女神様は邪神なのか
「嘘はよくないよ、女神様」
ドヤ顔で自慢話をするフェイリアに、僕はだんだん腹が立ってきた。
こうなったら、言いたい放題言ってやるぞ。
今さら天罰なんて怖くなんか… ない!
なぜなら僕は… すでに死んでいる。
『なんでそんな事を言うの? いくら冬夜くんでも、言って良い事と悪い事があるんだよ? おねーさんは冬夜くんの事、嫌いになっちゃうよ』
「……ぅやかましいわ! この邪神め。この世に不幸な人間はひとりもいないだとぉ? 僕がなんでココにいるのか知ってる筈だ! 見てたんでしょ? 僕たちの事をさ。愛情とやらを込めて!」
『えっ?』
僕はフェイリアの武勇伝を聞いても、何も感じる事は無かった。
強いて言うなら──『ああ、やっぱりな』って。
神様は僕たちを見守っているって言うけど、要は見てもいないだろう。
つまり、つけっ放しになっているテレビのようなものだ。
民放の『3時のおまいら』をつけてるって言えば良いか。
あれは芸能レポーターが芸能人をストーキングした挙句にある事ない事言いふらして炎上させる番組だったけど、主婦の皆さんには丁度いいBGVらしい。
それとおんなじだ。
テレビをつけっ放しにしておいて、気が向いたらチラ見する。
いわば喫茶店で流れる環境音楽と、同じようなものだ。
興味が向いたら、それなりに意識を向ける。
そうじゃなかったら、意識すらしない。
「つまりは、そういうモノでしょ」
『ちっ、ちが……』
「違わないだろ。さっき僕の記憶を読んで、分かってるくせに」
生前はずっと虐められ続け、愛する幼馴染にも裏切られて。
最後に選んだのは、みずから生命を絶つという決断だった。
それは神様にしてみれば、大した事じゃあなかったらしい。
人間が幸福になろうと不幸になろうと──神様にはどうでも良い事なんだ。
所詮は気が向いたら見るかも知れない娯楽番組のカケラ、だ。
『いいえ、いいえ、それは……』
フェイリアは、ずいぶんとショックを感じているらしく、呆然と立ちつくしたまま僕を見ているようだ。
まあいいや、どうだって。
今さら何を言おうとしても、もう遅いよ。
起きてしまった出来事は、過ぎ去った過去は──変えられない。
だから、神様。
あんたが何を言おうとしているのか知らないけど。
あんたが何をする気なのか分からないけれれど。
僕が死んだという事実は変わらない。
僕が生き返る事はあり得ない。
所詮、僕はこうなる事が決められていたんだろう。
いわゆる仕様ってやつかな。神のオモチャ、娯楽のネタとしての、ね。
ならば、全部…… 終わりにしたいんだ。
僕にだって、そのくらいの権利はある。
「これが僕に授けられた幸運だって言うなら…… お前は福神なんかじゃない。やってる事は疫神どころか… すでに邪神じゃないか!」
さあ、言ってみろよ。なんで僕が死んだのかを、さ!
言えないだろ。言ってる事とやってる事が全然違うんだもん。
僕が幸福な人生を歩んで、結果として大往生したとでも思ってんの?
言えよ、女神サマ。僕のどこが幸福な人生なんだよ!
学校で不良に虐められ続けてきた。小遣いもバイトの給金も全部脅し取られた。
それを教員に相談しても無視されて、事もあろうに担任主導でクラス全員が僕を虐めにかかったんだ。
それでも何とか耐えていたのは、幼馴染がいたからだ。
だけど、その幼馴染も、あいつらの仲間だった……
僕は溢れくる感情に任せて、言いたい放題言ってやった。
なんで僕がこういう目に遭わなくちゃならなかったのか。
絶望の淵に立った僕が、その向こう側に行っても、助けてはくれなかったよね。
さあ邪神! もう一度僕の記憶を覗いてみろ。
ひとかけらの嘘も言ってないぞ。
これがお前の言う幸せって奴だよな。
そこそこには、面白かっただろう?
えええええ?
フェイリアはこの世界の管理神なんですけれどぉ?