サヨナラだけが人生さ
話を聞いていたフェイリアは、僕の話を聞いているうちに、だんだん顔色が青ざめてきた。
『え、え、え…… !?』
ふっ、いまさらドン引きかよ。
演技にしても下手過ぎないか?
邪神なんだから高笑いのひとつもして見せろよ。
さあ笑えよ。笑えって言ってるだろ!
『……そん… な……』
「じゃあ、僕はそろそろ行かなくちゃ。閻魔様に事情を説明しなきゃならないし、遅れたら心証が悪くなるばっかりだ」
いかなる理由があろうとも、自殺は──親より早く死ぬ事は、罪だ。
だから僕と言う親不孝者は、天国には行けないかも知れない。
でも、あそこまで追い詰められた僕に、他の選択肢はなかったんだ。
そこの所だけは、はっきりさせておきたいからね。
「……」
僕は無言で立ち上がると、フェイリアに背を向けた。
『待って、冬夜くん!』
この部屋を出たら、幽冥から離れる事は出来ると思う。
どうやったら、輪廻の輪に戻れるのかは… 何となく分かるんだ。
それは僕たちに刻み込まれた本能みたいなものらしいから。
この部屋から、いや、神殿から出たら。
それだけでオッケーの筈だ。
「じゃあ、さようなら」
僕はちゃぶ台の向こうに座っているフェイリアに声をかけた。
思えば、サヨナラだけが人生だったなぁ。
まあいいや、どうだって。
さあ、最後の旅に出掛けよう。
『……待って、冬夜くん! 私の話も聞いてよぉ』
フェイリアはまだ何か言ってる。
でも、もういいだろ。僕ひとりが、いなくなったって問題ないよ。
他にも人間はいっぱいいるだろう?
僕ひとりに構わなくたって、いいじゃないか。
僕は、目の前のふすまに歩いていく。
ここを開けたら──神殿の外に出る。
あとは輪廻の輪に戻るだけ。
そこで、ふと、僕は思った。
僕は、成仏する事が出来るんだろうか。
……まあいいや、どうだって。
とにかく、目の前の神様とはサヨナラしよう。
あと数歩も歩けば、それでおしまいだ。
僕がふすまを開けようと、腕に力を入れようとしたら……
がしゃーん!
ふっ、イライラが昂じてちゃぶ台に八つ当たりかよ。
神様と言っても、このあたりは人間と同じなんだな。
思い通りにならなかったら、何かに八つ当たりか。
やれやれ、怖いなぁ。ホント、怖いよ。
さぁて、捕まったら何をされるか分からないし。さっさと逃げ出そうかね。
魔法とかが飛んできたら、どうなるか分からないもんね。
神様の使う魔法だから一撃で消滅するかもしれないけど、嬲り殺しにでもされたら、それこそ嫌だ。
さっきの八つ当たりの様子からすれば、そのくらいは……
「おぶうぅっ!?」
僕は背中をどやしつけられるような衝撃を受けて、思わずよろめいてしまった。
ふと身体を見ると、フェイリアの白い腕が身体に巻き付いている。
身体の中からミシミシって、なんか聞こえちゃいけない音がしてるんだけど。
そして、背後からフェイリアの声がした。
『行かないで、冬夜くん。私の話を聞いてぇええ……』
何を今さら──
そう言おうと振り返った僕が見たものは……
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったフェイリアの顔だった。
チート系のスキルの持ち主は異世界もののジャンルですかね。
異世界転移とか召喚ものとかの主人公って、ほとんどが超人的なステータスの持ち主かも。
普通の人とは比べ物にならないくらいの体力とかの持ち主に、思いっきりハグされたら……
どうする? どうなる?