古き神は過ちを悔いる
娘たちがハーリアの神殿で座禅を組んでいる姿を見て、ふと思ってしまった。
あの子たちが感情に目覚めたのは、果たして良い事なのだろうかね。
うん、本人たちにしても妾たちにしても、同じ事が言えるだろう。
これまでの娘たちに感情が有るように見えたものは、創造神様が与えた仮初めの──思考機械に与えられたプログラムのようなもの。
そういう反応を示した方が地上の──特に人間も、『神様だから』で納得しているし、妾たちもそういうものとして接してきたような気がする。
今後はそれを改めなくてはならない。
娘たちは自らの力で変わった。今度は妾たちも変わらなくては。
さもなくば、恐ろしいことになる。不死となった妾たちには、死というものによって魂の救済を得ることなど出来ないのだから。
そもそも創造神様が子供たち──フェイリアたちの世代の全ての神から感情を剥奪したのかは痛いほど分かっている。
これは妾たち第3世代の、いや、地上にいる全ての神に対する──罰、だ。
妾たちは世界の創造と共に生み出された第3世代の、そして定命の神だった。
だった、と過去形で言ったのは、すでに妾たちは不死となったからだ。
それは、遥かな昔… 天地創造を終えた創造神様が休息をなさっている時に。
ふと考えた。いや、考えてしまったのだ。
──我らは定命の神。再び目覚めた創造神様をお迎え出来るだろうか。
それゆえに、その事実を。
妾たちは恐れた。
妾たちをこの世に生み出してくれた創造神様に再び会う事もなく、この身に寿命を迎える事に、死すべき運命に恐怖した。
──ならば、至高の霊薬を作り上げよう。
──運命を、死をも退ける究極の霊薬を。
全ての──位階に関係なく、対立する事を運命づけられている善神と悪神が。
究極の霊薬を作り上げるために、全ての神々が手を組んだ。
全ての神が協力して、1年という長い時間をかけて地上の全てをすり潰した。
その結果、失われた世界すら再生できる霊薬を作り出す事が出来たのだ。
こうして究極の霊薬を作り出したまではよかった。
不死の神となった妾たちと、秘薬の力を使って世界を再構築する事が出来た。
あとは、目覚めた創造神様をお迎えするだけ。
だが──
再構築の済んだ世界を巻き込んで、神々の間で戦争が始まった。
究極の霊薬を作り、世界を再構築するまでは手を組んでいた善神と悪神が。
それをひとり占めしようとする神々と、そうはさせじとする神々が。
ありとあらゆる場所で、戦は起きた。
数千年にものぼる神々の大戦では、いくつもの超兵器が生み出され。
再構築された世界の全ての大陸は焼けただれ、粉々に砕かれ、大海に沈んだ。
多くの生命が──そして無数の神々までもが滅び去った。
後から聞いた話だけど、妾たちの愚行をご覧になった創造神様は、怒りよりも悲しみを覚えたそうだ。
その時になって気が付いたよ。
自分たちが、いかに愚かだったのかってね。
でもね、気が付いた時にはもう遅いってね。
すでに妾たちの力では、どうにもならないくらいに世界は荒れ果てていた。
もう駄目だと諦めかけながらも、壊れかけた世界を、僅かに残った生命を守り抜く事が創造神様に対する、せめてもの償いになると信じて。
『よく聞くがよい。お前たちが儂を慕う気持ちは分かるが、そのために為した所業をよっくと振り返るがよい』
創造神様のお言葉を耳にした妾たちは、そこで気が付いたのだ。
我々は慈しむべき生けとし生きる全ての生物に、何をしてしまったのか。
彼らの住まうべき大地を、海に、何をしてしまったのか。
それ以前に、緑なす大地を育む惑星そのものが……
『豊かすぎる感情を与えた結果がこれとは。儂にはもはや悲しみしかない……』
こうして世界を修復を終えた妾たちの間に第4世代の──フェイリアたちが生まれた。だけど、この子供たちは泣きも、笑いもせず、ガラスのような無機質な目をしていた。
それは生きて、動いているだけの…… 生体ロボットに過ぎなかった。
世界を再構築したのだから、誠心誠意を込めて謝れば、すべて赦される。
そんな妄想に憑りつかれた行ないの結果がこれだ。
そして、子供たちは。
すくすくと成長するにつれて、泣き、笑うようになった。
だがそれは偽りの姿に過ぎない事を、妾たちは知っている。
無数の条件分岐を判断した末に、機械的に表情を変えるだけの──仮初めの、反応に過ぎないのだという事を。
妾たちの子供たちは、生物でありながら……
生物とは言えないモノに、なり果ててしまった。
いわゆる神々の大戦と呼ばれる大戦争。
有名な所では北欧神話に記されているラグナレクですが、他にも色々な神話で語られているのです。日本の神話にも似たような──国譲りの話があります。
でも国譲りの話って、戦後処理のお話なのかも知れない。たぶん……




