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第24話 国王の命令

「支度するから、外で待ってて」

「でもティア、これからどうなるかも分からないし、もしかして危ないかも知れないし」

「いいから。着替えたいんだけど」


 半ば強引に部屋から放り出された俺は、廊下でティアを待った。


 少しして中から、旅支度を終えたティアが出て来た。

「お待たせ、じゃあ、行こ?」


 家の前で「じゃあ叔母さん、行ってきます」とティアが元気に挨拶する。

 俺は「ティアのこと、よろしくお願いしますね」と頭を下げる叔母さんに、恐縮しながら深々と礼を返した。


「ユウヤ、まずギルドに行くわよ。ジレットさん達に、しばらく留守にしますって言っとかなきゃ」

「ティア、でも、何で?」

「お姫様守るような機会って、あんまりないでしょ。面白そうだし。それに――」

「それに?」

「水臭いわよ。私昔から、ユウやの危ないとこ、助けてきたんだから」


 確かにそうだ。ティアには色々と助けてもらったし、一緒にいると頑張れる気がしていた。


 でもティア、俺も少しは強くなったのさ。ちなみに今のステータスは、


氏名 ユウヤ・バイエル・サオトメ

 レベル(LV) 21

 最大生命値(HP) 291/291

 魔力値(MP) 171/171

 習得済魔法 フィガ、アイシクル、ボルテラ、

       トリート、プロテクト、マテクト、デポイズ

 スキル 魔道具創造 成長加速、アイテムボック(大)、

     サーチ(大)


 冒険者ギルドの酒場にはジレットがまだ座っていたので、しばらく留守にするかもと伝えた。

「なんでだ?」

「お城に行ってお姫様を助けてくるの」

とティアがさらっと答えたのだが、がはははと一笑に付された。

 まあ普通、こんな話信じないよな。

 ただ何かを察したのか、

「しっかりやってこいよ。なんかあったら、また訪ねて来い」

 と言葉を掛けてくれた。


 ジルの家にティアを連れて行くと、腰に剣をさしたジルは、目を真ん丸くしてぽかんとなった。


「こんにちは、ジルさん。私はティア、ユウヤの幼馴染です。事情を聞いて、私も同行させてもらえたらと思うんですが」

「そりゃまあ、急な話じゃな。ユウヤさんの知り合いなら大歓迎じゃが、本当に良いのかの?」

「はい。今この国大変みたいなので、何かできることがあれば、とも思って」

「ジルさん、ティアは冒険者としては、俺の先輩です。こう見えて、頼りになりますよ」

「あー? こう見えてって、どういうことよ。あんたの方が、見た感じ頼りないわよ」

 確かに、違いない。


「にゃ!」

 今まで俺の懐で大人しくしていたルーシャが声を上げた。 

 そうだ、こいつもいたんだ。

「すみません、俺の飼い猫のルーシャです。一緒に行きたいみたいで」

「よし分かった。では皆で一緒に行くとしようかの。よろしくな、ティアさん、ルーシャ。ではユウヤさん、ミリエーヌ様は、今どこら辺りにおられるかの?」

「あ、ちょっと待って下さいね」


 俺はサーチをかけ、

「やはりこの町の東です。探索範囲ギリギリのところなので、早めに追いかけた方が良いかも知れません」

 と言うと、ティアが目を丸くして固まった。


「ユウヤ、これ、一体なに?」

「サーチのスキルさ。半径10キロヘクトくらいの中で、敵や探したい人の場所が分かるんだ。魔道具を造ったら、スキルも身に着いたんだよ」

「もしかしてこれも、お父さんの影響?」

「まあ、そんなもんかな、はは。そうだ、魔道具の探索は、ティアのアイテムボックスに入れといてよ。何かの役に立つかもだし」

「え、嫌よ、そんな大事そうなもの。もし失くしたらどうするのよ」

「大丈夫だよ、失くしたら、ビア10杯で手を打つよ」


 ティアが困惑しながら探索機をしまいこんでから、俺たちは東の方向へと出発した。


 ミリエーヌのいる場所にはまだ距離がある。

 馬車か何かで移動しているとすると、人の足よりは速いだろう。

 これから俺たちは距離を稼ぐために、休憩は最小限で、暗い道も進むことになる。


 涼しくなったとはいえ原野を速足で歩くと汗が滲むし道は凸凹で足場はそれ程良くない。

 でもティアは文句一つ言わずに淡々と歩いているし、ジルはそれ以上に足取りが軽い。

 本当にいくつなのだ、この老人は?


 日が暮れてからは、周りが見えないので危険が増す。

 だから普通は火を焚いて夜を明かし移動は避けるのだが、今は少しでも先へ進みたい。

 なので、ここは魔法ランプの明かりと探索が頼りとなる。


「ティア、魔道具で周りの敵を探索して」

「ええ、どうやるのよ?」

「敵の魔物を探索したいって、イメージするんだよ」

「わわ、何これ? 地図が浮かんできたんだけど」


 何とか使い方を覚えてもらって、少し歩いて距離を稼いでから、休憩に入る。

 朝も暗い内に起きて、追跡を続けるのだ。


 翌朝、西の空から朝焼けを浴びながら、俺たちは東を目指す。


「大丈夫、ティア? 辛くない?」

「平気よ。楽勝ぴ」


 強行軍のお陰もあって、少しずつ距離が縮まっている。

 魔物の襲撃もちろんあるが、ジルとティアが前衛にいると、ほとんど俺の出番がない。

「なかなか筋がよいのお、ティアさん」

「そうですか? ジルさんも、中々のものですよ」


 この調子でいけば、王都までの道中の中ほどで追いつきそうだ。


 その後も順調に歩みを進める。

 ミリエーヌは途中にあるセバストの町に停留しているようだ。


 夜になる頃にセバストにたどり着くと、俺のサーチのスキルで、ミリエーヌの泊まる宿を探し出した。

 町の中心部に近い。


 宿屋の受付で、ミリエーヌという金髪の女性が泊まっていないか尋ねてみたが、「ゲストのことは、悪いけど教えられないね」と断われた。


 この宿屋の2階の部屋にいることは分かっているが、いきなり尋ねると驚かせるだろうな。

 仕方なく、宿屋のロビーで待機する。

 大勢だと目立つので、ジルとティアには、別の宿屋で休んでもらうことにした。


 夜も更けてきて、そろそろ今日は諦めようかと思いかけた矢先、見覚えのある金色の髪の女性が、階段から降りて来た。


 俺はそっと近づいて、「ミリエーヌ?」と声をかけた。

 彼女ははっとしてこちらに目を向けると、一緒何が起こったか分からない様子で、目をぱちくりさせた。


「……ユウヤ?」

「ただいま参上仕りました、姫様」

「どうして、ここに?」

「痩せても枯れても、臣は姫様の護衛にございます」

「もう。普通に話してよ」

「やっと見つけた。手紙一つで置いてけぼりなんて、ひどいなあ」

「……ごめんなさい」


 宿の中では、周りに人目もあって話しにくいな。


「ミリエーヌ、この町には綺麗な噴水があるんだ。見に行かない?」

「……分かった。上着取ってくる」


 宿から出てほどなくして、女神像に光のイルミネーションが施された噴水広場にたどり着いた。

 もう遅い時間なので、周りに人はいない。

 円形の囲いの上に、二人並んで腰かける。


「ごめんね、遅い時間に」

「ううん、丁度、夜風に当たろうと思ってたから。とっても綺麗ね、ここ」

 

 晩秋の夜風がそよぎ少し寒いが、清涼な水が流れる音の響きが心地いい。

 暗がりの中で淡い光に照らされたミリエーヌは、まるで噴水の女神がこの世界に舞い降りてきたかのようだ。


 風になびく髪を抑えながら、申しわけなさそうに、

「ごめんなさい、急にいなくなったりして」

「何かあったの?」

「実はね……」

 ミリエーヌは目を下に向けながら、

「家を出る何日か前、ユウヤがいない時、ソト卿の使者が見えられたの、火急の要件だって。それで手紙を渡されて」

「どんな手紙?」

「シュバルツ王が、隣国グルセイト王国征討の命令を下した。王国全土の領主も、兵を率いてこれに加わるよう、王命があったと。それと――」

「それと?」

 ミリエーヌは更に俯いて、

「私が王都に帰還して恭順するなら、征討は一時中止する、と」

「何だって!? 恭順って一体?」

「……多分、グルセイトにお嫁に行けってことかな」

 

 頭がうまく回らないが、グルセイトへの輿入れから逃げ出したミリエーヌが戻ってこないのなら、グルセイトに戦争を仕掛けるってことか? 

 何でそんなことになるんだ?


「何だそれ、無茶苦茶じゃないか」

「私もよく分からないの。でも、戻って父を説得するか、元通りグルセイトの王子と結婚すれば、戦争を止められるかも知れないわ」

「国王を説得って、できるの?」

「難しいでしょうね。父は以前の父とは違うから。だから、せめて私が戻って、父の言う通りにすれば――」

「そんなのおかしいでしょ、どう考えても!! 王女とこの国の国民とを、秤にかけてるようなものじゃないか」


 俺はがらにもなく、体中が熱くなっている。

 兵士や民を危険に晒しながら、娘の自由を奪って他国に追いやるなんて、どうかしてる。


「国のために私が、というのは理解できるのよ。でも、こんなやり方で、人々を危険に晒すなんて……」

 ミリエーヌは両手をぐっと膝の上に置いて、肩を震わせる。


「ありがとうユウヤ、私のことを心配してくれて。でも、元々私の都合でユウヤを巻き込んだの。だからこれ以上は、私に関わらないで」

「水臭いなあ、ミリエーヌ。別に俺は、巻き込まれたからここにいるんじゃないぞ。自分でそうしたいと思ったから、ここにいるんだ。それに、ジルさんや、俺の幼馴染も来てくれている。何ができるか、何をすべきか、一緒に考えよう」

「でも……」

「俺と一緒だと安心できるって言ってくれたの、誰だっけ?」


 ミリエーヌは俺の方を向いて、大粒の涙をポロポロと流す。


「ありがとう。……ちょっと疲れた。暫くこうしてていい?」

 俺に寄りかかって体を預けると、スースーと寝息を立て始めた。

 きっと、今まで一人で、張り詰めていたのだろう。


 話がひとまず終わってから、俺の懐からルーシャが、「にゃ~ん」と顔を出した。

 もしかしてお前、空気呼んで、いままでじっとしてたのか?


 その後、俺はミリエーヌを宿に送り届けると、遅い時間に自分の宿に帰った。


 ―― 翌朝、俺たちはミリエーヌの宿の前に集合した。

 ミリエーヌが乗る馬車に随行して、王都まで向かう。


 ミリエーヌとティアは初対面だ。

 お互いに簡単な自己紹介を交わす。


「本当にありがとうございます、ティアさん。ユウヤの幼馴染なんですってね」

「はい、まあ、そうです。ミリエーヌさんは、このところずっと、ユウヤと一緒なんですね」

「そうですね。昨夜は噴水を見に行ったんです。綺麗でしたね、ユウヤ」

「噴水?」

 

 嗚呼、ミリエーヌさん、できたらそれは、黙っていて欲しかった。

 ティアとも見に行った場所なんだが、他に思いつかなかった。


 この後、普通に口利いてくれるといいなあ。

 


お読み頂きありがとうございます。

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