冬夜くん危機一髪
……あれっ? ここは、ドコ?
たしか邪神──フェイリアにひざ枕をされながら、サーリアって女神にズボンの中を見られて。その後フェイリアによく似た別の女神に蹴り飛ばされた事までは憶えているんだけど……
僕は……
「……!?」
はっと気が付いた僕は、駅のプラットホームに立っていた。
時間が引き延ばされたかのように、全てがゆっくりと動く世界の中で。
目の前には、僕に殴りかかろうとしている片丘 史郎の姿がある。近づいてくる拳は、もう避けようが無いところまで迫っていた。
……えっ!?
「死ねやコラあ!」
俺の頬のあたりに、あいつ──片丘 史郎の拳がヒットしていた。とっさの事で、後ろに飛びすさるタイミングがあわ……
ゴキッ。
殴られた僕の身体は、そのまま後ろに飛ばされてしまった。だけど、次の瞬間には横から衝撃を受けて、そのまま真横に引き戻された。
気が付くと、身体がプラットホームに押し付けられている… のかな。
いや、寝かせられているのに気が付いた。
……えっ!?
「君いっ、大丈夫かっ!」
うっすらと目を開くと、そこにあったのは視界一杯に広がるのは。
心配そうな顔をした駅員の顔だった。
どうやら間一髪のタイミングで、僕は電車にぶつからずに済んだらしい。
いや、どうだろう。
何となくみぞおちから下の感覚が怪しい…… かも。
そんな事を考えているなかで、急行列車が轟音を立てて走り過ぎていった。
ああ…… 命拾いを、したのか。
「もう大丈夫だ。大丈夫だからな!」
僕の身体を抱きあげた駅員さんは、僕の制服の詰襟を緩めながら励ますように話しかけてくれている。
駅員さんの声で、僕はだんだん、意識がはっきりしてきた。
彼は自分のベルトを抜くと僕の太もものあたりを押さえて…… 縛ってる。
「あ…… う……」
「いかん、錯乱している…… おい、担架急げ!」
別の駅員が担架を担いでこっちに走ってくるのが見えた。
じーんと感覚が鈍っていた左足がだんだん痛くなってきた。
ちらっと見たら、ひざから下が血だらけだ。
そうか、駅員さんがベルトで縛ったのは止血のため、か……
「すぐに病院に連れていってやるからな。気を確かに持つんだぞ」
担架に乗せられて運ばれていく僕に付き添ってくれた駅員が、僕に話しかけてくれた。あれよあれよという間に、僕の身体は駅舎に運ばれて行く。
その全てが夢の中の出来事のように感じていたけれど……
近くで聞こえてきた叫び声で、僕ははっと正気に戻った。
「俺は悪くねぇ! 悪いのはあいつなんだ!」
「黙れ! 神妙にせんか!」
僕はおそるおそる声のする方に目を向けると……
片岡の奴が、近くにいた乗客や駅員に取り押さえられて、何かを叫んでいる。
ふん、よく言うよ。誰が見ても、僕を殺す気だったとしか見えないだろ。
救急隊員の手で応急手当を済ませた僕を乗せた救急車は、すぐに走り出した。
薄れゆく意識が闇に沈む寸前に見ていたのはそこまで… だ。
そう、ここは、闇の中…… だ。
暑くもなく、寒くもなく、重さも、光すらもない。
なんにもない、真っ暗な空間の中でひとりでいる。
痛みのせいで気を失ってしまった…… のかな。
まあ、それはいいか。これで、良いのかも知れない。
邪神たちは──死の間際に見るという、走馬灯のようなものだったのかも。
僕の復讐は……
ふく… しゅう…… は…………
ここから新章が始まります。
ラーリィが放り出した冬夜くん魂魄は、彼が自殺をする寸前の時間に飛ばされたようです。
その結果、冬夜くんは勇敢な駅員の手で命を救われる事になりました。
これで彼には(自主規制)になってしまうよりはマシな運命が待っていると思います。
たぶん、ね?




