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栗山寧音(2)

 こうして私達はショッピングモールのある駅にいた。太陽は電車から降りると、


「お腹空かない?」


と私に質問した。時刻は午後十二時十五分。お昼を食べるには丁度良い時間だ。私が、


「空いた。」


と答えると、嬉しそうな顔をした太陽は、


「おすすめの店があるんだけど、ハンバーガー好き?」


と私に聞いた。私が頷くと、


「やったー!」


と言って私を店まで案内した。

 店に入るとおしゃれな雰囲気で中学生には似合わない店内だった。私はチェーン店のハンバーガーショップにしか行ったことがなかったため驚いた。太陽は私の様子に気づいたのか、定員さんが席を案内してくれてる際に、


「大丈夫。値段はそんなに高くないから。」


と小声で言って私の頭を撫でた。矢張り、距離感が狂っている、太陽の顔は小さな子供を宥めるように優しかった。しかし、私は馬鹿にされたようで悔しかった。そんな私とは裏腹に早々に席に着いた太陽は、


「何にする?」


とメニューを開いていた。


「あっ!決まったら、せーので指さそう!」


と私が真剣に選んでいる顔を楽しそうに見つめた。私が、


「決まった。」


と言うと、


「じゃあいくよ!せーの…。」


と言う合図で食べたいものを指した。何と私達は奇跡的に同じセットメニューを指差していた。太陽は、


「僕達、気が合うね。」


と言って声を上げて今までで一番笑っていた。そして、


「すみません。」


と定員さんを呼び、注文をしてくれた。

 料理が到着するまでに私が気になったことを聞いた。


「ねぇ、今日は何を買いに来たの?」


と質問すると太陽は、


「お!寧音、僕に興味湧いて来た?」


と揶揄うように言った後、


「母さんの誕生日プレゼント!明日、母さんの誕生日なんだ。一緒に選んでよ。」


今日の買い物の主旨がやっとわかった。私は、太陽が前半に言ったことを無視して、


「それ絶対、土日に買ておけば良かったじゃん!お母さんの欲しいもの聞いてないの?」


と疑問点を聞いた。太陽は定員さんが運んでくれたハンバーガーに、


「いただきます。」


をして頬張りながら、


「聞いてない。でも、僕は土日に買わなくて正解だったと思うけどな。だって今日、寧音とデート出来て嬉しいもん。」


と状況も相待って説得力が余りないことを言った。私は、


「食べながら喋らないでよ…。」


と苦笑いをした。太陽は、


「寧音も食べよう?美味しいよ。」


と言って私が、口にするのを見つめた。私が頬張って、


「美味しい。」


と言うと安心したように、


「良かった。」


と嬉しそうな顔をした。

 それから、ハンバーガーを食べ終わった私達はお金を支払って、雑貨屋さんへ向かった。太陽と私は店の商品を一通り見た後、太陽が、


「これどう?可愛くない?」


と見たことのないキャラクターのイラストがついた水筒を持って来た。そのキャラクターは顔全体は小さいくせに、目が異常に大きく、胴体とのバランスが悪い。私は決して可愛いとは思わなかった。太陽のまさかのセンスの無さに私は思わず、声を出して笑った。太陽は、


「もー!笑わないでよ。僕は真剣に選んでいるのに。」


とムッとした顔をした。私が、


「ごめん。いや、だって、そのキャラクター何?うさぎ?」


と言うと、


「えー!どう見ても犬でしょ!」


と目を丸くして言った。私が、


「太陽、キャラクターなら女子は何でも喜ぶと思っているでしょ?」


と言うと図星をついたようで、


「違うの?」


と不思議そうに言った。私はその太陽の顔を見て更に、ツボに入り、しゃがみ込んで笑ってしまった。だって、今まで完璧なエスコートをしていた人が急にポンコツになったから。太陽は、


「寧音、笑いすぎ。でも良かった。楽しんでくれて。それに今、初めて太陽って呼んでくれたの嬉しいよ。」


と私の目の前にしゃがんで、私の頭を撫でながら言った。私はその仕草に不覚にも心臓の鼓動が早くなってしまった。何故だろう?さっき撫でられた時は何も感じなかったのに。太陽はスキンシップが激しいことわかっていたのに。

 すると私の笑い声が聞こえなくなったことを不審に思った太陽は、


「どうした寧音?また下向いてるよ。」


と私の顔を覗き込もうとして来た。私は、


「何でもない。違う店も見てみよ?」


と太陽に顔を見られないようにどうにか立ち上がった。

 それから、私達はショッピングモールを歩きまくった。結局、プレゼントには帽子を選んだ。それ一つを選ぶだけなのにかなり時間が掛かってしまった。太陽がお母さんのことを想いながら真剣に選んだプレゼントをきっとお母さんは喜んでくれるだろう。

 太陽はお支払いを終えた後、


「今日のお礼させて。」


と私をある場所に連れて行った。太陽は屋外にある机と椅子が並んだ場所で私に、


「此処で待ってて。すぐ戻るから。」


と告げて走って私の前を去った。私は椅子に座って太陽の帰りを待った。


"次はどんな笑顔で私の前に来るだろう?嬉しそうに照れを隠した笑顔かな?それとも楽しそうに顔を皺くちゃにした笑顔かな?"


私は太陽ともっと一緒に居たい。この離れた時間さえ、つまらないと感じた。

 それから間もなくして、太陽が、


「寧音お待たせ。」


と楽しそうな笑顔で戻って来た。私の横に立つと、


「ジャーン!」


と見せびらかすようにジェラートを机の上に置いた。私は今日一番、高いテンションで、


「えー!嬉しい。私この店のジェラート好きなの。」


と言った。太陽は今度は嬉しそうな笑顔をして、


「良かった!寧音、どっちが良い?」


と聞いた。私は、二つのジェラートを見比べて物凄く悩んだ。一つは、定番のバニラ味。もう一つは、チョコミント味。どちらも私の好きな味だ。私が交互に見つめていると太陽は、


「早く決めないと溶けちゃうよ。」


と言った。私は、


「えー!どうしよう。どっちも好きなんだよね。」


と言うと太陽は、


「じゃあ半分こね。」


と言って、近くにあったチョコミントを食べ始めた。私も、一口バニラを食べる。そして私は重要なことを思い出した。


「お金、後で払うね?」


と言うと、


「何言ってるの?今日のお礼って言ったじゃん。気にしないで。」


と太陽は言った。私は、


「じゃあ太陽にだけ。ママにも言っていない、私が学校に行かない理由教えてあげる。」


と言った。わかっている。こんなことを話してもお金の変わりにはならないことも、もしかしたら困らせる可能性があることも。でも、聞いて欲しかった。今まで誰にも言えなかった私の気持ちを。

 案の定、太陽は驚いた顔をした。そして一言、


「僕で良いの?」


と私が考えていたセリフとは全然違う言葉を発した。私は、


「太陽だから。太陽に聞いて欲しい。」


と言った。太陽は、


「聞かせて。」


と優しい顔をした。

 私はジェラートを食べながら全て話した。学校で今まで嫌だと感じたこと、思っていたけど言葉に出来なかったこと。不登校になって良かったと感じたことも全て包み隠さずに。太陽は相槌を打ちながら何も言わず、私の言葉を受け止めるように聞いてくれた。 

 私の気持ちを全て伝えると、生暖かい涙が私の頬を伝った。


「あれ。ごめん。こんなつもりではなかったのに。」


と思わず謝った。太陽は、


「大丈夫。謝らないで。寧音は何にも悪くないし、一人じゃない。僕がいる。」


と言って席を立って私を抱きしめた。太陽の優しさと心の温かさで私は更に泣いた。太陽は私の背中を摩りながら、


「寧音は泣き虫だな。でも大丈夫。僕が寧音を守るよ。」


と言った。私は、泣き虫と言われたのは悔しかったけど、素直なままの心で泣きたくて言い返せなかった。太陽は、


「やっぱり似てる。昔の僕に…。」


と一言呟いた。私は聞こえていない振りをして太陽の胸を借りた。

 こうして暫くの時間、そのままでいると、


「あれ?君達、小学生か中学生位だよね?こんな時間に何してるの?学校は?」


と話しかけながら近づいて来る。警察だ。太陽は、


「ごめん。寧音、走るよ!」


と抱きしめている手を離して、私の手を取って走り始めた。警察官はもちろん、


「待ちなさい。」


と言いながら追いかけて来る。私達はまるで犯罪者のように走り続けた。平日の昼間に明らかに子供の二人がショッピングモールにいることはおかしい。逆に今まで声をかけられなかった方が不自然だ。私達はとにかく必死に走った。そして、建物の影に上手く隠れて奇跡的に巻くことが出来た。

 そしてこれ以上、此処にいることは危険なので、電車に乗って帰ることにした。私達は丁度駅に停まっていた電車に飛び乗ると、顔を見合わせて声を出して笑った。太陽は、


「楽しかったね。」


と笑っていたけど、繋いだままの手は少しだけ震えていた。私達はそのまま最寄駅まで手を繋いだ。離したくない。このまま今日が続くことを願った。しかしその願いは叶わない。最寄駅に着くと夕日が差す時間になっていた。太陽は、


「じゃあね。」


と言った。私は、


「家まで送るよ?」


と言う言葉を期待したけどその言葉は聞こえなかった。太陽が手を離して私に背を向けて歩き出そうとした時、私は思わず、


「待って。」


と引き留めた。太陽が振り向くと、私は用がないのに引き留めたことに焦った。だから、


「明日から学校に行く。太陽がいるから。」


と言う言葉を口から出した。太陽は少し驚いた顔をした後、


「嬉しい。待ってるね!」


と言って背を向けて再び歩き始めた。

 家に帰ると、ママから怒られた。すぐ帰ると言ったのに夕方まで帰らなかったから。私はこれからは何処に誰と行くかちゃんと報告することを約束した。

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