ケイ・取り調べ
一刻後。
先に帰るように言われた僕が不安な気持ちで玄関ホールで待っていると、リョク達が何人かでまとまって戻って来た。
何故かブライスさんを皆で取り囲むようにして。
「お前さんは部屋で待機」
驚く僕は通りすがりのリョクに肩を叩かれてしまう。
仕方ないのでもやもやした気持ちのまま指示に従った。
けど、である。
部屋に入った途端に僕はいきなり中から腕を引っ張られた。
「行くよ!」
キャロだった。
連れられるまま窓から中庭に出て、他の一つの部屋の窓の下に張り付く。
「何これ」
「揉め事があった時に人の話を聞くのはこの部屋なの。すぐに皆来るから静かにしてて」
キャロの言った通り、部屋の中にはすぐにリョク達が入ってきた。
窓は全開なので話は丸聞こえだ。
「ブライスさん。俺はここの自警団の団長として、今からあんたに話を聞く。全部正直に話してもらえると助かる」
ブライスさんが動作で返事をしたのだろう。答えは聞こえない。
「おとといここを出てからさっき俺達が迎えに行くまでの間、あんたが何をしてたか知りたい。教えてもらえるか」
ブライスさんは話し出す。キャロに連れられて商会に行ったこと。仕事が見つからなかったこと。宿に戻って食事をしてから、外出したこと。
「うちの村で夜にやってる店はあんたのいた宿の居酒屋だけなんだが……どこに行った」
「……お嬢さんと逢引き」
「何⁉」
ガタン、と椅子を倒してリョクが立ち上がった音がする。
「冗談です。商会で昔の知り合いにそっくりな奴に会ってな。本人には否定されたが、どうしても確かめたくてもう一度会いに行った」
「そいつの名は?」
ヘイリーだ、とブライスさんが答える。
キャロが小さく息を飲む気配がした。
「会いに行ったっていうのは家にだな? どうやって場所を知った」
「ああ、はいはい。商会で待ち構えてそいつの後を尾行て家を確認してから、宿で腹ごしらえをしたあと改めて訪ねました。でも家にも入れてもらえなかったんです。しばらく粘ったけど答えもなくなったんで、諦めて宿に戻ったんだよ。昨日は一日中村の散策だ。ほんっとここ、何もないのな! 市場冷やかしてまた居酒屋で飲むしかなかったわ」
「なるほど。見かけたって人の話と一致するな」
「それで何。ヘイリーさんが不審者に絡まれたとか脅されたとか訴えてんのか」
「……ヘイリーは、今朝、亡くなった」
またガタン、と椅子の動く音がする。今度はブライスさんだろう。
「なんで……」
しばらくぶつぶつ呟いてから。
「待て、それじゃ俺がヘイリーさんを殺したって疑われてんのか。違う、俺じゃない。話してる内に向こうが少し具合が悪くなったっていうから早々に引き上げたんだ。それきり顔も合わせてない。病気で倒れたとかじゃないのか」
「川に浮かんでるところを村の者が見つけた。事故なのか、誰かに突き落とされたのかはわからん」
「! でも俺じゃないって……!」
ああ。駄目だな。
僕はこういう時の役人のやり方を知ってる。
王都ではしょっちゅうこういういざこざを聞いてた。
皆が納得いく形で疑われる相手が存在してしまったら、それで決まりなんだ。
だって本当は誰がやったかなんて調べようがないんだから。
他の人を安心させる為と今後の見せしめとして、誰かが生贄になってしまうんだ。
まあ役人によっては袖の下が効いたりするしでもリョクはそういう感じじゃなさそうだしそもそも本当にブライスさんがやったのかもしれないし。
気分のよくないものを見ちゃったなあ。
僕は窓に張り付くのをやめてその場に座り込む。
すると。
そんな僕の動きとは正反対に、隣のキャロが窓枠に飛びついた。
「こんなのおかしい!」
「キャロ⁉」
中にいた人達の声が一斉に重なった。
「だって変でしょ、ブライスが犯人だったらどうしておとなしく捕まってるの⁉ 村の人じゃないんだからさっさと逃げればいいだけじゃない!」
「お前は……っ」
こっちに来たリョクがキャロの頭をぐいぐい押さえて遠ざけようとする。
でも僕としてはキャロの言葉に少し同意していた。
そうだよね。事件を知ってたなら犯人でも犯人じゃなくても逃亡一択だよなー。
「ブライス、誓って!」
リョクの手を退けたキャロがさらに身を乗り出した。
「ブライスの一番大切なものに誓ってみせて! 自分はやってないって!」
「……我が兄フランに賭けて誓うよ。俺はヘイリーさんを殺していない」
ブライスさんの声が届いた。
キャロは窓から一歩下がる。
「わかった。ならわたしがブライスの無実を証明してきてあげる」
「キャーロ。馬鹿言ってんじゃない」
「いいリョク、勝手に処罰したら駄目だからね!」
そう言い残してキャロは外に向かって走り出してしまう。
しょーがねえな、と中から誰かの声がする。
さらにブライスさんのため息が届いた。
「あーあ。こんなことになるならおねーちゃんの一人や二人ひっかけて一日中ひっついておくんだったな」
「村の者に手を出したら殴るぞ」
真っすぐすぎるリョクの忠告。
「ともかく、こうなったからにはお前さんを宿に戻す訳にはいかない。とりあえずしばらくはここにいてもらうぞ」
「拷問するなら顔はやめてな」
「するか。痛いのは自分でも他人でも嫌いだ」
「さっきは殴るって言ってたのに……」
ケイ、と名前を呼ばれた。
僕は勢いよく立ち上がる。
「しばらくこいつお前と同じ部屋に置いておくから。どこにも行かないよう見張っててくれ」
「え。人殺しかもしれない人と一緒に暮らすんですか⁉」
「俺はやってないよー……って。お前、おととい会った坊主?」
「……そうですが」
「ハア! 何なんだよこの村嫌んなるな! 俺、顔がいいのだけが取柄なのにこんなのにごろごろされてちゃ自信なくなるわホント! お嬢さんも綺麗だったし! 俺の人生で見かけた美形上位二人がこの場所でって何なの⁉」
何なの、と言われても。
「そんな場所に長居できるんだからよかったな。ああ、念の為に足かせは付けてもらうぞ。走れないが、日常生活には困らんやつだ」
「甘いんだか厳しいんだかわからねーよ」
「ともかくお前さんの処遇は俺の胸先三寸だ。くれぐれも心証をよくしておくように」
リョクがにやりと笑い、ブライスさんはものすごく不満そうな顔をする。
えーと。
いつのまにか巻き込まれた僕ってかわいそう?




