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第8話 古の力

 新緑が眩しく陽の光が肌を刺す。

 夏の足音が聞こえてきた。


 今日はついに俺の誕生日もどき、15歳で成年になった。

 これでやっと、酒も飲めるのかな。


「お母さん、野菜ってこれだけで良かったっけ?」

「えっと…… そうね、魚はこの後届くから、あとは……」 

「あっ、駄目! 畑からキャロッテも取って来る!」

 エリーシャとマーガレットは、朝早くからバタバタと走り回っていた。

 多分俺のために、色々と準備をしてくれていたのだろう。


 前回の誕生日の際も、かなり豪華にお祝いしてくれた。

 どこから手に入れたのか分からないが、この世界では見たことのない肉や魚も、食卓に上がっていた。


 今回は、もっと凄いのだろうか。

 いつもお世話になっているし、そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫なのだが。


 俺は今日もいつもと変わらず、日課の訓練をこなし、リカルドの仕事を手伝った。

 エリーシャにも手伝おうかとお伺いしたが、今日はいいよと断られた。


 残りの時間を読書で過ごし、夜を迎えた。

 俺たちバイエル一家四人は、いつものように食卓を囲む。


「成人おめでとう、ユウヤ。もう酒も飲めるが、どうだ?」

「ありがとう。頂くよ」


 リカルドは嬉しそうに、俺のグラスに酒を注ぐ。

 普段はあまり飲まないエリーシャも、この日は酒のグラスを片手だ。

 マーガレットはまだ酒は飲めないので、柑橘ジュースをエリーシャに注いでもらう。


 リカルドの乾杯の音頭に続いて、おれは酒を一口煽った。


 いける、久しぶりの酒の感覚だ。

 シュワシュワと泡が浮いていて、ビールとよく似ている。

 思わずぐっと飲み進めると、リカルドが追加を注いてくれる。


 やはり予想通り、テーブルの上は御馳走の山だ。

 塊肉に焼き魚にスープ、野菜サラダに少し固めの手作りパン、果物と甘いシロップで作った特製デザート。 

 なんだ? 

 伊勢海老や巻貝に似たようなものまであるぞ。


 この家に住んで少し経ってから気づいたのだが、バイエル家は村の中では、やはりかなり裕福そうだ。

 家屋は他の家の2倍ほどはあるし、自分たちで食べる分を賄える野菜畑もある。

 居間の横の本棚にはびっしり本が並び、俺はそれを読んで勉強ができた。

 エリーシャが作る料理は、質も量も、いつも満足がいくものだ。


 それにしても、やはり今日は破格だ。


「今日の料理、すごく豪華だね。どれも美味そう」

「今日は特別だからね。沢山食べてね」


 酒の酔いも手伝ってか、普段よりも会話が弾む。

 リカルドはいつもよりもペースが速く、顔が紅潮して饒舌だ。

 エリーシャも「久しぶりに酔ったわ~」と漏らしつつ、ご機嫌さんだ。


 マーガレットは、伊勢海老のようなものの食べ方が分からず、皿の上で格闘しながら、

「ねえ、私もちょっとだけ、駄目かしら?」

 と酒を懇願するが、リカルドからNGをくらい、頬を膨らまず。


 俺たちに血の繋がりは無いが、やはり本当の家族だ。

 神のお告げ(?)があったとはいえ、どこの誰とも分からない少年を養子に迎え、何不自由なく育て、その息子の成人を、今こうして心から喜んでくれている。

 本当にありがたい。


 食事は終わったが、リカルドが「飲みなおそう」というので、居間に座って二次会が始まった。


「これ飲むか?」

 リカルドは棚の奥から瓶を持ち出す。

 瓶の形とラベルからして、高級そうなウィスキーといった感じか。

 進められてそのまま一口いくと、口の中と喉が焼けるようだった。


 酔っぱらい同士の掛け合いが続き、少しの沈黙が訪れた時、リカルドが口を開いた。


「ところでユウヤ、お前に話しておくことがあるんだ」

「なに? 父さん」


 リカルドは席を立ち、しばらくそのまま待っていると、手に小さな箱を持って戻ってきた。


「これを指にはめてみてくれないか」


 何だろうと思いながら箱を開けると、鈍く光る金色と銀色の指輪が入っている。

 表面に刻んでいる小さな文字列が、掠れて読めない。

 かなり古いものだろうか。


「ありがとう。これ、誕生日のプレセント?」

「まあそれもあるが、もっと大事なものだ」


 俺は指輪を手に取ると、左手の人差し指と中指に、1つずつはめ込んだ。

 少しサイズは小さめかな。


 すると、2つの指輪はどんどん輝きを増し、目が眩むばかりの白光を放つ。


「うわ、眩しい!」

 目を背けて少しすると、その光は収まり、元の鈍い輝きに戻った。

 リカルドはそれを目にして、「おおっ!」と感嘆の声を上げた。


「父さん、これは?」

「それはな、神聖な魔道具だ。成長の指輪に、創造の指輪だと伝わっている」


 なんだそれ? と理解不能を訴える目を向けていると、リカルドが話を続ける。


「私たちの家は、古の戦士、リテラの末裔だ。その指輪は、リテラの遺物として、代々受け継がれている。リテラの力を受け継ぐものとされているが、この1000年ほどの間、その子孫の中から、継承できる者は現れなかったのだ。それを今、どうやらお前が受け継いだのだろう」

「……え、俺が受け継いだ?」

「受け継ぐ資格の無いものが指にはめても、何も反応しない。長い年月の中で我が祖先は分派しいくつかの家々に分かれた。その中で生まれた者が15歳になった時、指輪をはめることが習わしになっていた。だがただの一人も、その指輪を受け継ぐことはできなかった。以前、分家の子息が実際に試した折にも、何の反応もなかった。だが、今は違うようだ」

 

 俺はまだ何を話してよいか分からず黙っていると、リカルドが話を続ける。


「実は、2年前にリテラ様が夢の中でお話しになったことには、続きがあったのだよ。お前をできれば自分の子として引き取り、リテラ様の力を受け継ぐに値するかどうか、人となりを近くで見定めて欲しい、とな」


 一口酒を煽ってから、リカルドは更に続ける。


「この2年間、わしはお前を本当の息子と思い、身近で様子を見ていた。今、わしも母さんも、お前を息子にできて、本当に良かったと思っている。お前は、見ず知らずのわし等と一緒に暮らし、不平不満も言わず尽くしてくれた。村の人々とも仲良くなった。誰も見ていないところで、勉強や鍛錬も欠かさない。何より、お前が他人を悪くいう姿を見たことがなく、村人の中でもお前を悪くいう者もいない。例え強い力を持ったとしても、恐らく悪いようには使わないだろう。わしは、お前を信じられる。だから今ここで、お前に指輪を託したのだ」


 聞いていて、なるほどと思う部分とそうでない部分が交差しているが、ひとまず状況は理解したつもりだ。


 しかしこの2年間、俺を本当の息子と思ってくれていたことは、やはり本当なのだろう。

 こんなにいい加減で内心不満と煩悩たらたらの俺のことを信じてくれたことには、感謝の言葉が見つからない。


「ありがとう父さん。こんな、どこの馬の骨とも分からない俺を息子にしてくれて。それに、こんな俺のことを信じてくれて、嬉しく思うよ。そんなに褒められたことは、何もしてないけど」

「人間誰しも、そんなに立派じゃない。神様達だって、時に間違いを起こすんだ。古の大乱のようにな。大事なのは、今の自分を受け入れて、自分のため、または人のために、できることを積み上げることだ。ユウヤ、お前はそれができる」


 煩悩がちらほら顔を出すし、この世界とは違う地球では、大した努力もせず平凡にしか生きてこなかった俺が、ここまで褒められて良いのかと恐縮してしまう。

 それもこれも、これからの積み重ね次第ということかな。


「父さん、僕自身は、自分はそんなに褒められた人間とは思ってないんだ。でも、今日の父さんの言葉は、決して忘れないようにする。どこまでのことができるかは、分からないけど……」

「うん、うん」

「ところで、これで何かのスキルでも、受け継いでいるのかな?」

「そうだな、ステータスを見てみたらどうだ?」


 そう言われて、俺は自分の部屋のマジックボードを確認しに戻る。

 立ち上げた画面には、こう表示された。



氏名 ユウヤ・バイエル・サオトメ

 レベル(LV) 4

 最大生命値(HP) 60/60

 魔力値(MP) 30/30

 習得済魔法 なし

 スキル 魔道具創造 成長加速


 直近討伐数 ワイルドラビット18 大トカゲ3 イビルスライム25 血吸コウモリ2 ビッグラット15 ワイルドピジョン4 レッドワーム11


 材料検索

 神様通信

 換金

 ログオフ



 ああ、スキルに魔道具創造 成長加速が追加されているな。

 まだどれ程のものかは分からないが、きっとそれなりのものなのだろう。

 もしかしてこれが、WEBのリテラが話していた加護というやつなのだろうか?


 試しに指輪を抜いてみたらどうなるのか…… 

 何? 

 抜けないじゃないか!? 


 2つの指輪は、ぴったり指にフィットして外れない。

 もし、間違って変な指につけていたりしたら、一体どうなったのかと訝しくも思う。


 それに、今までになかった項目ができているな。

 材料検索、神様通信、換金、ログオフ――  

 よく分からないが、またおいおい調べてみるとしよう。


 今夜は、父さん母さん、妹と、ゆっくり語り合いたい。


 俺の誕生日の宴から一夜明けた。

 朝の光がいつもよりも眩しく感じ、頭が痛い。

 昨夜の酒は、今までの一生の中でもトップクラスに旨かったので、つい飲み過ぎた。

 少し吐き気もする。


 とりあえず顔を洗って水だけ飲んで、部屋に戻る。

 リカルドも似たような感じらしく、今日は仕事を休むそうだ。


 しばしベッドの上でぼーっとしてから、おもむろにマジックボードに手を伸ばす。

 昨夜目にした、新しい項目が気になるのだ。


 表面に表示させて、順番に確認していこう。


 まず材料検索の文字に触れてみた。

 すると、検索エンジンの入力欄のようなものが表示された。

 だが、文字を打ち込むためのキーボードがない。


 もしかしてと思い、魔道具の火玉を頭の中でイメージしてみた。

 すると、入力欄に『火玉:敵に投げると炎の効果』と表示されたではないか。


 頭の中で『Yes』と呟くと、画面に『必要材料:魔石、古樹のかけら』と表示され、しかも完成図らしき絵と性能解説も添えられている。


 そうか、思い描いた魔道具を作るのに必要な、材料が表示されるのか。

 あれ? 

 しかし、いつもリカルドと作っているものと比べて、材料の種類が少ないな。


 それにしても、単なる材料検索だけで終わることはなかろう。

 そうであれば、古からの神聖スキルとしては、かなりチンケだ。


 試しに工房へ行き、魔石と古樹のかけらを持って来る。

 頭の中で「火玉」をイメージすると、完成後の火玉の絵が映し出され、『作成しますか?』との問いが。


 『はい』と答えてみると、あら不思議、2つ材料が眩い光に覆われて、その場所に火玉が出現したではないか。


 なるほど、材料が揃えば、頭で念じだけで魔道具が作れるのか。

 確かにこれは便利そうだ。


 次は神様通信か。

 神様と直接交信でもできるのかな。

 文字に触れてみると、チャットの入力画面のようなものが現れた。


 試しに『神様通信ってなに?』と念じると、言葉通りに表示された。

『送信』と念じると、『送信済み』と表示される。


 しばらく様子を見ていると、1分ほどして返事が返ってきた。


『こんにちは、神様通信へようこそ。私は担当のライラです。この通信は、ユウヤさんからのご質問やご相談を、担当が承るチャットです』


 そういうことか、なら、


『俺はなぜ、この世界に来たのですか?』


 と入力して、送信してみた。すると、


『ごめんなさい、そういう難しい事は、リテラ様しかお答えできません。ご希望でしたら、おつなぎするようお願いしてみますが?』


 なるほど、難しすぎる質問は、責任者に回す訳か。

 よくある会社と同じだな。

 リテラには聞きたいこともあるが、ややこしい気もするので後にしよう。


『魔道具創造、成長加速、材料検索、換金、ログオフについて、教えて下さい』と入力して送信。

 すると、


『魔道具創造:思い描いた魔道具を作るスキルです。必要な材料と、スキル発動のためのMPとHPがあれば、色々と作れます。

成長加速:普通の人と比べて、ステータスの成長が速くなるスキルです。

材料検索:魔道具創造に必要な材料が分かります。それと、その材料を落とす魔物の検索もできます。

換金:この世界のお金を、ユウヤさんが元々おられた世界のお金に換えられます。1クローネあたり10円で、銀行口座に振り込むことができます。

ログオフ:この世界から、元の世界へ帰ることができます。また戻ってくる時は、ご自身のパソコンから、ご登録頂いた時のWEBにアクセス頂き、ログインして下さい。

なおこれらはユウヤさん特有の表示ですので、他の方にはありません』


 理解するのに少し時間がかかったが、簡単にいうとこういうことか。

 材料とMP、HPがあれば、思い描いた魔道具が作れて、人より早く強くなる。

 お金は元の世界に送れることができて、いつでも両方の世界を行き来できる。


『成長加速って、どのくらい早くなるんですか?』


『状況にもよりますが、経験値が100倍程になると考えて下さい』


 ということは、普通の人が1年かかるところが、3,4日になるということか。


 そうだ、ちょっとふざけた質問もしてみるか。


『ライラさんのお顔が見たいです』


 返信あるかな……? 

 と思って待機していると、『こんな顔です!』とのメッセージとともに、ピースしている写真が送られてきた。


 うわっ、超絶美女!


 金色の髪を肩まで垂れて透き通る肌、レースの衣装の胸元がざっくり空いていて、実に艶めかしい。

 耳が長めなので、エルフだろうか。


『お望みでしたら、繋いで直接お話しもできるので、お声がけ下さいね♡』


 是非と言いたいが、ひとまず大体のことは分かったし、下心を気取られると今後がやりにくいな。

 今は頭も痛いし、ひとまず『ありがとう。また何かあったら相談します』と返した。


 何か、いっぱしの転生冒険者みたいな設定になってきたな。

 使いようによっては、それなりの存在になれるのかもなあ。


 この2年間は俺の人となりを見るための猶予期間だったとして、リテラが話していたことは、嘘ではなかったのかも知れないな。

 でもそれならそうと、最初から言ってくれたら良かったんじゃあないのか? 


 いや、ダメか。

 そうなったら、俺が猫を被ったかも知れないことは、否定できない。


(まだ全然実感が湧かないが、少しずつ試してみるか)


 ――翌日、どうやら頭の痛いのは無くなった。


 朝食を取ってから、リカルドのお共で山に入り、午後からは工房で手伝いをした。

 作業を横で見やりながら、(魔道具創造のスキルを使うともっと簡単にできるのでは?)、とも考えたが、ひけらかして父の顔を潰すと申し訳ないかもと思い、やめておいた。


 午後からは、また特訓再開だ。

 筋トレをして、近場の魔物を何匹か討伐。

 いい汗をかいて風呂に入り、父さん母さんと晩酌。


 こんな生活を3日ほど続けてからステータスを確認すると、レベルが4から5に上がっていた。

 前回レベルを上げたときには、散々苦労して数カ月かかったが、今回は3日。

 成長加速のスキルは、どうやら本物のようだ。


 もう1つ新たに気づいたのは、習得済魔法欄に、『フィガ』と追加されていたことだ。

 リカルドに確認すると、手の平から炎を発する魔法のことだという。

 マーガレットがトカゲを倒した、あの魔法だな。


 自然に覚えられることはあまり無いとの事なので、理由として思い当たるのは、魔道具創造のスキルで火玉を作ったことかな。

 作った魔道具の性能が、俺の能力に反映された、とのことではないか。


 今度神様通信で、ライラ姉様に聞いてみよう。


 そういえば、ログオフで元の世界へ帰れるとも言っていたな。

 そちらも気になるが、今はもう少し、この世界に浸っていたい気がする。

 やっとスキルも増えたし、色々と見て回りたい思いもある。


 そのためには、どうしたらいいかな? 


 とか思案していたら、不意にティアの顔が脳裏に浮かび、以前ティアが俺に話していた言葉が頭を過った。


 ―― どんなに強い人でも、どこかに最初があったはずだよね ――


お読み頂きありがとうございます。

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