吸血鬼事件 その後
次の日、学校からは、用務員さんの事件は、近所でペットとして飼われていた吸血コウモリが逃げていたのだと説明があった。学校からサイカケンのかかわりを示す言葉は聞かれなかった。知っていて隠しているのか、何らかの力が働いたのかは不明だが。ぼくらには平和な日常が戻った。
しかし、それ以降ぼくは部活へ行くことはなかった。あれだけのことを言い払ってきたためか、加奈子先輩のお迎えも、あれ以来ぱったりとなくなった。ぼくは大きな安堵とわずかな寂しさを感じていた。
「よー、ケンタ。どうしたんだ、最近部活もいかないでまっすぐ帰ってるみたいじゃないか」
帰宅の準備をするぼくに品川が話しかけてきた。サイカケンの関係者というだけでぼくを避けているクラスの中では、唯一普通に話しかけてくれる。今ではありがたい友人だ。
「ああ、もういいんだよあんな部活」
別れ際の加奈子先輩の顔が頭に浮かんだが、それを振り払うように強く答える。
「おお、コワ。愛しの先輩に振られでもしたか」
「そんなんじゃない」
「そんなに怒るなって、意地張ってるのもいいが、最近サイカケン、ちょっとおかしいぜ」
「あそこがおかしいのは、もともとだろ」
「ああ、だけどな、毎日のように起こっていた爆発音が、ここ一週間聞こえてないんだ。噂ではもう解散したんじゃないかって話だぜ」
一週間といえば、ぼくが部室を飛び出したときからの日数とほぼ一致する。
「帰る」
短く答えるとぼくは教室を出た。
「おーい、ケンタ。下駄箱はそっちじゃないぜ」
品川が笑いながら叫ぶ声を無視してぼくは階段を上った。
二年生の教室はぼくら一年の教室の上の階にある。
ぼくは加奈子先輩の教室の前にいた。
そう、これはあくまで先輩を心配してのこと、別にやましい気持ちはないし、『部活には行かない』といったけど、会いに行かないとは誰も言っていない。
ぼくは自分に言い訳をして教室を覗く。
二年生はたった一年しか違わないというのに、外国人のように大きく見える。こう見ると加奈子先輩は同学年の中でもかなり童顔なのだとわかる。
きょろきょろと、教室の中を見渡していると、女性の先輩が声をかけてくれた。
「きみ、一年生でしょ。誰か探してるの?呼んであげるよ」
「ああ、す、すみません。あの、一ノ瀬先輩か川島先輩はいませんか」
「ああ、あの二人、それならここ二、三日休んでいるわよ」
特に学校に連絡もないらしい。無断欠席はいつものことなので先生たちも心配はしていないようだとも教えてくれた。
しかし、ぼくには不安が付きまとう。まさか実験中に何か事故が。いや、またあのノミネコに襲われたのかもしれない。もし実験室内で倒れているなら、誰も助けには行かないだろう。こうしてはいられない。
ぼくはその先輩にお礼を言うと、そのまま研究連へ急いだ。