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第10話 クエストをこつこつ

 冒険者ギルドの受付カウンターに向かうと、小柄で黒髪の女性が一人立っていたので、「ここだっ」と決め打ちで話し掛けた。


「あのー、すいません。クエストを受けたいんですけど」

「はい、ありがとうございます。依頼書と、ステータスを見せて頂けますか? あ……」


 その女性は俺の顔を見て、

「あの、もしかして、少し前に冒険者登録をされた方ですね?」

「あ、はい。確か半年とちょっと前に」

「あれからお顔を見なかったので、どうしてるかなーって、思ってたんですよ」


 よく見るとこの人、冒険者登録をした時に対応してくれた方ではないか。


「そうですか。ありがとうございます。でも、よく覚えててくれましたね」

「お名前の響きが独特だったので、頭に残っちゃったんですかね。確か、ユウヤさん?」

「はい、そうです」


 そうなのか。

 確かに、ユウヤ・バイエル・サオトメって、あまり聞かない名前の響きかも知れない。


 俺はマジックボードを立ちあげて、ステータスをその女性に見せた。

 女性は依頼書とステータスを確認してから、少し困った顔をした。


「うーん、レベル7でFランククエストか、ちょっと厳しいかも知れませんね」

「え、そうなんですか?」

「ええ。Fランクですと、通常はレベル10以上、しかも何人かのパーティを組んでおられる方々向けになるんです」


 ほう、そうなのか。

 そのあたりの予備知識は全く無いが、レベルが上がって仲間を見つけてからだと、いつになるのか分からないな。


「そうなんですね。でも俺は、魔道具職人の父に連れられて、材料探しで野山を走り回っていました。だから、このクエストは向いていると思うんですよ」

「そうは言われましても、森の中とかで探し物をしていると、不意に魔物とかに襲われて怪我をされる方とかもおられますし……」


 女性はそう言いながら逡巡してから、不意に顔を上げて、

「ユウヤさん、もしかして、魔法使えるんですか?」

 と確認してきた。

 取得済み魔法欄に記述があることに、気づいたようだ。


「はい。1つだけですけど」

「1つでも、有るのと無いのとでは、全然違いますよ。どこかで習われたのですか?」

「え、いやまあ、父に少し……」

「それに、このスキルは何なんですか? 魔道具創造に成長加速って、見たことがありません。それに、神様通信って、一体?」


 やっぱり、そこ気になりますよねー。

 スキルは、俺自身まだよく分ってないんですけども。

 ひとまず、胡麻化しておくか。


「これも父から教えてもらったもので、どう使いこなすかはこれからなんです。だから、色んなクエストを受けたいんです。魔法も少し使えますし、魔道具で火や氷を使って攻撃もできます」

「そうですか……、分かりました。ではこのクエストは、ユウヤさんにお願いします」


 それから女性は、薬草の特徴と、近くの森によく這えているが、森は敵も強めだと教えてくれた。


「ありがとうございます。行ってきます」

「お気をつけて。私はラモーネといいます。またお気軽にお声掛け下さいね!」


 ラモーネさんか。

 地球の俺よりは年下っぽいな。

 結構巨乳で白シャツ、黒パンのワーキングスタイルってそそられる。

 今度も是非、話し掛けたいものだ。


 冒険者ギルドから出て北に向かってしばらく歩くと、町の端に行く着く。

 そこから外を歩き続けると、風光明媚な草原の向こうに、黒黒とした森が広がっているのが見えた。


 初クエストを1人は不安はあるが、何か理由のない自信と高揚感が背中を押している。

 なにせ俺は古の力の承継者なのだ。

 そうだろう、リテラよ?


 森に入ってから注意深く見回す。

 色んな草花が鬱蒼としているが、そこからお目当ての薬草を探し出すのだ。

 指定された量は葉っぱ20枚以上、何とか今日中に見つけたい。


 だが、思ったより楽ではないことに、すぐ気づいた。

草木を掻き分けて、似たようなものの中からより分けるのは、意外と難しい。


 目の前の捜索に気を取られていると、後ろの方で何やらガサゴソと音がする。

 振り返ると、いつぞやお目にかかったジャイアントスネークがそこにいた。


 飛びかかってくるのを剣の横なぐりでいなしてから、フィガの呪文をぶつけて火だるまにしてやった。

 以前よりは強くなっているのか、敵の動きも見え易かった気がする。


 その後も、大きな虫の魔物に遭遇したが、どうにか切り抜けながら、1枚1枚薬草を集めていった。


「あと半分か」と一息ついていると、不意に何かに見られている気配を感じる。

 身構えて待っていると、目の前から大きな猪のような魔物が現れた。

 体調2mくらいか、まともに直撃されると、大怪我ではすまないな。


 と思った刹那、大猪が真っすぐ突っ込んでくる。

 とりま闇雲にフィガの呪文を唱えたが、それをくらった大猪は、火だるまになりながらも、勢いを緩めない。


 何とか身を躱すと、大猪は後ろの木にぶつかって、一時動きが止まった。

 俺は懐から火玉を取り出すと、大猪目掛けて投げつけた。


 ボン!っという破裂音とともに火柱が上がり大猪を包む。 大猪は鳴き声を上げながらしばらくもがいたが、じきに動かなくなった。


「はあー、何とかなった。しかし、魔法と魔道具がなかったら、やばかったな」

 と、一人で無事を喜ぶ。


 その後も小物の魔物をやっつけながら、何とか目標の薬草20枚をゲットできた。


 冒険者ギルドに戻った頃には、もう夕方になっていた。

 クエストから戻った冒険者達だろうか、カウンター前やテーブルで、その日の武勇伝らしきものをお互い声高に語り合っている。

 既に酒が入って、出来上がっている者もいるようだ。

 ただ、

「西の原っぱで、一人くたばっているのを見つけたよ。運がなかったな」

 といった会話も耳に入る。

 やはり、シビアな面もある業界なのだ。


 カウンターにラモーネの姿を見つけて、今日の報告のために近づいた。

 彼女は俺を見つけると、仕事の顔から歓喜と安堵の入り混じった笑顔に変わった。


「ユウヤさん、お帰りなさい。ご無事だったんですね」

「はい、なんとか帰って来ました」

「どうでしたか、初クエストは?」

「結構ヒヤヒヤものでしたよ。猪って、火に包まれても突進してくるんですね」

「大猪ですか? はい、結構丈夫で、たまに襲われて大怪我する方もいて……」


 そんな会話をしていると、すぐ傍の筋肉劉流の男達が、

「何だあ、ラモーネ。この小僧、知り合いか? たまには俺らにも、そんな顔見せてくれよ」

「何言ってんのよ。あなた達はもう長いんだから、そんな必要ないでしょ。この子は今日、一人で初めてクエストに挑んだのよ」

「えー、俺らがもっと弱かった頃でも、そんな緩い言葉、もらったことがなかったよなあ」


 男達は、「ちぇっ!」と舌打ちして、酒場の方に歩いていった。


「あのお、薬草取ってきました。それと、拾ったアイテムと、討伐分の換金を」

「分かりました。マジックボードをお借りしますね、少々お待ちを」


 今日の戦利品とマジックボードをラモーネに渡し、しばし待った。

 他のカウンターでも、ギルド担当者と冒険者とが、何やら喧々諤々やっている。


 ラモーネがニコニコしながら戻ってくる。


「お待たせしました。今までの討伐分と、クエスト報酬、大猪の牙他のアイテム買い取り分を含めて、16600クローネになります」


 内訳はよく分からないが、昨日買い物した分を取り戻せるほどの額だ。

 倒した大猪の肉とかも持って帰れたらそれも売れたのだろうが、重すぎて一人では無理だった。


 ラモーネにお礼を言ってから、冒険者ギルドを後にする。


 あまり無駄遣いはできないが、今日は黒猫へのお土産と、酒くらいは買って帰れそうだ。

 明日もこんな感じで、うまくいくといいな。


 ―― 翌日からも俺はギルドへ赴いて、無難にできそうなクエストを探した。


 朝はやはり早い物勝ちらしく、募集の掲示板の前には多くの冒険者たちが集う。

 何人かのグループで話し合っているのがほとんどだ。

 やはり、仲間同士で動く方が何かと便利だし、色んなクエストをこなせるのだろうな。


 レストランの食材探しの手伝い、迷い犬の捜索、町周辺の魔物駆除 ―― 毎日1つづつこなしていった。


 クエストと朝夕のラモーネさんとの楽しい雑談の日々を送っているうちに、レベルが1つ上がって8になった。


 今朝も同じように冒険者ギルドへと向かう。

 どうにかこうにかやっているが、ずっとこんな調子という訳にもいかないよなー、どうしようか。

 とか考えながらギルドの入り口の前まで来た時、


「あれ? もしかして、ユウヤ?」

 と、声がした。


 聞き覚えのある、懐かしい声だ。


お読み頂きありがとうございます。

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