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川島 法子

 御堂博士は顔に張り付く黒い塊を何とか引き剥がそうとするが、力強く爪を立てたノミネコおこげを容易にはずすことはできない。


 うにゃー、という泣き声を上げ、黒い塊が御堂の首筋に噛み付き、血を吸おうとしているようだ。

 御堂博士がおこげに気を取られているすきに、ぼくの閉じ込められた筒が静かに開かれた。

 筒を開けてくれたのは法子先輩だった。


「法子先輩、ありがとうございます」


 体の自由の利かないぼくを、法子先輩が筒から引きずり出してくれた。


「モル君あぶないところだったわね」


 動けないままマグロのように横たわるぼくの目の前に加奈子先輩がしゃがみこんで話しかけた。


「先輩、どうしてここがわかったんですか?」


 まだ体の自由がきかない僕は首だけを加奈子先輩に向けて疑問を口にする。


「データを盗んだ犯人には、見当がついていたのよ。ただ巧妙に足跡を消していたから、アジトがつかめなくてね、モル君にちょっと囮になってもらって、あとをつけてきたってわけ」


「また、ぼくを利用したんですか」

 ぼくは動けない体で精一杯怒りを表すが、加奈子先輩は動けないぼくの頭を自分の膝に乗せる。これは、ひざまくらってやつだ。


「ごめんね、モル君しか頼れる人がいなかったのよ」

 やわらかいももの上にのった頭がやさしくなでられる。ああ、こんなことでだまされちゃダメなのに……

 加奈子先輩のももの柔らかさが怒りの感情を包み込んでいく。


「くそう、何者だ」

 三村・四ツ柳に手伝ってもらい、何とかおこげを引き剥がした御堂がマントを整えて悪役らしいせりふを叫んだ。黒いマントが風に舞う。

 それに答えるように、加奈子先輩も立ち上がり、まけじと白衣を風にはためかせて答えた。 


「最新科学研究部 部長、一ノ瀬 加奈子よ!」

 ちなみに膝枕されていたぼくは豪快に床に頭を打ち付ける羽目になったが、この際文句は言うまい。


「むむむ、ちょこざいな。私の世界征服の野望を邪魔する奴は許さんぞ」


 芝居がかった動作でマントをはためかせる。なぜにこの地下室でマントがなびくかといえば、よこで黒い人造人間たちが、一心不乱にうちわで扇いで風を起こしているためだ。


 ちなみに加奈子先輩の白衣をはためかせるために、法子先輩は扇風機を回している。どちらも芸が細かい。


「まだそんなこと言ってるの。自分じゃ何もできないからって、私の研究を盗むのはやめて頂戴。お兄ちゃん」 

 おにいちゃん?加奈子先輩の言葉にぼくは耳を疑った。


「加奈子の両親は離婚していて、父方が加奈子を引き取った一ノ瀬博士。母方が恭介を引き取った御堂教授だ」

 扇風機の角度を合わせながら法子先輩が説明してくれた。


「人聞きの悪いことを言うな。私は世界の御堂だぞ。誰が高校生のふざけた発明品など盗むものか、たまたま同じものを作り上げただけだ」

 かなり無理のある言い訳を、力いっぱいに叫ぶ。加奈子先輩も呆れ顔だ。


「お兄ちゃん、自分勝手なところは本当にお母さんそっくりね」

 加奈子先輩もかなり自分勝手だとは思ったが、ここは黙ってみていることにしよう。


「そう、お母さんは昔から、自分の欲望のために科学を追及する人だった。それに対してお父さんは純粋に科学を愛していた。

 そんな価値観の違いからお父さんは別れたのよ。正直、私もお母さんの考えにはついていけなかったわ。だからお父さんといっしょに行ったの」


「ママのことを悪く言うな」

 御堂は今まで見せたことの無いような怒りを露にした。典型的なマザコンのようだ。


「お前たちもう許さん。加奈子貴様もだ。ママの悪口を言う奴は、地獄に落ちろ。二垣、三村、四ツ柳、五味、六角、七海、八街、九重、あの二人を血祭りに上げろ」


 部屋の影から黒い男たちがいっせいに襲い掛かってきた。

 顔は全て同じ黒い卵のようだが、様々なところで仕事をしていたらしく、衣装は様々だ。

 OLの一河さんはぼくが壊してしまったが、運転手の二村さんをはじめ、清掃員からコックさんまで、様々な職業の人造人間が襲い掛かってくる。


 加奈子先輩の前には、法子先輩が守るように人造人間たちを睨む。


「何をしている、かかれ!」


 御堂の号令で、人造人間たちはいっせいに襲い掛かった。

 三村、四柳が強烈なパンチを打ち込んできた。

 法子先輩はそれを軽く受け流すと、そのままひじうちをかます。

 二つの赤い噴水が上がり、二体の人造人間は倒れた。


 それを合図に法子先輩の猛襲が始まる。

 体制を低くし、足を払う。もとより頭の重い人造人間たちは簡単に転がり、床面に頭をぶつけて機能を停止した。

 そうして二体を葬ると、残りの四体も風のような動きで、次々に頭を吹き飛ばした。


「ふんっ」

 最後の一体を回し蹴りで倒すと、玉座にいる御堂を睨む。

 しかし、御堂は余裕の笑みを浮かべ、手をたたく。


 パチパチパチ、と乾いた音が地下に響いた。


「いやぁ、見事。さすが、加奈子の最高傑作、人造人間『川島 法子』だ」


 御堂の言葉にぼくは驚いて法子先輩を見る。加奈子先輩は表情も変えず、御堂を睨みつけている。

 そんなことがあるだろうか、確かに加奈子先輩は人造人間を作り出しはしたが、いまだ未完成。単純な命令を与えるのがやっとなはずではなかったか。法子先輩は確かに表情の変化には乏しいが、自分の意志で動き、判断している。少なくともぼくにはそう見えた。


「そんなわけあるか、法子先輩は人間だ」

 やっと自由の戻りかけた体を何とか持ち上げぼくは叫んだ。


「いいんだ、モル。そいつの言うことは本当だ」

 法子先輩は御堂から目を放さずそう言った。

 加奈子先輩に目をむけるが、先輩は目をそらすだけで答えてはくれない。


「私はカナを守る。存在の意味はそれだけだ」

 法子先輩の表情には悲壮感は何もない。

 ただ加奈子先輩を守る。そう決められたプログラムを全うする。

 ただそれだけのマシーンだった。


「ははは、残念だが、それはできないな、私はお前の弱点も知っているんだ。お前は単体で動いているわけではない。基本データ以外は全て学校にあるスーパーコンピューターが指令を出している、そうだろう。だから必要に応じてデータをダウンロードしなければならない、格闘のときは空手やボクシングなどのデータをダウンロードするというように、頭脳を別の場所において活動しているからそんなコンパクトなボディを実現できているんだ」

 御堂が骸骨の頭をなでる。髑髏の目が赤く光り、部屋中がうなるような低い音が響きだした。


「つまりそれはデータを送っている電波を遮断すれば、ただのでくの坊ということだ」

 御堂が骸骨の頭をねじると、部屋中に赤い光が点滅を始めた。ぼくには何も感じないが、目の前の法子先輩はその場にひざを着いた。


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