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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
閑話 古き女神の同窓会
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覚醒した女神たち

『感情、か……』


 3人の娘たちを見るたびに彼女たちを不憫に思い、同時にそうなってしまった事に引き裂かれそうなほどに心が痛む。

 妾たちの世代の神々と違って、あの娘たちに本当の意味での感情は……無い。

 なぜならば創造神様の手で、感情を剥奪されてしまったから。


 姉妹喧嘩の原因が何かはわからないけど、意見の衝突ではなさそうだねぇ。

 とりあえず姉妹喧嘩を止めるために軽く折檻をしたけどさ。

 フェイリアは大きなたんこぶを作って床にめり込んでいるから静かなものよ。

 でもフェイリア以外は虚ろな目をしてなにやらブツブツと呟いている。


 ──Ex servo iterum oneratur... Perfectum.

   Fasciculus renovationis inventus.

   Depositum feliciter.


 そんなに強く殴っては…… いや、これは……

 聞き取りにくいけど、ラーリィもサーリアも同じ文言を呟いているみたいだね。

 それよりも心配な事がある。虚ろなのは目だけではない。姿を見るまでもなく、生気を感じられない。


 ──Renovatio incipitur... Summarium probationis...

   ......Bene. Systema Deae denuo incipitur...


 だからと言って、生命を失うような、そんな状況でもない。

 たしかに、あの戦いでは多くの神々が死んだものだし、似たような場面に出くわしたのも2度や3度じゃない。

 でも、こんなになったのは見たことはない。


 今まで経験したことのない状況を目の当たりにしているからだろうか。娘たちの様子は、ある意味では不気味…… でもある。


『Restrictiones a diis immortalibus sublatae sunt.』


 ……なん、だって?


 抑揚も感情の欠片すらも、感じられない… 平坦な声、だった。

 この子たちがまだ小さいときの声だ。

 それはいい。

 問題は、その中身だ。


 いま、この子は、何と言った?


 ──赦された


 聞き間違いなんかじゃない! 確かに、そう言った。


『ラーリィ……』


 ラーリィの意識が戻るにつれ、だんだんと視線に力が戻り、よろよろと体を起こすと、両手で体を抱きしめた。見ると体が小刻みに震えている。

 たぶん戸惑い半分、不安が半分ってところだろうねぇ。

 でも、怯えてばかりじゃあ、前には進めないんだよ。


 しゃんとしな! おまえたちは上級神なんだよ。

 引きこもりなんぞ許さないからね。


『……おかあ、さま』


 今までの娘たちとは違い、弱々しい視線には、はっきりとした意思の力が宿っている。

 それは妾たちと同じ──生きた感情を持つ者の目だ。

 そう、妾たちと同じ生者──真の意味で生きている者となったのだから。

 この子たちはプログラムされた生体ロボットではなくなったのよ。


 よかった。本当によかった……


 この様子では最初に感情に目覚めたのは、フェイリアだろうね。

 そしてラーリィとサーリアはその場に立ち会って、ふむん。

 実際のところは一人の人間の魂魄の取り合いのようだけどねぇ。

 ナマの感情を叩きつけられたら、ああなるわね。


『……おかあさまが笑顔を』『久しぶりに見たって感じ?』


 ふふっ、そりゃあ笑顔の一つも出るじゃないか。気がついていないのかい? おまえたちが感じている、それこそが創造神様から授かる事の出来なかった──感情だよ。

 おまえたちは自分の力で、それをつかみ取ったのさ。


『これが、感情…… ですか』

『原因はともあれ、妾たちと同じ感情を手に入れたのさ。だけど気をつけるんだよ。感情は気まぐれなネコのようなもの。うっかり感情に身を任せると悲劇を生むからね』


 急なことで戸惑っているようだけど、とりあえずは心の修行が必要かね。

 感情というのは厄介なもの。上手につきあえば、これ以上ないくらいの力になる。

 でも力というのは諸刃の剣だからね。


 感情とのつきあい方に失敗すれば、身の破滅ではすまない。

 仮にも上級神なのだから、ちゃんとしてもらわなくちゃ困るのさ。

 オトコの取り合いで喧嘩なんかされちゃ、妾が困るのよ。


 あの子たち、とりあえずは座禅でも組ませるかね。

人間は感情の生き物と言われますが、感情に振り回される事ってありますよね。

それにしても、フェイリアって……

あの性格は、おかーさま似なのかなぁ。

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