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ケイ・誰かの気持ち

 朝が来た。

 ソラさんの言った通り、あれから自警団の人はずっとバタバタしてるし、お世話してくれてた奥さん達も顔を見せない。

 そこへ現れたのはキャロだった。食事の用意を手伝うよう言われた僕らは炊事場に連れていかれる。


「とりあえずスープをたくさん作っておいて皆が好きな時に食べられるようにしておくの。無くなったらまた作り足すから見ておいてね」

「はあ」

「あ、ケイ達のはこっちの小さい鍋だから間違えちゃだめだよ」


 キャロが僕達の分を作って、僕達は自警団の分の大量の野菜処理をやらされる。

 ブライスさんが手慣れた感じで皮むきをするのを見てキャロは少し目を見張る。


「ブライスってほんっとなんでも出来るんだね」

「そうよぉ、すごいでしょ?」

「うん。やっぱりソラの相手はブライスがいいな。ねえ、わたしがなんとしてでもここで仕事を見つけてあげるから、ここに残ってソラと結婚してよ。あ、その前に無実の証明と人探しがあるのかー」

「ブライスさん誰か探してるんですか?」

「んーまあちょっとね」


 剥いた野菜を半分に切って鍋に放り込む。

 キャロは素手で干し肉をちぎっていく。


「ジンさんもちょっと期待してたのに。あの人王都に帰るって言うんだよ? それでソラについてきて欲しいって。ひどくない? 何の権利があってわたし達からソラを奪おうとするんだろう」

 

 権利って。

 話を聞いたブライスさんはにやにやし始める。


「へえ、そんな話が持ち上がってるの。いいねえ。俺、自分に関係ない人の色恋話聞くの大好き」

「だから関係なくないんだってば」

「そもそもさ。キャロはおせっかいする気満々だけど、ソラさんの方の気持ちはどうなの? 好きな人はいないか確認してるの?」

「え-聞いたことない」

「どうして。そっちの方が話が早いじゃないか。歳が合いそうな人……自警団とかでいないの、リョクとかナオさんとか」

「リョクは違うよ!」


 こっちの言葉に食い気味にキャロが否定してきた。


「あの二人はただの友達だから。リョクには許婚がいるしね」

「リョクってあのデカ男だよな? あいつ許婚なんかいるの? ナマイキだなー」


 ダン、とナイフで野菜を叩き切る。


「今は体を悪くしてるけどよくなったら結婚するんだって」

「ミカンさん、だっけ? どんな人なの?」

「リョクが大っ好きでソラが嫌いな人。わたしの敵」


 この場にいない相手をきりっと睨みつける。


「子供の頃は神官の娘と村長の娘のどっちがえらいかーとかってずっと二人で喧嘩してたんだって」

「へえ。ソラさんでも子供の頃はそんな感じなんだ」

「ぜーったい向こうが勝手に絡んできてたんだよ。リョクと話す女の子に片っ端から焼きもち妬いてたんだって。母親と一緒! そっくり親子ー!」


 そっくりかー。顔もマリアさんに似てるなら美人さんなんだろうなー。


「何にやついてるの」


 怒られた。


「いやあ、でも。ソラへの焼きもちは合ってるだろ? あいつあんなとぼけた顔して浮気者だねえ」


 言葉の意味がわからないので僕もキャロも首を傾げる。ブライスさんはにやっと口の端を上げた。


「あいつソラに気があるから。俺がちょっかいかけた時の怒りっぷりが本物だ」

「そんなの、」

「まーガキ共にはわからないかねえ」


 文句を言いたげなキャロをブライスさんは受け流す。

 そこで僕もちょっと思ってたことを口にしてみる。


「それを言うなら、ソラさんの方もリョクが好きなんじゃない?」

「なんで!」

「リョクといる時が一番楽しそうって言うか……なんだろう。二人でいる時の空気感?」

「そんなことない! ソラが楽しそうなのは演奏が好きだからで、リョクにはミカンさんがいて……リョクは絶対浮気者じゃない!」


 うん、キャロが怒るかなと思って少しからかってみたんだけど。

 けっこう本気でむきになってしまったので深追いは止めておこう。


「おーい。なんか食える物あるー?」


 そこに自警団の一人が入ってきた。確か、イエミさんと呼ばれていた。

 スープがまだ煮えていないと告げると、自分でパンに干し肉を挟んでかぶりつく。


「なんかリョクの悪口が聞こえたみたいなんだが」


 僕達はぎくりとする。


「浮気者とか言ってやるなよ。許婚って言っても親が決めたもんで本人が望んだわけじゃないんだからさあ」

「そうなの?」

「まあ色々事情があんのよ」

「事情ってなに。聞きたい。教えて」


 キャロがイエミさんの服をつかんだ。

 話してくれるまで絶対放さない、という表情だ。


 それをイエミさんもわかったんだろう。 

 逃げ出すのを諦めた。


「絶対他に言うなよ? 俺もリョクに飲ませて無理矢理聞き出した話だから……」


 一口かじったパンを飲み込む。


「なんか昔ここが盗賊団に襲われた時に? ソラが危ない目にあってそれをリョクが助けようとしてさらにそのリョクを庇ったミカンさんっていうのが大怪我したとか、なんとかで。その責任とってリョクがミカンさんを嫁にもらうことになったらしいぞ?」


 そんな経緯だったのか。

 僕も少し驚いたけど、この中で一番事情を知っている筈のキャロの方が衝撃を受けていた。


「そんなの……初めて聞いた」

「ま、あんま言いふらす話じゃねえからな」

「そうですねえ。そういう話ならリョクもソラさんも言いづらいだろうし……」


 ミカンさんという人がもともとリョクが好きだったから。そんな前提があって結ばれた婚約なら、あまりいいように捉えない人もいるだろう。ここにいるキャロなんか特にだ。


「だってミカンさんはずっと病気で寝込んでるって……」

「キャロはお見舞いに行ったことあるの?」


 キャロは首を横に振る。

 それじゃあミカンさんがどういう状況なのかはわからない。


「あー、俺が話したっていうのは絶対内緒な? リョクにもソラにも怒鳴られるわ」


 そう言って素早く残りのパンを口にねじ込んだイエミさんは炊事場を出ていく。

 

 そうか。そういうことがあったから、リョクは自警団を作ったのかもしれないな。

 自分の大切な人達を危険にさらしたり守れなかったり傷つけたり。

 リョク自身もそのことでものすごく傷ついたのかもしれない。

 だから自分が強くなって、絶対に二度目は起こさないって心に決めたのかもしれない。


 しばらくスカートを握りしめていたキャロが、やがて顔を上げた。


「わたし……ちょっとミカンさんと話をしてみようかな」

「ええっ?」

「ほら、だって、いくらリョクが好きだって言っても子供の頃の話かもしれないし。むしろ好きなら責任とって嫁になるとか嫌かもしれないし?」

「え、え、それはつまりリョクとの婚約解消をお願いしにいくってこと⁉」


 あー! こうなるか!

 もう、こういう結果が見えてるから皆さんこの子には隠してたんじゃないかな⁉


 僕は慌てて説得にかかった。


「ね、ねえキャロ。それはきっと関係者さん達が考えて考えて出した結論だと僕は思うんだよね。だから部外者であるキャロが今更混ぜっ返すのは嫌な気持ちになる人が出ちゃうかもれしれないからやめた方がいいんじゃないかな?」

「おーいいねえ。行ってこい行ってこい。こういう色恋ごとで人がごたごたしてるの見るの、楽しいわあ」

「ブライスさん!」


 本気で楽しそうなブライスさんにちょっと引いたよ、僕は。

 その間にキャロはエプロンを外していた。


「今なら村長の家にはミカンさん以外いない筈だから。ケイ達は料理お願いね! 高級食材と村産絶対間違えないでね! 箱に書いてあるから!」

「いや、でも、やっぱりそういうのよくないんじゃ……」


 僕の話は全然聞かずにキャロは飛び出して行った。

 また怒られても知りませんよ。

 僕はしっかり止めたからね!

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