禁断の海藻(創世記)
主なる神は御自分にかたどって人を創造された。男と女に創造された。
主なる神は人を連れて来て、エデンの園に住まわせた。人がそこを耕し、守るようにされた。
主なる神は人に命じて言われた。
「園に面する海の海藻を取って食べなさい。ただし、赤く光る昆布は、決して食べてはならない。あれは禁断の海藻である。食べると必ず死んでしまう」
主なる神が造られた海の生き物のうちで、最も賢いのは海蛇であった。海蛇は女に言った。
「園に面する海の海藻を食べてはいけない、などと神は言われたのか」
女は海蛇に答えた。
「わたしたちは園に面する海の海藻を食べてもよいのです。でも、赤く光る昆布だけは、食べてはいけない、触れてもいけない、死んではいけないから、と神様はおっしゃいました」
海蛇は女に言った。
「決して死ぬことはない。それはとても良い味なので、神は独り占めしようとなさっているのだ」
女が見ると、その昆布はいかにもおいしそうで、いい香りが漂っていた。女は昆布を取って、一緒にいた男に毒見するよう手渡したので、彼は食べた。女はその様子を見てうつむいてしまった。
その日、風の吹くころ、主なる神が園の中を歩く音が聞こえてきた。男と女は主なる神を避けて、園の木の間に隠れると、主なる神は男を呼ばれた。
「どこにいるのか」
男は答えた。
「あなたの足音が園の中に聞こえたので、恐ろしくなり、隠れております」
神が言われた。
「出て来られ」
男と女はそれに従った。
神は男を見て言われた。
「取って食べるなと命じた昆布を食べたのか」
主なる神は全てをご存知であった。
男は答えた。
「女が海から取って与えたので、食べました」
神は女に向かって言われた。
「何ということをしたのか」
「海蛇が騙したのです」
主なる神は海蛇に説教をした。そして神はため息をつき、砕けた口調で男に言われた。
「自分、何で食べたん。禁断の果実の時に、あれ程言うたやん。ホンマ分からんやっちゃな。学習せえよ」
男は答えた。
「でも、食べたわたしは死にませんでした。禁断の果実(林檎)を食べた時には、喉仏が出来ました。今回はこの通り、何も起こっておりません」
主なる神は言われた。
「髪や。髪が可笑しなっとんねん。よう見てみい」
男は湖におのれの髪の毛を映して見た。そこに映っていたのは、くるくるとうねり、広がった髪の毛だった。男は、もともとサラサラで艶やかな髪質であっただけにショックを受けた。
「な、何だこれ?何が起こったというんだ」
「だから食べたらアカンって言うたやん」
「神よ、お助け下さいませ」
「いや、知らんがな。自分が悪いんやん」
「そんな事言わず。どうかわたしを見捨てないで下さい。救いをお与え下さい。救いの言葉を」
主なる神は言われた。
「じゃあ、くせ毛を活かした髪型にしてみたらどやろ」主なる神は、うねった髪の毛を『くせ毛』と呼ぶ事にした。
「…と、言いますと」
「毛先を遊ばせてみるとか…動きを付けた無造作ヘアーって言うの」
「ああ、なるほど…」
それから、数年が経ち、男と女は子を授かった。恐ろしい事に禁断の海藻のパワーは子にまで及んでいた。男の血を多く受け継ぐ子はくるくるとうねったくせ毛であった。とくに湿気が多い日は、スタイリングが思うように決まらず、苦戦する事になるのであった。
その天罰は、代々受け継がれ、現在まで続いている。クセ毛、天然パーマで悩む者、これは原罪に由来するのである。
(参考「聖書・創世記」)
終