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御堂 恭介の言葉

 あの事件では、さすがにぼくたちサイカケンへも罰が下った。


 部活動の解散に追い込まれてもおかしくもなかったが、三日間の自宅謹慎のみ。もちろんその間部室は閉鎖された。


 あれだけのことをおこしてのペナルティとしては軽い方だろう。

 相変わらずサイカケンは特別扱いのようだ。


 まあ、それは別にかまわないのだけど、問題は事の成り行きが、ぼくたちのいない三日の間に、捻じ曲がった噂として学校中に広がってしまっていることだった。




 謹慎が解けて、最初の登校日。


 ぼくのことを見るほかの生徒の目は、かなり厳しかった。特に女子からは虫けらでも見るような視線を浴びせられ、いたたまれなくなってしまった。


 どうやら、ただでさえ重体から一週間で回復を遂げた超人として名が知れているのに、それに輪をかけて不名誉な噂が駆け回っている。


 先の事件はぼくが実験にかこつけて、先輩を襲った。という話になっているらしい。

 おかげで、先輩を押した『(おとこ)』森本 堅太として男子からはひそかに神とあがめられ、女子からは虫けらのように嫌われてしまっている。



 完全にクラスの中で浮いた存在になってしまったぼくは、放課後も教室の隅で愛読書の科学雑誌を一人眺めていた。部室に行かねばならないとも思うのだが、加奈子先輩と顔をあわせづらい。


 記事には世界でも指折りの科学者、御堂 恭介 のインタビューが載っていた。


『科学者とはいつの時代も一般の人々からは理解されないものだ。時がたち、人々のレベルがその位置に達したとき、初めてその偉大さを感じるのだ。そのときに科学者はまた更なる高みに上らねばならない』


 さすが今、ノーベル賞に一番近いと言われるだけあって、言葉に説得力がある。ぼくも今は誰にも理解されていないが、将来的には理解される。ことを願いたい。


「いやー、見直したぜケンタ。あの一ノ瀬女史を押し倒すとは、男だね」

 ぼくの肩を抱き、品川が話しかけてくる。


「そんなことしてないよ。あれはもう一人のぼくがやったことで……」


「たしかに。いつものお前からは想像できない快挙だ。お前の中の本当の漢がついに目覚めたってことだな」


「もう勝手にしてくれ」

 人造人間の実験をしていたなど、到底普通の人たちに信じてもらうことはできず、その部分はすっかり抜け落ちて、ぼくが先輩を襲ったという部分だけがクローズアップされている。


 頼みの綱、唯一の目撃者である、近藤先生は人造人間の頭を殴ったことで、全治一ヶ月の重症で入院中だ。あの頭は金属の塊でできているのだから、本気で殴れば骨くらい折れて当たり前というものだ。

 よって、証言するものもないまま、噂は一人歩き。ぼくは学校始まって以来のエロ学生というレッテルを貼られてしまった。


「お、ケンタなに読んでるんだ。」

 品川はぼくの読む雑誌を取り上げ、パラパラとページをめくったが、すぐにぼくに投げ返す。


「おい、この雑誌、グラビアページがないぞ」


「科学雑誌にそんなもの載ってるわけないだろう」

 呆れ顔のぼくに向かい、品川は力強く言い放つ。


「グラビアの無い雑誌は、雑誌にあらず!」

 はいはい、品川を適当にあしらい、教室を出る。クラスを出ても、ぼくに向けられる奇異の目は変わらない。もう平穏な学園生活は望むべくも無いだろう。


 今日は家に帰ろうとも思ったが、ぼくの足は自然に研究連に向かってしまう。別にサイカケンにはもういく必要もないのだが、体は部室へと向かう。これは催眠術か何かをかけられている可能性もある。加奈子先輩たちならやりかねない。


 そういえば加奈子先輩は大丈夫なのだろうか、後輩に襲われたなんて、噂になって困っているんじゃないだろうか。

 不安に感じつつ部室の扉を開けた。


「こんにちは」

 部室は先日の事件以来、ほとんど手がつけられていない。


 ベッドに寝かされた加奈子先輩のコピーと、頭の無いぼくのコピーもそのままだ。人工血液はおこげが舐め取ったためか、ほとんど残っていなかった。


 ぼくの吹き飛んだ頭は、テーブルの上に置かれている。

 まさにさらし首だ。


「モル君、大変なことになったわ」

 入ってきたぼくを見つけるなり加奈子先輩が駆け寄ってきた。


「先輩も色々噂立てられてるんですか、大変ですよね」


「そんなことはどうだっていいのよ。泥棒よ、泥棒が入ったの」

 加奈子先輩はあわてまくっていて、要領がつかめなかったが、まとめるとこういうことらしい。


 三日間も部室を空けていたので、データを整理しようとパソコンを立ち上げた。すると、誰かがデータ内に侵入した形跡があるようだった。法子先輩が調べると、どうやら前回行った『てんそう君』の設計図や移動実験のデータ、『人造人間作成法』などがパソコンの中から盗まれていたらしい。いわゆるハッキングというやつだ。


「今日は犯人探しを重点的にやるから、モル君は……帰っていいわ」

 はあ、つまり邪魔するなって事というわけだ。そういうことならと、ぼくは素直に部室を後にした。


 しかし、あのサイカケンにハッキングするとは相当のハッカーなのだろう。人間コンピューターのような法子先輩が管理するパソコンを破れる人間がいるとは、それだけで驚きだった。


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