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小学校高学年のこと。
「お前、陽花と茜のことが好きなんだろ?」
「違う、あの2人とは話すだけの関係」
「おいこいつ、あの2人と付き合っているんだってさ~」
違うと言っても、周りの連中は明の言葉を聞いてくれず、自分達の望みたいように解釈をしてあちこちに大きな声で偽りのことを話し始める。本当のことを知らず、どいつもこいつも内容を好き勝手に変えて話を拡大していった。
当然1人でその噂をもみ消すのは到底不可能で、更に違うと言っても、それを見た他の連中は面白半分でまた違う話を学校内にまき散らす。
それを知った2人も当然他の有象無象に囲まれて話をするように催促されていた。
「そんなことはない」
「あいつとは少し話すような関係で、全くそういう恋愛な話はないよ」
2人とも否定してくれた。
しかし連中はそんな彼女たち2人が照れていると判断して、またありもしないことを噂にしていった。
同学年のみならず、朝一緒に登校するときに行く班の中にも当然その話が出てきた。
いくら違うと言っても、この時の明は比較的交流はしていたが、それもあまり無害な人と接していて、しかも学校での暇な時間を潰す程度に話すような関係だったから、そこまで親睦は深めていなかった。
親睦を深めていなかったのも問題があったかもしれないが、もっと面倒なことがあったからだろう。
学年で人気のある男子・女子に、明は2人をストーカーしているという全くのデマを流された。陽花と茜はそれを否定したが、女子2人で、男女多数人を相手にするのは想像しているよりも面倒でしんどくてつらかったのだろう。
2人とも最初は明を庇うような立ち位置でいたが、時間が経つにつれて明から少し距離を取っていた。明は2人に助けを求めたが、2人もこれ以上反応するとまた面白がられて面倒なことになる。だから明と距離を取ろう。
本人達から言質を取ったわけではないので、明の想像の話でしかないが、おそらくそのような考えになったのではないかと思っている。
学校でも、学校外でも遭遇した時は、すぐに目を逸らされてそれ以上交流は無かった。
茜の方は、少しだけ話をしたが、挨拶程度の関係だ。それ以上に特に話をすることはなくなった。
このまま近くの中学校に行っても、どうせこのことでさんざん面倒ごとになる可能性が高い。そう考えた明は少し離れた中学校に通うために少し出遅れることになった受験勉強を開始する。
しかし受けようとしていた学校は、明の学力では厳しいもので、このままだと受かる可能性は決して高くないと言われた。途方に暮れていた明に声をかけたのは茜だ。
茜もどうやら受験をするらしく、空いた時間に勉強をして受験に備えていたらしい。明が勉強に困っていると茜に言ったら、茜は明の家でなら勉強を教えても良いと言ってきた。
遠慮しようと思ったが、もし茜に助けてもらえるなら塾の費用も無くなるし、いいかもしれないと思ったが、茜の勉強の足を引っ張ってしまうと断ることに。
本音を言うと、正直気まずかったからだ。
茜にそのことを伝えると(気まずいという部分は伏せて)、茜も少し気まずそうに返事をしてから帰っていった。
茜とは少し連絡を取るようになったが、陽花とは全く交流は無くなった。
そして受験日。指定された席に座って試験が始まるまで待つ。周りの生徒のことなど、全く関心が無かった。
いや、関心を向けないようにしていたのかもしれない。
試験官がやってきて「はじめ」というと、全員問題用紙を捲り、筆記用具をカリカリと動かしている音が聞こえた。
明はそんな音が全く聞えないくらいに集中して解答用紙に鉛筆を走らせる。
試験が終わって、家に帰っている途中の心の中は結構焦っていた。
後で渡された解答集を見てみると、自分が書き込んだ答えが(全教科の答え)52%くらいしか合っていなかった。なんとも言えないラインだ。そのドキドキのせいで他に何も考えられないでいると、いつの間にか知らない公園に来ていた。
小さな公園に、簡易ステージを作って歌って踊っている小さな女の子が1人。その子の周りには、その子と同じくらいの体格の男女が楽しそうに手を振っていた。その子達に応えるように、ステージで歌って踊っている女の子も手を振り返す。
明はそれをなんとなく見ることにした。近くのベンチに座って、ステージの上にいる女の子を見続ける。その子は楽しそうにしていたが、所々泣きそうな顔になっていたような気がした。
ステージも終わり、その子は簡易ステージを畳んで荷物を持ってどこかに行ってしまった。見ていた子供たちは残念そうに声を上げていたが、すぐにまた違う遊びをしていて、まるであの子が最初からいなくなったかのようにはしゃぎ始める。
ここにいてもやることはない。家に帰ってゲームでもして寝ることにした。
合格発表日。起きて受けた学校に行って、自分の番号を確認しながら張り出されていた番号を見る。
無かった。
その時に思った感情は、何も無かった。ただ落ちていた。その事実確認をしただけで、特に悔しいとか、苛立ちとか何も無かった。何も感じなかった。
番号も確認したことだし、とりあえず帰ろうかと方向転換すると、そこには見覚えのある2人が。1人が1人を慰めるように頭を撫でている。
1人と目が合う。どうしようかと思ったが、その1人は明が行動を移す前に明の元にやって来た。
「受かった?」
「落ちた」
「2回目受けるの?」
「そのつもり」
「じゃあ今日から私の家に来なさい。陽花も呼ぶから」
茜は泣いていた陽花の元にもどる。顔を下に向けていた陽花は泣き顔で茜に抱き着こうとすると、明と目が合った。
泣き顔とびっくりした顔が混ざっていたが、秒で明から目を逸らす。明も目を合わせたくなくて陽花から目を離す。それを見た茜は
「2人とも、泣くのは後。今はとにかく対策をするよ」
「なんの話」
明がそういうと茜は真剣な顔で
「私だけ入学をしても意味がない。2人とも受かってもらうよ」
陽花はその言葉にびっくりして明を見ている。どうみても歓迎している目ではなかったが
「陽花。いいよね」
「………」
陽花は無言で首を縦に振った。
「霜月も、問題ないよね」
「いや…」
「問題ないよね」
「ないけど…」
「じゃあ決まり。すぐに勉強道具とこの前受けた試験問題を持ってきて」
そんなこんなで茜と陽花の家にお邪魔することに。
初めて女の子の家に来た用事が、受験を乗り越えるというのはどこにでもあることだろうか。
場所は茜の部屋。1人部屋に3人は少しきつかったようで、少し狭く感じる。
茜はそんなことを気にせず、陽花と明の問題用紙に書き込んだ文字や線を見て1人でブツブツと言った後に、それぞれ何をするべきか教えてくれた。
陽花は茜と話すときは、嬉しそうだが、明とは目も合わせなかった。
それから1人と1人が1人に頼り、迎えた再試験日。
問題の難易度は1回目よりも上がっている。出された問題に顔をしかめながらも鉛筆の動きを止めないで、答えを書き込んでいく。
微妙な手ごたえで試験を終えて、後は結果発表を待つだけ。
試験が終わって、学校付近で待機していた茜と遭遇していまう。茜に家に来ないかと言われたが、茜の後ろにいや陽花の目が明らかに嫌悪感を出していた。
明も2人とあまり一緒にいたくなくて、断る。
茜は何度も明に声をかけていたが、それを陽花が遮るように止めて、そのままどこかに行ってしまった。明も家に帰ろうとしたが、あの公園でステージをしていた女の子を思い出す。
家に帰っても、楽しいという気持ちがなく、無気力にコントローラーを動かしていそうだ。それよりは、歌って踊って楽しんでいる1人の女の子を見た方が、精神的に癒されると思い、公園に足を向ける。
公園に着くと、その子はいた。だけどステージをしているわけではなく、近くのベンチで本を読んでいる。
…なんだ、ステージをしていないのか。ステージをしていないのに、ジロジロ見たら通報されかねない。明はその場から離れて、近くのゲームセンターで気晴らしをすることにした。
ゲームセンターから帰って寝て、結果発表日。
2人とは一緒に行かず、1人で確認をしに行く。
あの2人が受けていることを知った今、受かっていてほしいのかそうでないのか自分でも分からなかった。
受かっていれば少なくとも茜と一緒に学園生活を送ることになる。
落ちていれば近くの中学校で、またうるさくて目障りな人たちと3年間を一緒にしなければならない。
受かっていたらそれはそれで、茜の存在が嫌でも目に行くだろう。
そんな矛盾だらけの気持ちがグルグルと胸の中で駆け回る。
番号を確認すると…自分の番号と同じ番号が掲示されて
いた
なんとか受かったようだ。
その日は2人とは会うことはなく、1人で家に帰る。この時はあの女の子のことを思い出さず、少しだけ気持ちが軽くなっていた。その日は寝落ちするまでコントローラーをガチャガチャ動かしていて、気が付いたら外は明るくなっていた。
そんなこんなで入学式までは特にこれと言って何もしなかった。ゲームをしては寝て、漫画を読んでは寝て、絵を描いては寝て、ご飯を食べては寝て、トイレに行っては寝てと繰り返していた。
小学校では、あの2人と顔を合わせることになっていたが、あの2人は明とは話をしなかった。茜は時々目を合わせてくれたが何も言わず、陽花は目も合わせず何も言わなかった。
そのころには、クズどもの興味は中学校に向けられていて、3人については全く興味がなさそうに話をしていた。
卒業式を終えて、すぐに帰宅しようとしたら茜に声をかけられる。茜1人だ。
「受かったの?」
「受かったよ」
「陽花も受かったって」
「そうか」
「…」
「終わりか?」
「…その…」
「?」
「…これから…、いや、なんでもない」
「そう」
「私帰るね、じゃあね」
「うん」
茜は学校に戻っていった。
対して明は学校を出て行く。
背中にある学校を見ることなく、そのまま前を向いて歩いて帰った。
「えぇ…ではこの問題を…霜月。解いてみろ」
ぐすぅ…
明は突っ伏して寝ていた。
「霜月」
すやぁ…
「霜月」
「ん…ん?」
誰かに呼ばれているようで、フラフラと頭を上げると、そこにはニコニコ顔で教科書を丸め込んでいる教師の姿が
「霜月、さっきの私の質問を答えてみろ」
「すいません、聞いていませんでした」
「廊下に立っていろ」
「はい」
抵抗しないで、大人しくいう事を聞いて廊下に出ようとする。視線は当然出る扉に向かうわけで、扉の近くにいる生徒の顔が嫌でも目に入る。
クラスメイトは面白そうに笑っていた。しかしその笑っている顔も、廊下に立った瞬間忘れるだろう。扉を閉めようと、身体の正面を扉に向けてドアノブを捻ろうとするとあの2人の姿が目に入った。
1人は明を全く見ないで、ノートにシャープペンシルを走らせていて
1人は明を見ないで、外を眺めていた。
授業が終わるまで、廊下に立っていた。
授業終了のチャイムがなって教室に戻ると、さっきの先生から怒られる。それを適当に受け流し、席に戻ると、教室では比較的話す友人がやってきた。
「寝不足?」
「多分な」
「なんかうなされていたけど」
「…そうなの?」
「うん」
「…なんでだろうな」
「僕が知るわけないだろ。何か嫌な夢でも見たのか?」
あれが嫌な思い出なのかどうか…断言はできなかった。
「変な夢を見ていたような気がしたけど、忘れちゃった」
「夢なんてそんなもんだよ」
友人は大して面白くもない話を、笑いながら話す。
それだけのことでも、明にとってはかなり楽に接することが出来る。
そのまま次の授業までもどうでもいいことを話しながら時間を潰していた。