女神は心の修行をする
私たちが座禅を組むようになって、どれだけの時間が経っただろう。
お母様からは荒れ狂う感情の波を鎮めて、それと向き合う事で何かを悟りなさいと言言われたけれど、実際のところは何をどうやっていいのか分からないのが実情ね。
ぱしっ!
っと、いけないいけない。
感情の波を鎮めるのはいいけれど、実際のところ静かな場所で座禅を組むというのは大変な事でもあるのよね。
ここしばらくは、猛烈な眠気との戦いで瞑想どころじゃないし。
うつらうつらしたり、雑念なんかでぴくりとでも体を動かせば、平たい棒を持った精霊に肩を叩かれる。
サーリアは棒を躱してガッツポーズを取っていたけど……
がすっ! びしっ! ぼこっ!
『へぶうっ!?』
目だけを動かして、声をした方を見たらサーリアが棒で叩かれているのが見えた。
それもヘリの方で滅茶苦茶に。
もしもあの棒が刀だったら女神のヒラキの出来上がりね。そのくらいに鋭い一撃。
しかも棒を持っているのは精霊なんてものじゃない。
いつの間にか現れた女神様、お母様よりもずっと上位の存在のようだけど……
『そろそろ座禅を止めても良いわよぉ』
私たちの前に現れたそれがまとうオーラ…… いや、あれだけ濃密なそれは……
あれはオーラとか覇気なんてレベルじゃない。
もしも一瞬でも触れたら、待っているのは『死』かも知れない。
『大体のところはシャウス達から聞いたけど、まずはおめでとうと言っておくわねぇ』
にっこりと笑う上位の存在を前にした私の心に、深層意識の奥から話しかける声が聞こえてきた。
──カノオカタハ混沌神ノ一族、ぷれしあ様ダ。オロカモノメ、ヒレ伏セ!
『ひっ……』
魂魄さえも凍り付かせそうなオーラはそういう訳ね。もしもあれが私に向けられたら、この世に存在し続ける事すら…… いや、滅びる。間違いなく。
輪廻の輪に戻ることすら許されずに、消滅するに違いないわ。
『んんんんん……』
プレシアはちょっと困ったような顔をすると、ふと視線をずらした。その視線の向かう場所を見た私の背中には冷たいものが流れている。
そこにあったのは、ほかほかと湯気の上がる食卓が現れたのだから。
『ねえ、あなたたち。お腹がすいているでしょう?』
言われてみればそうかも知れない。
冬夜くんとブランケットを食べてから、それなりに時間が経っているし、エネルギーも使ったもの。座禅って、本当にエネルギーを使うのよね。
ぼーっと、そんなことを考えているうちに、ひょいと持ち上げられた私は気がつくと食卓の前に座っていた。左にラーリィが、さらにその隣にはサーリアが座っている。
料理は…… 和風、なのかしら。
悔しいけど、箸が止まらないぃいいい……
『と、お腹も一杯になったことだし、当座の問題を片付けてしまわないとねぇ』
食後のお茶を飲みながら、事もなげに話し始めるプレシア様だけど。
話題は冬夜くんの事だった。
『冬夜くんと言ったかしら。あの子の魂魄には、手を加えられた痕跡があるのよねぇ。
ラーリィの解析が正しければ、の話だけど』
最初に冬夜くんの心を読んだときから、彼の魂魄がおかしいことには、私も気がついていたわ。とりあえずの処は以上の原因を突き止めて、異常となる部分を封じ込めたけど。
今にして思えば、あれは爆弾みたいなものかも。
世の中の不幸をサイクロン掃除機のごとくに吸い寄せて、溜め込んでいく。
それが限界まで来たら……
『……サーリア、いま動けるのはあなただけ。行きなさい。そしてあの子を護りなさい』
『はい、プレシア様』
えっ? 冬夜くんを助けにいくのは私でしょ。なんでサーリアに?
『だって貴女は邪神だと思われているんでしょう? そんな貴女があの子の目の前に現れたら精神衛生上、とーっても拙いわよねぇ?』
じゃ、邪神じゃないもん!
清く正しく美しく、脇目も振らずに仕事一筋で生きてきたのにぃ!
えええっ? ラーリィがぶっ壊れたから、それを何とかしなさいねって。
確かに、あの棒でボコられていたのはサーリアだけではありませんでしたけど……
ええい、この愚妹わぁああ! 肝心なところで何という…… はよ治れ。それ治れ。
斜め45度で叩けばどんな故障だってイチコロよっ。
未来からやってきた青狸の初期のコミックに、主人公のママさんが故障したテレビを直すシーンがあったのですが……
母:ん。それフィクションじゃないわよ。どちらかというと真実?
私:ウソでしょ? テレビを叩いて直すなんて……
父:トランジスターどころか真空管を使ってた時代には。よくあった話らしいな。
私:えーと、基本的な質問。
父:なにかな?
私:『しんくーかん』って、なに?




