幼馴染の計画は俺を失望させた
「隼人ー!」
俺の名前を呼びながら後ろから走ってきた人物に目を向ける。
「なんだ?佳奈」
それは幼馴染の麻耶野 佳奈だった。
佳奈は少し派手でギャルっぽい見た目をしている美少女だ。
そんな佳奈とは正反対で俺は教室の隅に一人で居るような陰キャだ。
きっと幼馴染という繋がりがなければ俺たちはこうやって話すこともなかっただろう。
「今日一緒に帰ろうよ!」
佳奈は元気よくそう行ってきた。
「いいぞ」
特に断る理由もなかったため俺はその申し出を了承する。
「よしっ!じゃあ帰ろ!」
そう言われて俺は慌ててカバンに荷物を詰めた。
さっきは冷静そうに対応していたが内心では心臓がバクバクと異常に速い鼓動を打っている。それはそうだろう。だって俺は佳奈のことが好きなんだから。
それがいつからだと聞かれれば直ぐに答えることは出来ないだろう。ありきたりだがずっと一緒にいるうちに段々…というやつだ。それでもこの気持ちに嘘偽りはなく本当に佳奈のことが好きだ。
だから俺は今年の高校卒業の時の卒業式で佳奈に告白すると心に決めていた。卒業までには半年ある。なぜそんな期間を開けているのかって?今の俺が佳奈に告白して仮に成功するとする。だが佳奈と俺は釣り合っているのか?否、釣り合ってなどいない。だから俺はこの半年の間に自分を変えると決心しているのである。
「そろそろ肌寒くなってきたねぇ」
佳奈は両手で自分の二の腕を擦りながらそう言った。
「そうだな」
俺はただ相槌を打った。
「あ、そうだ!今日さ━━━」
「へぇ、そうなんだ」
「それから━━━」
「え、マジで?」
「明日━━━」
「そうだっけ?」
佳奈が話して俺が相槌を打つ。それが俺たちの会話のスタイルだった。俺は口下手だ。だが佳奈が常に喋ってくれるおかげで会話が途切れることがない。こういう所が好きなんだよな。自分の惚れている相手のいい所を再確認したところで分かれ道についた。
「あ、もうこんなところ」
「ほんとだな」
「…」
「…」
少しの静寂が2人を包む。
「じゃあ私こっちだから」
佳奈がそう切り出して俺がそれに反応する。
「あぁ、また明日」
そして俺たちは別れた。
「やっぱり隼人言ってくれなかったなぁ」
一人の少女はそう呟いた。
「どうしたら私に告白してくれるのかなぁ…」
少女は脳みそを回転させる。そして1つの計画を思いつく。
「あ、そうだ!」
素晴らしい計画を思いついた少女は一人ほくそ笑んでいた。
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佳奈と帰った日から一ヶ月程たった頃、俺はかなり頑張っていた。それはもちろん佳奈と釣り合う男になるための努力だ。
具体的には勉強したりランニングしたり筋トレしたりファッションを学んだり髪を切ってみたり…
とりあえず思いつくことは全て試した。そのおかげかかなりマシになったとは思う。今まで友達がいなかった俺に話しかけて来てくれる人がいることが俺が変わったことの証明になるだろう。
よしよし、いい感じだ。このまま続けていけばそのうち…なんて思っていると想い人に声をかけられた。
「ねぇ、隼人」
「どうした?」
俺がそう返すと佳奈はこう言った。
「明日どこかに行く予定とかってある?」
ん?なんでそんなこと聞くんだ?
「明日はショッピングモールに行く予定があるが…それがどうかしたのか?」
「そうなんだ。おっけ。ありがと」
「あ、あぁ」
それだけ聞くと佳奈は俺に背を向けて歩き去ってしまった。
なんだったんだ?
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そして次の日、俺はショッピングモールに来ていた。家で無くなった日用品を買うために。
俺が30分ほどショッピングモールを回っていると見覚えのある後ろ姿を見つけた。佳奈だった。
「おーい。か、な…」
声をかけようとしたが最後までセリフが出切ることはなかった。なぜ途中で声が途切れたのかって?それは意図的に止めたわけではなかった。目の前の光景を見て自然と口から声が出なくなったのだ。
佳奈が学校で一番イケメンと言われている佐竹と腕を組んで歩いていたのだ。
「…なんだ。彼氏居たのか」
自然と口からそんな言葉が零れた。不思議と恨みや妬みはなかった。まぁ相手が相手だからな。片や学校一と言われているイケメン、片やちょっと前までただの陰キャ。だれがどう見てもお似合いなのは佐竹と佳奈だ。誰も俺なんか選ぶはずがない。
そうかぁ…ダメだったかぁ…
あれ?なんだか頬に生暖かいものが…おかしいな。別に恨んでなんていないのに、妬んでなんていないのに。どうして涙が出ていのだろう?
その後の記憶は曖昧だった。母さんに言われていた日用品が買えていなかったのか家に帰ったら母さんが何か言っていた気がするが何も耳に入ってこなかった。
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あの光景を見た日から一ヶ月。俺は佳奈と距離を置いていた。当たり前だろう。誰でも付き合っている彼女が他の男と仲睦まじく話している所を見たら気分が悪くなるからな。それに俺は佳奈の恋を応援しているんだ。俺が原因で佳奈が不幸になるようなことは避けたい。
距離を置いたこの一ヶ月、何故か佳奈からの視線が多かった気がするがきっと未練がましい俺がただ勘違いをしているだけだろう。
まぁ、あの光景を見てから悪いことばかりが起っていた訳では無い。佳奈と距離を置いたおかげか仲のいい女友達が一人出来た。その子はとても地味だが話が合う。きっと俺がもと、と言うか陰キャだからだろう。波長が合う…
昼休みになり俺は図書室に向かった。扉を開け中を見渡すと一人の少女が椅子に座って本を読んでいた。
「波舞さん」
「あ、紅羽君。ここに座って」
そう言われた俺は波舞さんの隣に座った。
波舞 優香さん。彼女は大きくて飾り気のない黒縁メガネをかけていてポニーテールの黒髪。典型的な地味っ子である。だが俺はそんなことで波舞さんを差別視するようなクズじゃない。むしろ話が合って波舞さんとの時間はかなり楽しい。
「ありがとうこの本」
そう言って俺は一冊の本を取り出し、波舞さんに手渡した。
「あ、もう読んじゃったの?早いね」
そう言った波舞さんは何故か嬉しそうに口角を上げていた。
「めちゃくちゃ面白かったよ。さすが波舞さんが勧めてくれた本だね」
「あ、ありがとう…」
波舞さんは頬を赤らめて俯いてしまった。うーん、可愛いなぁ…
波舞さんは特に美人と言う訳では無い。本当に特徴がないと言うのが特徴だ。でも…可愛いだこれが。実際俺の心はかなり靡いていた。
でも一歩踏み出せないのは佳奈のことが心につっかえているからだ。俺はまだ佳奈のことが好きなのだ。彼氏といるところを見てしまったからといってスッパリと割り切れるほど俺はあっさりした性格をしているわけではなかったらしい。この気持ちはいつか無くなるんだろうか…
そんなことを思っていたその日に佳奈が話しかけてきた。
「…ねぇ、隼人。今日一緒に帰らない?」
「…いや、遠慮しとくよ」
俺はそう言ったが佳奈は引き下がらなかった。
彼氏いるのになんで俺にそんなこと言ってくるんだよ。おかしいだろ。
「お願い、今日だけでもいいから」
その時の佳奈はいつものようなふざけた雰囲気がなく真剣だった。
「…分かったよ」
結局了承してしまった俺もやっぱりおかしい。恋は人をおかしくしてしまうらしい。
学校が終わり2人で並んで帰路についていた。
「…」
「…」
沈黙の時間が続く。気まずい。前までならこんなこと無かったはずなのにな。
「ねぇ」
それでもやはり最初に話すのは佳奈だった。
「どうして最近、私の事避けてるの?」
気づいてたか。まぁ当たり前か。一緒に帰ろうと誘われた時、すべてに何か理由をつけて断っていたからな。
「どうしてって、佳奈、彼氏出来たんだろ?そりゃあ今まで通り仲良く、とはいかないだろ」
「…どうして?」
「え?」
何がどうしてなんだ?
「どうして隼人は私に告白してこないの?」
「なに、言ってんだ?」
言葉が少し詰まってしまった。彼氏持ちの女に告白する?そんなの倫理的にダメだろ。
「私は隼人のこと好きだよ?だからわざわざあの日ショッピングモールに好きでもない佐竹君と腕を組んで見せびらかして隼人を嫉妬させようとしてたのに。それで焦った隼人に告白してもらおうと思ってたのに」
「は?じゃあ佐竹とはどういう関係なんだ?」
「佐竹君にはあの日の何日か前に告白されてたの。それでその作戦を思いついたから告白を受けてショッピングモールで買い物し終わった後に振ったよ。だから佐竹君とは何にも無いの」
その言葉を聞いた瞬間、心の中のつっかえが取れた。もう心の中に佳奈を好きだという気持ちは完全に無くなった。
「お前、人として終わってるな」
「え?は、隼人?」
佳奈が困惑したような声を上げた。
「お前佐竹の気持ちを考えたことがあるのか?」
「佐竹君の、気持ち…?」
「お前は今、俺のことが好きだろ?」
「うん。好きで好きでたまらない」
「お前を佐竹、俺をお前に置き換えてこれからの話を聞け」
そして俺は話を続ける。
「佐竹はお前のことが好きだから告白してきたんだ」
「私は隼人のことが好きだから告白した…」
「それでお前は計画のために佐竹を利用した」
「隼人が計画のために私を利用した…」
「そしてお前は利用して用済みになった佐竹を捨てたんだ」
「用済みになった私を隼人が捨てた…」
そこまで話すと佳奈は少しだけ考える素振りを見せてハッとしたような表情になった。
「わ、私、最悪なことした…?」
「そうだ。お前は人として最悪なことをした。そんなお前を俺が好きになるわけないだろ」
「い、嫌だ!私は隼人のことが大好きなの!」
「俺は好きでもない男と腕を組んで歩くような女は嫌いだ」
そう言って佳奈に背中を向けて歩き出した。
明日、図書室で本を読んでいる彼女に告白しよう。
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「あ、あぁあぁあああ…」
私は、私はなんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。佐竹君の気持ちを踏みにじって利用した。その挙句用済みだからと捨てた。今になって別れを切り出した時の彼の表情が脳裏に浮かんだ。いきなりのことで理解が追いついていないながらも必死で私との糸を繋ぎ止めようとしている彼の表情が。
でも私は彼を捨てた。そして隼人に好かれようとした。当然こんな私を隼人が好いてくれるはず無かった。あっさりと振られた。嫌いだとさえ言われた。
私のしたことはなんだったの?人として終わっている。そんなことにさえ気づかないほどに私はおかしくなっていた。
どうして私は気づけなかったの?
どうして私はそんなことをしてしまったの?
どうして私はそんな人間になってしまったの?
後悔が身体中を駆け巡る。やり直したい。佐竹君にはちゃんと返事をした上で隼人に告白したい。好きだって伝えたい。でももうそんなことは許されない。
いや、だぁ…まだちゃんと伝えてない。伝えられてない。この感情を、気持ちを、言葉を。
「隼人…すき…だいすき…」
私の口から零れたその言葉は冬の風に溶けて消えた。
なんだか短編はこんな話ばかりになってしまい申し訳ないです…
でも!でも!好きなんですよ!こういう話が!なので定期的にこういう話を投稿するかも知れません。
その時はよろしくお願いします!