世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜
「良く来たな人間」
え〜〜〜〜っ!!!!
魔王!? 何でこんな所に〜〜!!!
魔王は驚く男達に、給仕服姿で尊大にそう告げた。
えっ? ここ魔王城じゃないよね? いくら俺が抜けていても流石に間違えないぞ。
男が抜けているのはいつもの事だが今回ばかりは男の間違いではない。
そう、ここは町の料理屋である。決して魔王城などではない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
世界は魔王率いるとする魔王軍と神の加護を受ける勇者率いる人間軍に2分され、絶え間無く戦いが起こる戦乱の世の中だった。
3日前までは。
そんな世を終わらせたのは、一騎当千の英雄でも、戦略級の魔法を使う賢者でも、四肢の欠損すら治す聖女でも、人間の最高戦力である勇者でも無く、1人の町娘であったという。
世界中が恐怖する、この世界での恐怖の象徴である魔王。
魔王は1つの殲滅魔法で都市1つを消滅させたという。まさしく人間にとって最大の敵である。
何とこの者が恋に落ちたという。
それがこの町の料理屋の娘だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここが評判の料理屋だ」
「へ〜、ここが。楽しみっす先輩」
「じゃあ、入るぞ」
「うっす」
「お、ちょうど1組み出て来たぞ」
その客は男達を生暖かい目で見てきた。
男達は少し首を傾げて店に入った。
ガラガラ
「店員さん2人だ」
男は近くにいた店員にそう告げた。
するとその店員は店員にあるまじき尊大な態度でこちらにやって来た。
てゆーか、頭の両脇から角生えてない? しかも、なんか戦場でも無いのに強者と対峙した時の様な震えが止まらないんですけど。
それになんか見た事あるんだよなぁ。
不審に思う男をよそに、その店員は男達に告げた。
「良く来たな人間」
……
そして冒頭に繋がるわけである。
そして魔王は尊大な態度はそのままに男達に告げた。
「現在は満席だ。そこの席で待ち給え」
「え? あ、はい」
男達2人は黙って待合用の席に座った。
あれ? 普通に接客してる? 態度はあれだけども。と首を傾げながら。
『先輩、ヤバいっすよ! 何でこんな飯屋に魔王がいるんすか?』
『知らん! 俺が聞きたいよ』
男達がヒソヒソ話をしていると奥から女の店員がやって来た。
そして、
スッパーん!!!
なんとその女の店員は魔王の後頭部をハリセンですっ叩いた。
え〜〜〜〜っ!!!!
魔王でしょ!? あの女店員マジ? え? 何? 勇者なの?
「何だ、我が嫁レストラよ。しっかり接客しているではないか」
「だ・か・ら! 魔王さん! 何回も言ってるじゃない! お客さんを威嚇しちゃダメ!」
嫁〜〜〜〜!!!!! 嘘だろ!?
「しかしだな、余はこれでも赤子を抱くかの様に威圧を抑えておる」
「でもまだ強いの! それに口調を直してって言ってるでしょ!」
「ふむ、口調については生まれて此の方こうであるからな。許せ」
スッパーん!!!
再び女店員のハリセンが炸裂した。
この店どうなってんの?
「いい? 魔王さん。お客様は神様なの」
「ふむ。神、であるか。余にとっては最大の宿敵。最も討ち果たすべき相手であるな」
「……」
「はははは、レストラよ。流石の余も客に向かっていきなり殲滅魔法は撃たんぞ。レストラよ、少し常識と言うものを学んだ方が良いのではないか?」
スッパーん!!!
魔王は女店員に首根っ子を掴まれ、そのまま奥に引きずられていった。
もう、あの女店員が世界最強なんじゃね?
『先輩、この店大丈夫なんですか?』
『……、わからん。でも流行ってるのは確かだし、評判通り味はいいんじゃないか?』
しばらくするとまた魔王がやって来た。
「では、席が空いた。案内しよう」
魔王が言うと地獄にでも案内されるのかと勘違いしていまうが、普通に窓際の席に案内された。
「注文が決まったら、余を呼ぶがいい」
「は、はい」
魔王はお冷を置いて下がって行った。
いや、怖いよ!!!
その笑顔、完全に捕食者のそれだよ!!!
「まぁ、いいか、とりあえずメニューを見よう」
「そうですね」
メニューはスパゲッティが中心のようだ。
「先輩こっちにもメニュー載ってますよ。オススメって書いてあります」
「へ〜、どれどれ」
オススメメニュー
●オークのソテー ガーリック風味
●クラーケンのバター焼き
「ぶっふぅ〜〜!!!」
男は飲んでいたお冷を吹き出した。
いやいやいや、オークもクラーケンも魔王軍にいたやつだぞ!
確かに人間の中ではそれなりの高級食材だけど大丈夫なのかよ!
「じゃあ、僕はオークのソテーにします」
こいつは何も考えてないのかすんなりとオススメメニューを選んだようだ。
ええい、なら俺もオススメメニューにするぞ。
男は最前線に赴く時以上の緊張感を持って店員を呼んだ。
「店員さん」
「暫し待っておれ。すぐに向かおう」
そして店員がやって来た。
「オークのソテー1つ、と先輩は何にします?」
「お、お、俺はクラーケンのバター焼きで」
男の緊張は最高潮だ。
「ほほう」
店員は怪しく笑った。
やっぱりマズかったか。男は額に冷や汗を流す。
「オススメメニューを選ぶとはお目が高いではないか。ふはははははは、その2つは絶品である。心して待つがよい」
え? そんな感じ?
男は呆気に取られつつ、ほっと胸を撫で下ろした。
「レストラよ。オークとクラーケンである。疾く用意せよ」
「は〜い」
そう言って店員は奥へ引っ込んで行った。
「楽しみですね、先輩」
「お、おう」
まったくこいつは呑気なものだ。
男はやれやれと溜息をついた。
スダン!!!
ズダン!!!
それにしてもさっきから変な音が聞こえるのは何なんだ?
男は不思議に思いながら料理を待った。
待つこと数分、店員が料理を運んで来た。
「クラーケンのバター焼きとオークのソテー ガーリック風味である。至高の料理に平伏すが良い」
ズダン!!!
その魔王の言葉と同時に男達は床にへばりついていた。
「おっと、しまった。また言霊に力が乗ってしまったか。失敬、人間。早く起き上がり冷めぬうちに食べ給え」
そう言うと魔王は奥へ下がった。
奥からはハリセンの音が聞こえる。
男達は起き上がって席に着き直した。
さっきまでの音はこういう事かよ。失敬じゃねぇよ!
「先輩、この店は変わったアトラクションをするんですね」
「……」
こいつはこいつで馬鹿が天元突破している。
男は目を瞠いていた。
「どうしたんですか先輩? 早く食べましょうよ」
「……ああ、そうだな」
男達はともかく食べ始めた。
「うっま!!!」
「うん、確かに美味いな!」
確かにこの味なら流行るのも頷ける。
男は1人納得しながら味を噛み締めた。
「いや〜、美味かったですね、先輩」
「ああ、美味かったな」
そこに店員が皿を下げにやって来た。
「どうであった? 美味であったであろう?」
「ああ、美味かった」
「そうであろう、それは重畳」
店員は満足そうだ。
「1つ聞いてもいいか?」
「む? 良かろう、質問を許す」
「ああ。あんたは魔王だよな?」
「ふむ。元、だな。今はウエイター見習いである」
「そ、そうか。そのあんたがオークやクラーケンを出すのに抵抗はないのか?」
「ふむ……」
男は背中に大量の汗を流していたが、どうしても聞いてみたくなったのだ。
魔王は少し考えて答えた。
「お前達人間は戦時には馬を駆るな?」
「ああ。そうだな」
「だが、人間は馬を食べることもあろう?」
「あっ」
「わかったか。その様なものだ」
そう言って店員は皿を持って下がって行った。
なるほど、人間にとっては脅威であるオークやクラーケンも、魔王にとっては馬、か。
男は少し目を閉じた。
「じゃあ行くか」
「はい。また来ましょう先輩。僕は今度はクラーケンの方食べてみたいです」
「そうだな。また来るか」
男達は立ち上がってレジに向かった。
対応は魔王だ。
「オークとクラーケンで2,000ゴールドである」
「はいよ」
「確かに。献上大義である」
「そんな大袈裟なもんじゃねぇけどな」
「ふははははは、また来るが良い」
「ああ、そうさせてもらうよ」
男達は店を出た。
男達と入れ違いで別の客が入って行く。
男達はそれを生暖かい目で見つめるのだった。
しばらくすると、
スッパーん!!!
店内からハリセンの音が響いてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
3日前、とある人間の領地が魔族に侵攻され、占拠された。
「ふむ、此度も皆よく働いてくれた。負傷者も少なく済んだのは重畳である」
魔王は捕虜となった人間を見渡す。そして、とある娘が目に止まった。
「美しい……」
魔王は雷に打たれた様な衝撃を受けたという。
そう、ビビっと来たと。
魔王はその娘を自分の天幕に呼び寄せた。
この時点で、魔王の心拍数は急上昇していた。魔王は勇者と戦う時以上に緊張していたのだ。
なにせ、まともに女と話したことすらない。
もちろん配下に女もいるが、そこに恋愛感情はカケラもない。
魔王はカラカラに乾いた喉をどうにか潤す様に唾を飲み込んだ。
そしてようやく娘に話しかけたのだ。
「な、な、汝、名を何と申す」
「魔王様、私はこの町の料理屋の娘でレストラと言います」
「ふむ、レストラよ。率直に言う、余の妻となれ」
魔王は恋愛経験ゼロ。駆け引きなど無しに、絶対的強者として振る舞った。
しかし、これは思いの外成功する。
「え、え〜〜〜〜? いや、確かに魔王様はお強いし、それに。……イケメンだし。嬉しいです」
「そうか、余はイケメン、であるか。その様な忌憚の無い意見は面映いものがあるな。では、これからは余と共に来てくれるか?」
魔王の顔は真っ赤である。
「ただ、すいません。私は、お父さんが残したお店をこれからも守っていきたいんです。ですから、魔王様のお気持ちは嬉しいんですが、一緒に付いて行くことは出来ません」
魔王は思わず顔をしかめる。
「であるか。ではどうすれば良い? 余はお主が欲しいのだ」
「そ、そんな。魔王様。ほ、欲しいだなんて」
今度は娘の顔が真っ赤である。
「魔王様、もし、もしですが、可能であれば私の所に婿入りなんて出来ませんか?」
魔王は眉を顰める。
「そ、そ、そうですよね。魔王様が婿入りなんて出来ないですよね。すいません。ただ、魔王様と一緒に働けけたら、凄く楽しいだろうなって。へへ」
この時、魔王はこの娘と料理屋で働く様を想像してしまった。
そして思った。悪くない。いや、良い! と。
「……、わかった。お主の元に婿入りしよう。魔王軍は今日限りで解散だ」
「え〜〜〜〜!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
斯くして、世界に平和が訪れたのであった。
とある料理屋は毎日台風の様に騒がしい日常が始まったそうだが。
「だから、ま・お・う・さ・ん!」
「はははは、それくらいは許せ」
スッパーん!!!
今日もその料理屋からはハリセンの音がよく響く。
「おもしろかった!」、「続きが気になる!」という方は、
下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて行ってください。
おもしろくなかったという方は、★☆☆☆☆〜★★★★☆でお願いします。
ブックマークや感想もお待ちしています。
P.S. 長編も投稿しています。
『神の使いの魔王 〜ドラゴンに育てられた少年は自由に生きようと山を下りたら魔王に祭り上げられたので、仕事は配下に丸投げしてスローライフを目指します〜』
広告下にリンクがありますので、こちらもよろしくお願いします!!!