女神様のお気に入り?
冬夜くんを始めてみた時に。
彼の事をひと目で気に入っちゃいましたとも!
それに彼は何と言っても可愛いし、なんとも甘くて心がやわらぐような不思議な匂いがするんだもの。
『うふふ……』
今まで不幸だけが友達だった彼の事を、これからは私の手で、でろでろになるまで甘やかしてあげたい。
私は心の中で、そう決めたの。
神がひとりの人間に構い過ぎると、色々と問題が出ると言われているけど……
太古の人類ならまだしも最近の人類なら大丈夫だと思うの。
そう簡単に、因果律に思いっきり影響を与えるような超人は、生まれない。
いえね、太古の人類って、今の人間とは全然違うのだから。
創造神様のおっしゃる事には、彼らはプロトタイプ。それまでに創造した種をとは違うものを… というお考えのようね。
それで上級神の私でさえ気が遠くなる程の時間をかけて。
延々とに試行錯誤を繰り返したみたい。
たしかにこの宇宙を作って最初に創造なさった生命体は、宇宙の法則が定まらない時代のものだったので、ちょっとアレで。
次のは… 私が管理しているこの──太陽系よりも大きな鉱物生命体。
3番目はイカタコを進化させた種族だったし。
4番目が…… あれは惜しかったみたい。
物質創造の秘密を探り当てて、生物種としての最終段階ににまで進化を遂げたというのにねぇ。今はどこで何をしている事やら……
そして、試行錯誤の末に創造したのが太陽系人類の原種、ネフィリム。
恐竜並みに大きな身体と、とっても低い繁殖率。そのあたりを解決したの種を、第5番惑星──今は粉々になった惑星のカケラ──の住人たち。
その後、内側の軌道にある4番惑星を経て3番惑星で暮らしているの種族が、完成品というところ。
冬夜くんは、その種族の一員で、とっても…… その……
何と言ったら良いかしら。
彼が自分の死を納得していないようだったから、生命を失った瞬間を見せてあげたら、ずいぶんとショックを感じていたようだったけど。
映像が途切れてからも、しばらくは立ち上がる事が出来ないでいたの。
彼の魂魄に、これといったダメージは無いから、単純に意思の問題、かも。
立ち上がりかけて、途中でふらついた彼の身体を抱きとめた時に……
──あ……
私の鼻孔に彼の匂いが流れ込んできた瞬間、時が止まった。
息が、止まる……
彼を輪廻の輪──アカシックレコードに吸収させたくない。
私のものにして、ずっと一緒に暮らして……
そう。
ずっとずっと、ずーっと。
大宇宙が最後の刻を迎える、その瞬間になってもなお。
そしてそして、その先の世界でも。
そのまた先の世界でも。
おかしいでしょう?
でも、それが私の──偽らざる本心。
神にとってふさわしくない──どろどろとした欲望、独占欲。
彼をアカシックレコードに吸収させるなんて、駄目だ。
大宇宙にとっての損失、だ。
「冬夜、くん……」
彼の匂いを感じた私は、全身に電流が駆け巡ったかのような衝撃に襲われた。
だから幽冥を離れようとした彼の背中を、必死になって抱きしめて。
思いのたけをぶつけてみた。
「冬夜、くん……
大宇宙の中心にほど近いこの空間では、物質は存在する事すら許されない。
全ての物質は情報とエネルギーに還元されて、長い時間をかけてアカシックレコードに──この宇宙の記憶として──吸収される。
アカシックレコードと『外の空間』の狭間にあるこの空間──幽冥──は物質は事象の地平線そのもの。
だからここで言う匂いと言うのは、花の香りとかそういう類のものではない。
物質界とは隔絶された幽冥という世界に、物質的な感覚は存在しないのだから。
そう言えば、フェイリア様って仕事一筋に生きてきた干物女神なのです。
ある種の拗らせはあったかも?