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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
閑話 古き女神の同窓会
30/62

屑な奴にはオシオキを

『……この卑怯者めが』


 子供が救い出されているとは夢にも思っていないキヤムニがハーリアの前に姿を現したのは、それからしばらく経ってからのことだった。


「けっ、何とでも言いな。おっと、大切な事だからもう一度言うけどな、子供の命は俺の機嫌ひとつで決まるって事を忘れンなよなぁ」


 ちらりと傍らに置かれたクーハンに視線を送ったハーリアは、キッとキヤムニを睨みつけた。その腕を静かに押さえたのはシャーウスだった。

 静かに前に出た彼女は、ひとつの質問だけを口にした。


『そうまでして何を望むのだ、元・人間よ』

「そうだなぁ、おいらに神器のひとつも恵んでもらうとするかなぁ」

『……これでも良いか?』

「そうそう、分かってるじゃんかよぅ」


 キャムニはシャウスの手の中にある神器を見ると、にたりと笑った。

 ひっひっひ、あいつが持ってるありゃあ、イドラの短杖じゃねえか。ふひひひ、おいらは運がいい。あれは天界でも屈指の破壊兵器だ。

 数十万人が暮らす都市でさえ、一瞬で焼き尽くせるシロモノだぜぇ。


 これがあれば、あのいけすかねぇジジババ共…… 第2世代だとかヌカしているけどよ、こいつがあれば一発でチリにしてやんぜ。

 古い神だか何だか知らねーけど、輪廻の輪でリサイクルされやがれってんだ。

 それに、だ。こいつがあれば、おいらが神々の王になれるってこったぜぇ。


「さっさとそいつをおいらに渡しな。オラァ、早く渡せやァ」


 目の前の女神たちからのゴミの山を見るような視線にも気づく事も無く、キヤムニはニタニタと笑いながらシャウスに手を伸ばした。

 冷めた目で腕を伸ばしたシャウスの手に握られた短杖の先は、キヤムニに向けられていた。その中心部には小さな光球が生まれているのにも気づかずに……


『……言いたい事はそれだけか?』

「はっ、何を今さら……」


 シャウスが創作の途中で立ち寄った夫の神殿から、宝物庫から『うっかり』持ち出してしまった神器──イドラの短杖──をキヤムニに向けたのも、それを最大出力で作動させてしまったのも。

 ある意味では仕方のない事だったとも言えるだろう。


『オロカモノめ。お前の企みなど、とうに分かっておったわ!』


 ひとつの都市を一瞬で焼き尽くす天の火を浴びて、火だるまになりながら、あさっての方向に飛ばされてゆくキヤムニを一瞥したシャウスは、笑顔を浮かべながら、振り返った。


『ふっ、悪は滅びたよ』

「へぶぅ……」

『よしよし。怖い思いをしたけど、もう大丈夫だから泣かないでおくれ……』


 傍らに置かれたクーハンで眠っていた我が子を優しく抱き上げた。


 かくして攫われた子供は親の元に帰り、愚者には鉄槌が下される事になったのである。

 これ以上になく、大団円と言えるだろう。

 その後の彼らについて、もう少しだけ様子を見てみよう。


 ハーリアに子供を返しに行ったその男は、生涯にわたってキヤムニの所業と、その末路を忘れる事も無く、修行に励む事になる。

 彼は後に神格を得て、後の世の人々から深い尊敬と共に崇められたという。


 リーマ──血と殺戮を好む戦いの女神──は、溜まりに溜まった欲求不満を解消すべく、しばらくの間ではあるが放浪の旅に出た。


 そして事件解決の最大の功労者であるシャウスは……

 夫神の神殿に連行されて、3日間に渡って説教される事になった。

 イドラの短杖という──究極の大量破壊兵器を宝物庫から黙って持ち出した挙句に出力全開でブッパしたにも関わらず、この程度で済んだのが不思議である。


 それから1年も経たないある日から、フェイリアとラーリィが妹の育児に追われる事になったのも……

 その妹が音楽、学問、財運、そして芸能を司るマルチな女神になった事も。

 ある意味では、微笑ましい思い出と言えるだろう。



 そして、時は今に至る。


『……あの時に焼き尽くされたと思っていたんだけどねぇ』

『今度こそ引導を渡してやろうか』『そうね、それが良いわ。そうしましょう』


 ──今度こそは、あの元・人間を滅ぼすなり冥界の最奥(タルタロス)に封じ込めてやる。決意と共に3柱の女神たちは鎧兜に身を固めると、武器を握りしめた。


 すべては、本物の感情を手にした子供たちのために。

 あの子達の未来ために為すべきことを、為すために。

かくして3柱の女神は悪神を討つべく立ち上るなり……

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