから2人との距離感が妙な具合になってきたと思うのは、僕の気のせいだろうか。
急に過保護になったというか、何があったんだろ。
「はい、あーん」「あーん」「むがぐげ!?」
……2人から、かわるがわるスプーンで口の中に押し込まれてしまった。
「おにいったら、赤ちゃんみたいでかっわいい~」
などと訳の分からない事をヌカしていたけど、僕はバブみなんて求めてないからね?
口の周りを拭いてくれたりとか、とっても有難いんだけどさ。
「おにいには早く良くなって欲しいけどぉ、動けるようになったら、あーし、お世話が出来なくなっちゃうしぃ。どっしよ~かなぁ」
しみじみとした口調で言われてもなあ。半月もあれば骨もつながるだろう。
これで身体さえ動くようになれば、僕は晴れて自由の身になれるんだ。
半月だ、たったの半月の辛抱なんだ…… けど……
「その間は、あーしがたーっぷりお世話するしぃ」
美月のしている事は過剰看護と言うか、愛が重すぎて怖い。
しかし…… 目覚めた時に身体が動かない事に気が付いて、パニックになりかけたけど、美月おかげで自分が重傷患者だという事を忘れさせてくれたけど。
それについては… そうだな、感謝しかない。
それはそうなんだけど…… まあいいか、とにかく検査だ。
昼食を終えた僕は、そのまま検査室に運ばれる事になっている。
「じゃあ、いてらー」
美月には悪いけど、こればかりは留守番をしてもらうしかない。
いつも病室と言うのも難だから気分転換に外に出るのも悪くないんじゃない?
うん、それが良いと思うよ……
「……結局のところ、麻痺は原因不明のままですか?」
「うん。どの検査機器でも足の骨折以外には、まったく異常がないんだ。考えられるのは、心因性の運動障害くらいだな。個室を用意してあげるから、気楽に養生したまえ」
せんせぇええ…… 慰めになっていませんよぅ。
時間が解決してくれるって… やだあああ! 先生、行かないで?
僕をひとりにしないでよぅ……
「ぷぷぷぷぷ…… 仕方が無いじゃん、観念してあーしに身を任せたらぁ?」
「妹さんだと不安でしょう? 私も付いててあげるから安心してね」
残されたのは僕と美月と… 看護婦の友里さんだ。
昼前におむつを替えてもらってから、この病室にいる時間、長くない?
というよりもお仕事……
「うふふ、冬夜くんは心配しなくても良いのよ。それからね、美月ちゃんも頑張らなくてもいいのよぉ? こういう事はおねーさんが専門だからね」
ふんわりと友里さんが話したところで、部屋の空気が何となく密度を増したような気がしてきた。パリパリと微かにどこかで軽く放電の音が聞こえたのは、果たして僕だけなのかな。
「あなたは『まだ』中学生だから、お兄さんの付き添いより学業が優先よね?」
「義務教育ったって、あーしの義務じゃないし?」
「そうよね、親御さんの義務なのよねぇ。首に縄をくくり付けられて中学校に連行されないようにしなさいねぇ?」
そうだ。忘れてた。今のあーしは中学生。
でも、何としてでも押し切らなくちゃ。
しまったぁ、いまさら付け胸ってわけにもいかないしぃ……
なにより、おにいを取られるわけにはいかないもん。
どうしてこうなった?




