妹・・・ いもうと?
泣きじゃくっていた女の子──美月さん──は、ようやく落ち着いたようだ。
彼女は僕の妹だって言っているけど…… 母さんは違和感を感じてないらしい。
まるで、まるで…… 何かがおかしくないか?
「7時ころ病院から電話が来た時には驚いたわよ。急いでお父さんにも連絡したけど、地球に還ってくるのは早くても1週間後になるって」
「ホントによかったよぉ。あーし、この世が終わったかと思ったんだもん」
ちょ、ちょっと待って? お父さん、だって!?
「お父さんがL4造船所に出張するから、このまえ富士の宇宙港まで見送りに行ったばかりでしょう」
「ああ、そうだったね…… 今朝の一件で記憶が混乱してるみたいだ」
「そうかも? だってぇ、おにいは電車に轢かれかかったんだし?」
……父さんも生きている、のか。
そして…… 美月…… ああ、そうか。僕の大事な妹か。
たしかに生前の美月も、重度のブラコンだったな。どこに行くにも、一緒に付いてきて、僕を呼ぶ時はいつも舌足らずな口調で、おにいって呼んでたっけ。
父さんと美月が生きていて、死んだはずの僕も死んでいない。
うん、状況は何となく分かってきた。でもあの邪神め、いったい僕に何をさせようって腹なんだろう。
どうせ碌な事を考えてはいないと思うけどさ……
「美月、学校はどうするの? 行くならお母さんが送ってあげるけど」
「休むに決まってるじゃーん。お母さんの方こそ忙しんじゃない?」
「それはそうだけどね……」
僕がぼーっとしている間にも、母娘の会話は進んでいたらしい。
半分うつらうつら仕掛けた僕は、病室が静かになった事に気が付くいて母さんたちの方に顔を向けると、『妹』はニシシシ… ってな感じで顔を近寄せると、実に嬉しそうに、こう言ったんだ。
「おにいの世話は、あーしがする事になったんだよ。嬉しい?」
視線で母さんに訊ねると、小さく肩をすくめると明後日の方を向いた。
と言う事は、これって決定事項ってこと?
僕に選択権はないの? 入院しているんだから、看護婦さんとかもいるよね。
それで充分だと思う…… けど… ?
「今のおにいに選択権なんてある筈ないじゃーん。ご飯だって食べられないっしょ?
だから、あーしが、おにいにあーんしてあげるって感じ?」
兄思いの『妹』は心の底から心配してくれているようだが、僕はその好意を受けるべきなんだろうか。
いやいや、何となくヤヴァイ予感しかしないんだけど。
げへへへと、顔面をゆるゆるにした『妹』の姿には不安しか無いよ。
「僕の世話をするのは良いけど、学校はどうする? 行かなきゃ拙いだろ?」
「いーの。おにいも知ってるでしょ? あーしが中検に合格──中学校の卒業資格を手に入れた──っての。それに、夏休みは始まったばかりだもーん」
つまり『妹』はもう中学校に通わなくても構わないって事かよ。
僕の妹って、なんか優秀過ぎない?
「だって、あーしってばさぁ……」
う、何か急にしおらしくなった? 今までのギャルはどこ行ったの?
顔を赤くしちゃって、まるで茹でた蛸…… んんんんん、熱が出てきたのか?
まずいな、何かヤバい病気でも拾ったのか?
心配するな、ここはびょうい……
「おにいと一緒に高校に通いたかったかんだもん……」
ヲイ?
生前の──小学校に上がったばかりの美月は、かなりのブラコンだった。
とにかく、四六時中べったりと密着されていたような気もする。
何かをしていると必ずマネをしたがるし、どこに行くにも一緒に行きたがる。
それが布団の中だろうがトイレだろうが、お構いなしに、だ。
今の美月の姿を見ていたら…… あのまま成長していたら。
こんな具合に成長していたんじゃなかろうか。
とんでもなくヘヴィーなまでにブラコンを拗らせまくった、イモウトに。
僕は無事に退院する事が出来るんだろうか。
急に不安が込み上げてきたよ……
なにこのかわいい生き物。
で、冬夜くんも…… 納得しちゃった?




