栗山寧音(3)
翌日の朝はいつもより早く目覚まし時計をセットした。そして、久しぶりにクローゼットから制服を引っ張り出して身につけた。リビングに行くとその姿を見てママが驚いていたけど、
「いってらっしゃい。」
と何も聞かず、私の背中を優しく押してくれた。
そして、学校に着いて教室に入る時、物凄く緊張した。しかし、勇気を出してドアを開けると、既に学校に来ていた太陽が、
「寧音、おはよう。」
と私にいち早く気付いて声をかけてくれた。太陽は友達と話していたのに私の元に来て、私の席を教えてくれた。そして私達が周りの目線を気にせず親しげに話していると、
「太陽ー!逃げるな。昨日何で休んだのか言いなさい!」
と近づく来る人がいた。太陽は無視して、
「寧音、今日の放課後空いてる?」
と私に話を続けた。すると、
「ねね?あー!もしかして栗山寧音さん?」
と太陽の友達は私の顔をじっと見て言った。私が、
「はい…。」
と答えると、
「やっぱり!あっ、俺は同じクラスの柏木瑠偉。瑠偉って呼んで!それよりいつから二人仲良いの?」
と瑠偉は私達の顔を交互に見て聞いた。私がどう答えようか迷っていると、
「寧音ごめんね。瑠偉、うるさいよね。無視して良いから。」
と言った。瑠偉は、
「太陽くん、なんてこと言うの。」
と太陽の耳元で叫んでいた。
「だから、うるさい。」
と再び反抗する太陽の姿を見て、思わず笑ってしまった。
「良かった。寧音、笑ってくれた。俺達の親友パワーって、やっぱり凄いな!」
と瑠偉が言うと、
「何きもいこと言ってるの?」
と後ろから声がした。後ろを振り向くと制服をちゃんと着ていない、派手な上着に派手な髪型の人がいた。
「渚ー!空気を悪くするなよ。」
と瑠偉が言った。太陽は、
「渚、この子と仲良くしてね。寧音、自己紹介して。」
と私に言った。私は、
「あっ、栗山寧音です。よろしくお願いします。」
と挨拶すると、
「おー!女の子じゃん。しかも可愛いー。私、久しぶりに女の子と話せた!私は瀬尾渚。渚で良いよー!よろしく。」
と言った。瑠偉は、
「寧音、此奴は見た目は派手で口も悪いけど良いやつだから。」
と言った。渚は、
「お前、一言も二言も余計だわ。」
と瑠偉を睨んだ。しかし、私の視線にすぐに気づいた渚は、
「あー。寧音、本当に可愛い。」
と私を褒めまくった。
こうしている間に、私の担任の先生が、
「おはよう。」
と教室に入って来た。そして、私に気付いて、
「栗山さん、よく来たな。先生、顔見れて嬉しいぞー!」
と言った。
「浅木!お前昨日休んだよな。先生に言うことあるだろう。今から話そうか?あっ!瀬尾もその身だしなみについて詳しく聞かせてもらおうか。」
と呼んだ後、
「学級委員!先生、ちょっと職員室に行くから静かにするように頼んだぞ!」
と言って瑠偉が、
「わかりました。」
と返事をした。私は瑠偉が返事をしたことに驚いて、
「瑠偉って、もしかして学級委員長なの?凄いね。」
と言った。瑠偉は、
「そうだよ。ありがとう。それより先生、随分と怒ってたねー。怖かった。まぁ、学校サボる奴と、校則守らない奴が悪いんだけどね…。」
と言って私の前を去った。
そしてクラスの皆に向けて、
「もうすぐチャイムが鳴るので、席に着いて下さい。」
と呼びかけて、
「先生が職員室に行って暫く戻りそうにないので、今から少しだけテレビ見ようか!」
と言うと皆、
「賛成!」
と声を揃えた。そして、隠していたDVDを出すとセットして流し始めた。私達は朝のホームルームの十五分だけそれを見た。そして、
「また見ようね!」
と言って元の隠し場所に戻した。瑠偉もなかなかの悪だった。
二人は一時間目が始まる前には戻って来た。二人共、随分怒られたのかまだ朝なのに、
「疲れた。」
を連呼していた。
私は一時間目が終わった休み時間、こっそり太陽に、
「ごめんね。私も悪いのに。」
と伝えた。太陽は、
「何言ってるの?昨日は僕の我儘で付き合ってもらったんだから気にしないで。それより、さっき瑠偉に邪魔されて言えなかったんだけど、今日さ、母さんに誕生日プレゼント渡すの一緒にしない?」
と私が気にしないように話題を変えてくれた。私が、
「家族だけでお祝いした方が良くない?」
と聞くと、
「寧音も選んでくれたんだから、僕の母さんが喜ぶ姿を見る権利はあるよ。それに僕の家、母さんとお婆ちゃんの三人暮らしだから。お祝いごとは人が少しでも多い方が嬉しいでしょう?」
と言った。私は、
「うん。行く。ありがとう。」
と伝えて、
「太陽って、もしかして母子家庭?私もそうなんだ。パパが昔、病気で亡くなったから。」
と余り喋ってこなかった過去の話をした。
「だから、太陽の気持ちわかる。お祝いごとは大勢でしたいよね。」
と言うと今度は、
「寧音は優しいな。ありがとう。」
と太陽に何故かお礼を言われて、頭を撫でられた。
それから、放課後まで瑠偉や渚といろんな話をした。どうやら二人共、理由は違うけど私と同じように太陽の笑顔に助けてもらったことがあるようだ。太陽は恥ずかしがってその話をすることを嫌がっていた。だから、私も太陽に助けられた話を太陽がトイレに行っていない時にこっそりした。すると、
「あいつ、ずるいな。寧音と昨日デートしたなんて。私も行きたかった。」
と渚が子供みたいに駄々をこねた。瑠偉も、
「昨日、太陽の味方をして、先生に嘘吐くのも太陽のお母さんに言い訳するのも大変だったのに。」
と愚痴を溢した。私も流石に、
「瑠偉、ごめんね。」
と謝った。瑠偉は、
「気にしないで。寧音は悪くない。」
と言った。
そして迎えた放課後。私と太陽が二人で太陽の家に行こうとすると、瑠偉と渚が、
「ちょっと待ったー!」
と追いかけて来た。
「二人で何処に行く気?俺らも混ぜてよ。」
とニヤニヤしながら。太陽は、
「仕方ないな。でも僕の家に帰るだけだよ。お前らこそ、部活に行けよ。」
と言って四人で太陽の家に向かった。無事に太陽の家に着いた私達に太陽は、
「じゃあ解散!」
と言った。しかし二人は、
「おじゃまします。」
と言って太陽の家に上がった。太陽は、
「おい!」
と大声で叫んだ。その様子を見て思わず笑ってしまった。
太陽は、
「うるさくなって、ごめんね。」
と言って私を家の中に入れてくれた。
「おじゃまします。」
と家に入ると家の奥の方から楽しげな話し声が聞こえた。私達が声のする方に行くとベッドに寝ているお婆さんがいた。そのお婆さんに、
「こんにちは。おじゃましています。」
と挨拶をすると、
「畏まらなくて良いから。ゆっくりしてね。」
と声を掛けて頂いた。私は会釈をして、瑠偉と渚が座っている近くに座った。瑠偉は、
「あー!太陽。今日、叔母さんの誕生日何だって?お婆ちゃんから聞いたよ!何で言わなかったんだよ。」
と言って、渚も、
「パーティーだ!」
とはしゃいだ。
こうして私達は、料理や部屋の飾り付けをしてお母さんの帰りを待った。もちろん、私は昨日の前科があるのでママには遅くなる連絡を入れた。
太陽のお母さんは、午後六時半頃に帰って来た。いつもと違う部屋の様子に一瞬、驚いていたが、
「凄い!嬉しい!」
と部屋を見渡していた。私は初めてお家にお邪魔したので、お母さんにご挨拶をさせて頂いた。そして、太陽と昨日買ったプレゼントを渡すと、
「今までで一番、センスが良い!」
と言ってその日中、被っていた。その後、私達が作った料理を見ると、
「美味しそう!」
と目を輝かせて喜んでくれた。私達が皆で料理を食べていたら、
「寧音ちゃんだっけ?うちの泣き虫で下ばかり向いてる太陽といつから仲良くなったの?」
と質問されて、昨日のことをお母さんが何処まで知っているのかわからないため、なんて答えるべきか悩んでいると、
「最近仲良くなった。あと、泣き虫だったのも下を向いてたのも昔のことで今は違うから。」
と言った。瑠偉は、
「太陽って泣き虫だったんだ。意外だな。」
と揶揄った。渚も馬鹿にするように笑った。私は、太陽が私に、
"泣き虫だ。"
とか、
"下を向くな。"
と言ったことを思い出した。こういう私の癖に気付いて、昔の太陽と似ているって言ったのかな?私は、太陽の言葉の意図が少しだけわかって嬉しかった。全部、私が強くなれるように掛けてくれたものだと知れたから。太陽の不器用だけど一生懸命に私と向き合ってくれる所がますます好きになった。
私がぼんやりと太陽を見つめていたら、太陽のお母さんが、
「私は、寧音ちゃんと話したいの!太陽は答えないで。」
と拗ねたように言って、
「寧音ちゃんの髪サラサラだね。何処の美容院に行っているの?」
と聞いた。私は可愛いらしい太陽のお母さんに、
「私の母が美容師なんです。」
と答えて私の家の近くにある目印になりそうなものを言った。太陽は、
「そうなの。」
と驚いた顔をしている。今まで私の家に来てくれていたのに気付いていなかったことがおかしくて、私は声を出して笑ってしまった。太陽は何故、私が笑ったのかわからないようでキョトンとしている。他の皆は、
「今度から、そこに通う!」
と嬉しいことを言ってくれた。
それから一時間程、居座った私達は、太陽のお母さんが家まで車で送ってくれることになった。別れ際、お母さんにお礼を伝えると、
「また来てね。」
と優しい言葉を掛けて下さった。
こうして、人生で一番、刺激的だった三日間が終わった。
そして後日、太陽のお母さんと三人は本当にウチの美容院の常連さんになった。太陽はウチに通い始めたタイミングで急に背が伸びて声変わりをした。そして、私のママの腕前で髪もおしゃれになったためモテ始めた。そのため太陽に悪い虫がつかないように、太陽と同じサッカー部のマネージャーになった。それから、太陽に近づこうとする女子達を睨みまくった。その私の努力の成果なのか、今では太陽を重要文化財のように遠目に眺める人ばかりだ。誰も私達、四人の間に入れない。そう思っていた。
なのに、高校生になって太陽の方から近付いた女子がいた。瑠偉が太陽は恋をしたと言った日、私の気持ちを全て知っている渚が探りを入れると言った。そして、渚が見つけてくれた女子が、深海美月。彼女は何者なのか?私と渚で改めて口が軽い瑠偉に聞くと彼はすぐに吐いた。どうやら、彼女は悔しいけど太陽の初恋の人のようだ。太陽はずっと深海さんを目で追っている。いつも笑顔の太陽が毎回、悲しそうな顔をして追っている。私は胸が痛かった。そんな顔の太陽は見たくない。だから私は、
「そんな寂しそうな顔しないでよ。私ならそんな顔させない。」
と言う言葉が思わず出た。でもそのことをすぐに後悔した。目の前の太陽は困った顔をしていたから。だから友達に戻れるように、
「笑ってよ。冗談だよ。ほら、戻らないと先輩に怒られるよ。」
と言う言葉を絞り出した。
"太陽に嫌われたくない。もう一人ぼっちになりたくない。ずるくても、自分の気持ちから逃げてでも側にいたい。"
と叫ぶ自分の心と、
"でも、やっぱり片思いは辛いよ。"
と叫ぶ心があった。中途半端な私はどうすれば良いのだろう?どの道を選んでも私にとってのハッピーエンドは来ない気がして、
"この物語りの主人公になりたかったな。"
なんて思ってしまう。
"ねぇ、太陽私の気持ちに気付いてよ。あの時、私を助けてくれた時みたいに。"