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第14話 王都へ

 アイテムボックス作りに興じた翌日、俺は冒険者ギルドへ向かった。


 先のクエストで頼りになった魔法玉が不足してきたで、その補充がしたい。

 それに、魔道具を創作すると、魔法やスキルも増えるので便利だ。

 今後のためにも、少し力を蓄えようと思う。


 ギルドの建物に入ると、ジレットやルネ、そしてティアの姿があった。

 ティアが俺を見つけて駆け寄ってくる。


「おはよう、ユウヤ。昨日は休めた?」

「うん。ティアは、今日も元気だね」

「ええ、昨日は叔母さんと美味しいもの巡りしたの。レストランで食べたグリーンカウのステーキ、めちゃくちゃ美味しかったのよ。 あとね、カフェで食べたフルーツタルトが、絶品だったの!」

「へえ、良かったね。今日もクエスト?」

「まあ、そうね。でも、出発は明日なのよ」


 俺はティアに促されて、ジレット達と合流した。


「おはようございます、ジレットさん」

「よう、おはよう、色男君。クエストの疲れはないかい?」

「色男君って、何ですか。別に疲れてはいないです」

「そうか、だったら、次はこんな依頼興味はないか?」


 ジレットは、掲示板から剥がした、クエストの依頼書を見せた。


『シュバルツ王立学院への輸送隊の護衛募集。日当報酬あり。クエストレベルD』


「王都ファルバートにある学校で使う教材の緊急輸送だそうだ。急なもんでいつもの護衛が間に合わず、急募なんだとさ。王都まで往復となるとそれなりの日数にはなるが、日当もでるし、この前みたいに知らねえ魔物に合うことも、多分ないだろうよ」

「はあ、でも、俺でいいんですか?」

「ああ、そんなに危ないとは思ってないが、イワンとバーナントが別のクエストに行ってていないんだ。お前の魔法があると心強いんだがな」

「うん、いいと思うよ、ユウヤ」

 ティアが横から割って入る。


 どうせ予定も決まってないし、断る理由もないかな。

 この国の王都がどんなところなのかも、興味がある。


「分かりました、お願いします」

「よし、決まりだ」


 冒険者ギルドのカウンターでクエストの受付を済ませると、翌日朝集合の約束をして、今日は解散になった。

 少し長旅になるので、これからその準備も必要になる。


 俺の家とティアの家は、ギルドを挟んで反対側のようで、ここでさよならだ。


 なのだが、別れ際に俺は、ティアを呼び止めた。

「ティア、ちょっといいかな」

「もちろん、なに?」

「渡したいものがあるんだ」


 俺は、昨日作ったアイテムボックスを、ティアに差し出した。


「ありがとう、ハンドバッグ?」

「いや、アイテムボックスなんだ」


 しばらくの沈黙の後、「ええ~!?」と絶叫が響き、往来の注目を集めてしまった。


「しっ! 声が大きいよ」

「あ、ごめん、でも、本当? 何で?」

「村の家にあったのをもらったんだ。2つあるから、1つあげる」

 自分で作ったというのは憚られる気がしたので、とりあえず嘘をついた。


「え、でも、そんな貴重なもの、申し訳ないよ」

「大丈夫だよ、2つあるって言ったろ。使ってなかったから、拝借したんだ」

 ティアを安心させるため、似合わない造り笑いをしてみる。


「良かったら、試してみて。こっそりね」

「うん……」


 バッグ状のアイテムボックスを開けると、空中に画面が浮かび、またティアをビックリさせる。


「ええ、これって…?」

「収納したアイテムが表示されるんだよ。何か入れてみる?」


 ティアが、背中に背負っていたリュックの中から取り出した大き目の携帯食料の塊を近づけると、それらはスッと吸い込まれて、


『ストック:ワイルドカウの干し肉3、固めのパン5、乾燥キャベリッシュ5 穀物袋1 残容量:79.991万立方ヘクト』と表示された。


「本当にアイテムボックスなのね、これ。しかも容量70万ってどのくらい? 普通はせいぜい、荷馬車分くらいのものだって聞くけど」

「気に入ってくれた?」

「気に入るもなにも、凄いよ、これ。でっかい倉庫を何個も持ち歩いてるようなものよ」

「ははっ、そうだね。倒した魔物なんかも、これで運ぶと便利かもね」


 ティアはまだ半信半疑の様子で、どうしてよいのかオロオロしている。


「これで、色んな場所へ旅しやすくなるでしょ。でも結構レアものなんだったら、あまり人には話さない方がいいのかもね」

「そうね、うん」

「ティアの夢を叶えるのにも、役立つと思うよ?」

「分かった。ありがとう、大事にするね」

 まだ少し迷いながらも、ティアはいつもの柔らかい笑顔を向けてくれた。


 やっぱり可愛いし癒されるなー。

 こちらこそ、ありがとう。


 ティアと別れてから、俺は冒険者ギルドに戻り、有り金を叩いて魔法玉の材料を買いあさった。

 氷と雷と回復の玉。

 これを作ると、氷と雷と、回復の魔法も使えるようになるはずだ。


 俺は家に帰ると、黒猫を抱き上げて喋りかけた。


「なあ、猫君。俺は王都に行くので、暫く留守にする。その間、お前は大丈夫か?」

「にゃん!!」

 と、即座に返事が返ってきた。

 本当に話が通じているのかどうかは全くの不明だが、まあ、長年この家で過ごしてきたのだし、大丈夫だろう。

 念のため、外に出られるように、窓を少し開けておこう。


 その後、買ってきた材料で魔法玉を創造すると、思った通りステータス画面に『アイシクル』『ボルテラ』『トリート』の呪文が追加されていた。

 これで皆の助けになればいいなと思いながら、床についた。


 翌朝早朝、俺は冒険者ギルドへ向かった。


 冒険者ギルドの朝はやはり早い。

 到着すると、既に少なくない数の冒険者達で賑わっている。

 その中に、ジレットもいた。


「おはようさん、ユウヤ。おや、結構荷物軽めだな」

「おはようございます。はい、まあ、何とかなります」


 俺は剣と魔法玉以外をアイテムボックスに入れているので、結構軽装に見えたのだろう。

 少し遅れて来たティアも同じような突っ込みをされて、笑って胡麻化していた。


 今回のパーティは、ジレット、ルネ、ティア、俺の4人。

 全員揃って外へ出ると、3台の荷馬車が、既に待機していた。


 荷馬車を率いる隊長の「しゅっぱあーつ!」の号令と共に、俺たちの王都への旅は始まった。


 王都ファルバートはセリアの町の南東、片道でほぼ10日ほどの道のりだそうだ。


 その王都にあるシュバルツ王立学院は、各町にある道場や寺子屋のような学び舎とは比較にならない大きさで、この王国で最大最上位の学府とのことだ。

 剣や弓、体術といった戦闘術、聖魔法や闇魔法などの戦い系以外にも、商業、工業、文学、歴史とか、学べる分野が幅広い。

 魔法や工学の中には、様々な素材を使った教育もあるそうで、そのための材料が急遽不足したというのが、今回のクエスト依頼の趣旨だ。


 俺たちは3台の荷馬車隊に便乗して移動し、魔物の襲撃があれば外へでて蹴散らすのが、主な任務になる。

 先頭の荷馬車にはジレット、2台目にルネとティア、最後尾に俺が乗る布陣だ。



 今日は少し曇り空だ。もうじき真夏は通り過ぎて、残暑の季節になる。

 陽が陰ると少しだけ涼しく感じる。

 遠くに見える山々の稜線は、今日も天地を分けてなだらかに横たわる。

 荷馬車がゴトゴトと少し揺れるのが心地よい。


 順調に歩を進めているなと思った矢先、先頭の方から「敵襲!」との声が響いた。

 急いて外に飛び出すと、前方にいくつか魔物の姿が見えた。

 スライムにウサギにねずみ、この俺でも見慣れた連中だ。

 ジレットが何なく一蹴する。

 でも、あまり戦ったことのない人たちからすると、これでも怖いのだろうな、昔の俺みたいに。


 戦いの後、俺はジレットの元に駆け寄り、倒れた魔物を指さして「これ持っていきますか?」と聞いてみた。

「そりゃ、持って行ければ売り物にもなるかもな。でも、この荷馬車に積み込む訳にもいかねえし」

「多分大丈夫と思いますよ」

 

 俺がアイテムボックスにポイポイ放り込む姿を目にして、ジレットとルネが唖然とした。

「ユウヤ、これまさか…」

「はい、アイテムボックスです。父の家から拝借したもので、結構入りますよ」

「ええっ。あなた、まさかそんな……」


 自分でも持っているティアは、その光景に苦笑いをしている。


 再び出発してからも、何度か魔物の群れの襲撃を受けたが、ジレットとルネだけで難なく撃退していく。

 そのたびに俺は、倒された魔物やアイテムとかを、アイテムボックスへ収容していく。

自分が出る幕がほとんどないので、物足りないほどだ。


 そんなこんなで太陽が真上に昇り、一行は昼休憩に入った。


 この旅程での食料は、雇い主である商隊から提供される。

 今日の昼食は、干し肉を挟んだサンドウィッチと、野菜と鳥肉のスープだ。


 草の上に腰を下ろして、パーティみんなで食べる。


「それにしてもユウヤ、便利なもの持ってるなあ。冒険者として、羨ましいぞ」

「すみません、父から受け継いだ受け売りで」

「よし、片っ端から持って帰って、金に換えよう。その分、俺っちは魔物を狩るからよ」


 話を聞きながら、ティアがおずおずと手を挙げた。

「ごめんなさい。私も持ってるの。ユウヤから貰ったんだ」

「な、なにを~!?」

「はは、あんたたち、本当に仲がいいんだね」

 ルネが半ば呆れた表情で笑い掛ける。


 そんなにすごいアイテムとは思わなかったが、多分この人達は、それを知ったからといって、何かが変わったりはしないだろう。

 そんな安心感が、このパーティにはあるのだ。


 そんな中、ジレットが少し落ち着きを取り戻し、

「だがまあ、こっから先は、お前たちにも出張ってもらわなきゃな。魔物も強くなる」

「そうなんですか?」

「ああ、セリアの町と王都の間は、原野や森が広がっている。自然が多いとその分、危険も増してくるんだよ」


 4人で寛いでいると、荷馬車隊の隊長が近づいてきて、「そろそろ出発です」と告げた。

 荷馬車隊は再び、王都に向かって動き出した。




お読み頂きありがとうございます。

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