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百のスミレと千のユリ  作者: 水瀬 悠希
終わりの始まり
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ゼロからの出発

 今日で、僕…… 泉水 冬夜(いずみ とうや)の人生は終わる。

 絶望の淵の向こう側に追いやられた僕に残された、唯一の選択肢… だ。


 復讐する相手は片丘 史郎(かたおか しろう)

 あいつが僕にした事の証拠は、全て揃っている。

 証拠が握り潰されないように、色々と手も打ってある。

 絶望の淵の向こう側に行ってしまった僕を甘く見るなよ。


 問題は、あいつの父親は県の実質的なナンバーワンだって事だ。

 公益通報でさえ、告発者を冤罪で自殺に追い込むくらいだから、たとえ息子の『しでかした事』なんか、簡単に握りつぶしてしまうだろう。

 いや、握り潰した。


 周りの人はそうじゃない事を知っていて、助けてくれもしたようだけど。

 それでも警察は動いてくれなかった。

 いや、警察がした事はある。

 現代の──魔女狩りだ。


 さらに、マスコミさえも巻き込んだ徹底的な情報操作が繰り返された結果。

 自殺した人の事は誰も口にしなくなったんだ。

 その息子が『しでかした事』についてもね。


 そして、幾度か年度が変わり…… 僕は高校に進学したんだけど。

 入学式が終わって、家に帰ろうとした僕は──

 片岡と取り巻き立ちに学校の屋上に呼び出されたんだ。

 そこで、奴は言ったんだ。


「お前の幼馴染、吉岡って奴な。なかなかいい女じゃねぇか」

「なっ!? 美斗に…… やめろ! それだけはやめてくれ!」

「わめく前にしたい事があるだろぉ? 誠意のこもったプレゼントとかよぉ?」

「これでお前の立場が分かっただろ。今日は財布だけで勘弁してやらぁ」


 片岡と奴の取り巻きの言う事を聞かなかったら、あいつらに逆らったら。

 誰よりも大切な僕の幼馴染──美斗(みと)を襲うと言われたからだ。

 僕は、ポケットの中の財布を奴らに渡すしか、方法は無かった。

 それからというもの、僕を待っていたのは地獄のような日々だった。


 片丘とあいつの取り巻きたちは、何かにつけて難癖をつけて僕が立てなくなるまで殴られるなんてしょっちゅうだ。

 今まで大切に貯金してきたお年玉や、アルバイトの給金も全部巻き上げられた。

 学校は、僕がどういう目に遭っているか知っているけど、結局は無視… だ。


 それでも、全部、全部、全部。


 僕は我慢してきたんだ。


 終業式を終えたあの日に、あの光景を見るまでは。


 美斗が片岡の腕にしがみつき、廊下を仲睦まじく歩いていく姿を。

 僕はバレないように、こっそりと後を付けたんだけど…… その先での出来事は悪夢としか思えなかった。


 旧校舎の一室に入り込んだあいつらは、抱き合ってキスをはじめて。

 それから、美斗は自分からスカートをめくりあげたんだ。

 あいつは──下着を穿いていない──彼女の股間に手を伸ばすと……


「吉岡ぁ、もうこんなになってんのかよ。まるで洩らしたみたいになってるぜ」

「ああんっ///」

「おらっ! こうして欲しかったんだろ?」

「あっ/// あんっ///」


 根崎が激しく腰を動かし始めると、いっそう激しく美斗のお尻が踊り始める。

 その光景を目にした僕は、はっきり言って気が狂いそうだった。

 最愛の幼馴染が、片岡と付き合っていたなんて。


 それから、僕はどこをどう歩いたのかわからない。

 気が付いたら、僕は自分の部屋に戻っていた。

 スマホがブルルッと震るえて、メッセージ着信のアイコンが表示された。

 かなりの数のアイコンがあるけど、全部…… 僕の体調を気遣う内容で。


 全部…… 美斗からのもの…… だ。


 画面を見る僕の目からは、もう涙すら出てこなかった。

 あいつらに背中を押されて、絶望の淵の、その先に進まされた、僕。

 明日も僕は、あいつらに虐められるんだろう。


 明後日も、その先も……


 もう、いやだ! もう、耐えられないよ。

 いっそのこと死んでしまえば、この苦しみから…… 解放される、かな。


 僕は机に飾られた写真立てを眺めながら。

 どっぷりと思考の沼にはまり込んでいた。

21世紀の今でもなくならない学校での虐めですけれど。

昭和時代には『転校生』を担任主導で虐めるのがデフォ。

教員がクラスをまとめるための標準的な手法だそうです。

私が耳にしたのは都市伝説でしょうか。それとも……

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