最初のダンジョン、そしておそらく最後のダンジョン
第2章
最初のダンジョン、そしておそらく最後のダンジョン
ダンジョンに行く3日前：
松の香りと新鮮な土の匂いが漂う深い森は、静かで穏やかでした。太陽の光が濃い木々の葉を抜け、地面に奇妙な模様を描いていました。木々の間に立っていたのは、弓を手にした少年でした。彼の視線は、数十メートル先で平和に草を食む鹿に集中していました。
「フゥーーー」
特徴的な音を立てて、矢が弓から飛び出し、目標に突き刺さりました。動物はびくっとし、逃げようとしましたが、あまりにも多くの血を失い、すぐに力尽きて地面に倒れました。
「今日は良い獲物だ！」
私は喜びの声を上げ、弓を下ろしました。「父さん、僕は終わったよ！」
「よくやった、アルク。俺もここで終わりだ」
グレッグは倒れた動物の体を荷車に積みながら答えました。
「父さん、最近何か変だと思わない？」
私は心配そうに尋ね、彼に近づきました。
「そう言われると……今日はあまりにも静かだし、ここ数日で獲物がかなり減ったな。もしかしたら個体数が減っているのかもしれない。門の警備員に報告して、この森の一部で一時的な狩猟禁止をしてもらう必要があるかもしれない」
王国の法律によると、都市近くの森での動物の個体数が大幅に減少したり、絶滅したりするのを防ぐために、特定の区域で一時的な狩猟禁止が導入されることがあります。これは、グレッグが私たちの狩りの最中に教えてくれたことでした。些細なことですが、こういうことを知るのは興味深いことでした。
「父さん、家に帰る前に少し森を散歩してもいい？」
私はグレッグに懇願するような目で見つめました。
「ああ、いいだろう。ただし、長くならないように、そして迷わないように気をつけろよ」
父は息子の願いを断れませんでした。許可をもらうと、私はすぐに彼の視界から消えました。
「まったく、やんちゃな奴だ」
グレッグは苦笑いしながら、獲物を集め続けました。
森を散歩しながら、私は周囲を注意深く観察していました。突然、奇妙な小さな足跡が目に入りました。それは人間の足跡に似ていましたが、ずっと小さかったです。
「ゴブリン？グレムリン？」
それを見た瞬間に頭に浮かんだのがそれでした。興味が勝り、私はその足跡をたどることにしました。
足跡は、私にとって痛いほど見覚えのある建物へと導きました。巨大な石の入り口は、2つの松明で飾られ、暗くて謎めいていました。
「これはダンジョンだ」
私は自分に呟きました。「こんなに早く見つかるとは思わなかった」
「グリ……グ……ギ……」
不快な声が入り口から聞こえました。私はすぐに茂みに隠れ、口を手で覆いながら観察を始めました。
しばらくすると、洞窟から4体の緑色の小人が出てきました。それはゴブリンでした。小さくて醜いモンスターで、木の棍棒を手にしていました。そして、彼らはひどい悪臭を放っていました。
私は怖かった。音を立てずに茂みに座り、小さなゴブリンのグループが視界から消えるのを待ちました。彼らが去るとすぐに、私は隠れ場所から出て、できるだけ早くグレッグの元に戻ろうとしました。その際、数日後にここに戻るための目印を残しました。
グレッグの元に戻ると、私たちは森を後にしました。私は彼にダンジョンのことを話しませんでした。なぜなら、自分でその中の全てのアイテムを手に入れるつもりだったからです。危険ではありましたが、自分の力に自信がありました。
門に着くと、私たちは警備員に動物の数が減っていることと、森の北部での一時的な狩猟禁止の必要性を報告しました。
「情報をありがとう」
一人の警備員が頷きました。「上司に伝えておきます」
「どういたしまして」
グレッグは答え、私はただ黙って頷きながら、これから待ち受けていることを考えていました。
私たちは家に向かいましたが、私の心はすでに遠く離れていました——あのダンジョンのことを考えていました。私はそれが危険だと知っていましたが、他に選択肢はありませんでした。もし私が新しい家族を守りたいなら、強くなる必要があります。そして、ダンジョンはそのチャンスです。
「アルク、今日は何か考え事をしているな」
グレッグは私を見ながら言いました。
「ただ疲れてるだけだよ、父さん」
私は自分の考えを悟られないように嘘をつきました。
「じゃあ、家で休むんだな。明日も早く起きないといけないからな」
「わかった」
私は頷きましたが、心の中ではこれからの計画を立てていました。
ダンジョンは私を待っていました。そして、私はその危険に直面する準備ができていました。
数日後
両親に手紙を残し、私は街を出ました。
予想通り、警備員は森の北部での狩猟を禁止しました。そのため、私は目的地にたどり着くために少し遠回りをしなければなりませんでした。持っていたのは小さなナイフ、弓、30本の矢、そして食料の入った袋でした。森の中を進みながら、私は自分がつけた目印をたどりました。思った通り、この辺りには誰もいませんでした。
「ギ……ガ……ギャ……」
奇妙な音が茂みから聞こえてきました。私はすぐに近くの茂みに隠れ、持っていたナイフを取り出しました。
「ギ……ギ……ガァ……」
奇妙な音に加えて、鈍い音が聞こえました。
茂みから覗き見ると、2体のゴブリンが何かの動物の死体をめぐって争っているのが見えました。この光景は私を笑わせました。
勝者が仲間を倒すのを待ち、私は静かに弓を引き、勝者を射ました。矢は彼の頭に直撃し、彼は音も立てずに倒れました。
少し進むと、ダンジョンの入り口に到着しました。遠くには、4体のゴブリンの小さなグループが狩りに出かけようとしているのが見えました。岩の間に隠れ、彼らが通り過ぎるのを待ち、中に滑り込みました。
ダンジョンの内部は牢獄のように見えましたが、檻の代わりに部屋がありました。
ゴブリンとの戦いを避け、注意を引かないようにしながらも、時々ゴブリンを1体ずつ慎重に殺し、空の部屋にその体を隠しました。これらの行動は、あるゲームを思い出させました。
「ハゲて彼らに変装するだけだな」
私は自分に苦笑いしました。
驚いたことに、私はこれらの廊下を非常に自由に移動していました。ここは初めてでしたが、ゲーム内で何度も似たようなダンジョンをクリアした経験が役に立っていました。
気づかないうちに、私は危険な部屋を全て通り抜け、宝箱のある部屋にたどり着きました。
「怪しい……これはあまりにも簡単すぎる」
私は呟きながら、宝箱に近づきました。
宝箱に砕いて乾燥させた葉を撒きました。これはゲームの初期段階で、ミミックかもしれない宝箱をチェックするための特別な方法でした。もしそれがモンスターなら、すぐに震えたりくしゃみをしたりします。これは、人間の舌に胡椒をかけるようなものです。数分待っても何の反応もなかったので、私は安心してそれを開けました。
中には銀の指輪と短剣が入っていました。がっかりしたと言うのは控えめな表現でした。しかし、こんな場所で価値のあるものを見つけるのは難しいと理解していました。とはいえ、何か巻物や高価な装飾品を見つけて、良い値段で売れることを期待していました。短剣を腰にぶら下げ、古いナイフは酷く使い古されていたので捨てました。指輪が何をするのか見てみることにしました。そして、それを手に取った瞬間、私は気づきました……。
「ここにはシステムがない！」
私は自分に叫びました。
なぜ自分でこれに気づかなかったのか？ゲームが現実になった今、多くのゲームの仕組みは機能しなくなっていました。アイテムの効果を知るためには、「鑑定」スキルを持つ人に頼む必要がありました。
さらにがっかりして、私は冷たい床に座り、次の行動を考えました。指輪をはめて、感覚で何か効果があるかどうかを試すことにしました。
「グゥー」
空腹を訴える私の胃の音が、半ば空の部屋に響きました。
「どうやら、空腹感以外には何も感じないようだ」
私は言いながら、袋から少し食べ物を取り出しました。
軽食をとった後、私は早々に諦めず、もう一つの宝箱のある部屋を探すことにしました。通常、低ランクのダンジョンには2つの宝箱がある部屋があります。だから、私は2つ目の宝箱があると思われる場所に向かいました。途中で新しいナイフを試しました——それは十分に鋭く、迷子になった3体のゴブリンを殺すのは簡単でした。
すぐに、テレポートサークルのある部屋に到着しました。大きな青いサークルは私を誘惑しましたが、まだ早いと判断しました。これが私の最初の間違いでした。
2つ目の宝箱のある部屋に近づくと、私はその場で凍りつきました。宝箱の代わりに、奇妙な赤いサークルがありました。それは以前見たものに似ていましたが、2つ目のテレポートサークルはあり得ないことでした。
「グリャ ハ トゥア！」
「ガァ グ ナ！」
私がこの部屋でどうするか考えていると、背後から大きなうなり声が聞こえました。それはゴブリンの群れでした——約20体の小さな醜いモンスターです。そんな大群には対処できないと理解し、私は前に進もうとしましたが、前からも同じようなうなり声が聞こえました。
「くそっ、小さな醜い奴らに囲まれてる」
私は心の中で呟きました。
同じような緑色の醜いモンスターの群れが私に向かって来ていました。私は包囲され、唯一の出口はあの未知のサークルがある部屋でした。考える時間はほとんどなかったので、私はその部屋に駆け込み、これがただの出口であることを祈りました。
未知のサークルに足を踏み入れると、眩しい赤い光が私を包みました。
「これは明らかに良くない」
私は思いました。そして、周りの世界が溶けていくのを感じました。
「くそっ、何も見えない」
私は頭痛に耐えながら呟きました。
視力が戻ると、私は周りを見回しました。私は灰色の部屋にいて、半分が氷で覆われていました。息を吐くたびに、冷たい蒸気が口から出ました。そして、私は周りが耐え難いほど寒いことに気づきました。
「なぜあんなにたくさんいたんだ？そんな数は低レベルのダンジョンでは普通じゃない……それとも、私の記憶がおかしいのか？それに、私はどこにいるんだ？」
私は部屋の真ん中に座り、自分の状況を理解しようとしながら、思考が混乱していました。
立ち上がって半凍った部屋から出ると、恐怖に襲われました。目の前には、完全に氷に覆われた街が見えました。
「ミルドフォルド氷結王国の遺跡、Sランクのダンジョン」
私の声は震えていましたが、それは寒さのせいではなく、恐怖からでした。
私はこの場所をよく知っていました。ゲームの中で、ここで最も頻繁に死んだ場所だからです。これはゲームの最終局面の直前のダンジョンでした。
私は震え始めました。もともと青白い肌がさらに白くなりました。私はかろうじて立っていることができませんでした。今、私は自分の死が時間の問題であることを理解しました。
「10体のゴブリンにやっと勝ったばかりだ。こんな呪われた場所でどうやって生き延びるんだ？」
この質問が頭の中をぐるぐる回りました。
私はその場に立ち尽くしていましたが、迫りくる死を感じました。急に横に飛びのくと、私が立っていた場所に氷の爪が突き刺さりました。巨大な雪の虎が、氷の爪を持って、数メートル先から私をじっと見つめていました。私は動けませんでした。心臓は胸の中で狂ったように鼓動を打っていました。
巨大な虎はゆっくりと私の周りを回り始めました。それは雪豹に似ていましたが、私の世界のものよりもはるかに大きく、氷の爪を持っていました。この領域では、それはミニボスでした。非常に強力ですが、一つの弱点があります——静止した目標を見ることができません。獣は立ち止まり、匂いを嗅ぎ始めました。
「くそっ！ゴブリンの血……」
私の服は緑色の怪物たちの血で染まっていました。
私が動かない限り、彼は私を見ることができませんでしたが、匂いを感じて、私が近くにいることを確信していました。
「ギャァァァ！」
獣の鋭い咆哮が私を震撼させました。それはあまりにも大きく、私は気を失いそうになりました。
その振動により、建物からぶら下がっていた巨大な氷柱が割れ、落ち始めました。そのうちの一つが雪豹の上に落ち、私に逃げるチャンスを与えました。その機会を得て、私は急いで前に進みました。私の目は見覚えのある場所を探していました。遠くに、半分凍った教会が見えました。
「あれだ！必要なものだ！」
私は急いでそこに向かいました。教会の周りには多くの罠がありました。獣はすぐに障害物を取り除き、私を追いかけました。小さな雪の塊に気づくと、私はそれを飛び越え、ミニボスの方に向き直りました。怒り狂った獣は私に飛びかかってきました。
「運が良ければいいが！」
その雪に足を踏み入れると、氷の鎖が獣の体をしっかりと包み込み、動けなくなりました。
「素晴らしい！」
私は喜びを隠せませんでした。「猫ちゃん、ここら中に罠があるのを忘れたのか？」
そう言いながら、私は短剣を取り出しました。教会の近くにこんな罠がたくさんあるのを覚えていて良かったです。何度もこのダンジョンをクリアした甲斐がありました。
「とはいえ、これが拘束タイプの罠で良かった。そうでなければ、私はもう死んでいただろう」
獣に近づき、私はその目に2回ナイフを突き刺しました。それで彼の目を潰し、さらに顔を数回刺しました。非常に厚い毛皮のため、私の短剣では毛皮がないか、ほとんどない場所しか攻撃できませんでした。
ようやく息をつく時間ができました。私は無力化された動物の横に座りました。アドレナリンの効果が切れ、私は激しく震え始めました。恐怖、不安、パニック——これらの感情が一気に押し寄せてきました。数分後、私は落ち着き、考え始めることができました。「一つの脅威は無力化されたが、ボスが残っている。彼が問題だ」
このダンジョンはSランクなので、ルールが異なります。まず、このレベルのダンジョンは別世界です。ここから出る唯一の方法は、この場所を維持しているボスを倒すことです。次に、貴重なアイテムはボスやミニボスを倒すことでしか手に入りません。低レベルのダンジョンのような宝庫やテレポートサークルはここにはありません。
「クソアジア人、こんなに手間をかけるのも大変だったろうに」
私は怒りを抑えようとしながら声に出して呟きました。
座って今後の計画を考えていると、雪豹の首に何かがぶら下がっているのに気づきました。手を伸ばして近くで見ようとすると、獣は暴れ始め、首にぶら下がっているものを守ろうとしているようでした。鎖は彼をしっかりと拘束していると知っていました——何度もこうやって彼を倒したことがあります。
私の右手はまだ震えていました。左手で手首をつかんで落ち着かせようとしました。豹は暴れるのをやめ、私はその首にぶら下がっているものを取ることができました。それは指輪でした。
「指輪？豹にこんなものがあったっけ？」
私はゲーム内でこんなものを見たことがあるかどうか思い出そうとしました。
それは濃い青色で、縁全体に雪の結晶の模様が刻まれていました。それをあらゆる角度から見ても、ゲーム内でこんな指輪を見た覚えはありません。
他に良い考えが浮かばなかったので、私はそれを右手の中指にはめることにしました。指輪が指にはまると、私は膝をつき、頭を抱えました。頭痛は耐え難く、まるで頭が熱い針で刺されているようでした。
突然、痛みは消え、私はどこかの白い空間にいました。すぐに右手を見ると、そこにはまだあの指輪がありました。それを外そうとしましたが、無駄でした。
「このクソ指輪、外れない！」
私は声に出して呟きました。
「私の家をそんな風に呼ぶのはやめてくれ」
突然、年老いた声が背後から聞こえました。
私は急いで振り返り、長い白いひげを生やした背の高い老人を見ました。彼の目は穏やかでしたが、信じられないほどの力を感じさせました。彼は杖に寄りかかり、軽い笑みを浮かべながら私を見つめていました。
また私、ミャタです。第1章から第4章（追加章を含む）までは、アルクの新しい世界への適応についてさらに掘り下げています。第5章（正確には第6章）からは、アカデミーでのメインストーリーが始まりますので、お楽しみに！
